[雑伊]がまんしないで
あれ? と伊作は思った。
昨年に雑渡の家の合いかぎを渡され、しかしそれは結局一度もつかわれぬまま、伊作の自宅の机の奥にだいじにしまわれ、彼のお守りと化していた。
そうこうしている間に互いに忙しくなり、雑渡の家に遊びにいくことすらままならなくなった頃。紆余曲折を経て、伊作は自身の誕生日に初めて雑渡に抱かれた。
そうしてまた会えない日が続き、ある日もじもじと雑渡に切り出されたのは、一緒に住まないかという提案だった。
年度初めの忙しい互いの仕事の合間を縫ってふたりで新居をさがし、引っ越しを終えて荷解きや整理も仲睦まじく終えたところまではよかった。
なんとなくだが、雑渡がそっけない気がする、と伊作は感じていた。以前はそれぞれ別の家に住み、仕事が休みの日が合うこともめったになかったために――たとえ休みが合ったとして、毎度もれなくデートできるわけもなく――ふたりが会える日は限られていた。
しかし同じ屋根の下で暮らす今は。以前よりもはるかに共有できる時間が増えたはずだ。にもかかわらず、雑渡がつれない。
伊作は引っ越し当日の出来事を思い出す。ガス会社の係員が到着するまで湯が出ない中、先んじて電気は通っていたので暖房だけはつけられた。天候に恵まれた春の休日だったが、とはいえ、ものがない家は冷える。いつもより早起きをして、昼食をまだとっていなかったことも関係しているかもしれない。ちょっとさむいですね、とこぼしながら伊作は荷解き作業を、雑渡はカーテンレールに真新しいカーテンをかける作業をしていた。そして、カーテンかけ終わったよ、という声にふりむいたそのとき。伊作は前触れなく、雑渡にキスをされた。触れるだけのそれはごく一瞬で、雑渡はすぐに離れたが、ふいとそらされた目元と耳が真っ赤だった。
『ざっとさ、』
呼びかけたところでインターホンが鳴ってしまったので、伊作は慌てて廊下にかけていき、雑渡は家具の組み立て作業に着手した。こんな日々がこれから続くのだと、伊作はガス開栓作業に立ち会いながら、気が気でなかったのだが。
予想に反して雑渡は、伊作と同じ空間で、しかしある一定の距離を保ちながら静かに日々を過ごしている。居間や風呂場で繰り広げられるかもしれないあれやこれやを想像していた伊作は自らの浮かれた思考を恥じた。何かの見すぎ、あるいは読みすぎかもしれない。
あんまりにもなにもないので、伊作はなにか雑渡の機嫌を損ねるようなことをしただろうかと心配したのだが、それは杞憂に終わった。
なぜなら雑渡は、閨では口数が少ないながらも情熱的に伊作を愛したからだ。伊作の耳元で彼の名を呼びながら熱い息をもらし、伊作の全身をくまなく愛撫する男は、それこそ休日の昼間に居間のカウチで本を読む雑渡とは別人であるかのようだった。
そうか、と伊作は思う。雑渡は居間と寝室とで、オンオフを切りかえているらしい。むかしかたぎの、クールなおひとなのだな、と解釈することで伊作は自らを納得させた。
スキンシップが少なくとも、雑渡が伊作にやさしい眼差しを向け、伊作が雑渡の名を呼べば、なあに、伊作くん、とやわらかく笑む点は以前と何もかわらない。伊作はそのうちに、当初の拍子抜けをだんだんと忘れていった。
*****
新しい生活にも慣れてきた初夏。いつも適当に自宅近くの理容室で散髪をしている伊作が、めずらしく自身の休日をつかって、少し遠くの美容院へ赴いた。仙蔵の紹介で、金髪の美容師がなかなかの腕前だからというので、ものは試しでいってみることにしたのだった。なんでも仙蔵の後輩の同級生であるが帰国子女で、齢は仙蔵や伊作と同じらしい。「善法寺さん、お手入れは怠っているみたいですけど、色も質感も、似合ってます。地毛なんですねえ」とにこにこと、くしを通す美容師に癒されながら、たまにはこういうのもいいかあと伊作は思った。
なにより目を見張ったのは、帰り際に施されたマッサージである。あまりにも心地がよく、ふおお、と伊作は思わずへんな声をもらした。イケメンに絶妙な力加減で首や肩のこりをほぐされ、すっきりとした心持ちで伊作は会計をしたのだった。立花&綾部の紹介のおかげで、破格の割引だったというのもまた気分がよかった。
「雑渡さん、雑渡さん、」
伊作はその晩、仕事から帰り、風呂からあがった雑渡に昼間の出来事を話した。散髪したばかりですっきりと両耳がのぞき、髪にも心なしかつやの出ている伊作を、いつもの通りやわらかな眼差しで見つめながら雑渡は相槌をうっていた。
「それで、見よう見まねですけど、わたしも、雑渡さんにやってみてもいいですか」
「してくれるの」
「はい!」
伊作は雑渡が腰かける椅子の後ろへまわり、雑渡の両肩に手をおいた。ぐ、と力を入れてもみもみしはじめる。
*****
愛しい恋人に肩をもみもみされながら、よわったな、と雑渡は内心で苦笑した。
伊作と一緒に住み始めて、雑渡はある種のがまん大会を強いられていた。否、だれも強いてなどいない。ほかでもない雑渡自身が、自らに課していたのである。
生活をともにすることを伊作に承諾されてからというもの、雑渡は顔にこそ出さぬが、浮かれていた。焦がれてやまない伊作と、これからは毎日同じ屋根の下で暮らせるのである。伊作の手すらまともに握ることのできぬ雑渡だったが、引っ越し日の荷解き作業中、感極まって衝動的に伊作にキスをしてしまった。
だが実際に共同生活をはじめてからは、雑渡は慎重になっていた。じつのところ、玄関でも居間でも伊作をきつく抱きしめてそこいらじゅうに口づけたい気分であったが、それはいけない、と雑渡は首をふった。あまりべたべたして助平おやじであることがばれ、あげく気持ち悪がられ、伊作が家を出ていってしまったら一巻の終わりである。伊作のからだに触れるのは極力ベッドの上だけにとどめ――だからそこでの雑渡は半ば飢えた獣のようになっていることに雑渡自身も伊作も気づいていなかったが――、あとは年上の余裕あるやさしい男を演じきろうと心に決めたのだった。伊作に愛想をつかされない限りは、ずっと一緒にいられるのだから、そんなに焦ってがっつかなくともよいだろう。
だがふとした瞬間に手やからだが触れたり、伊作のにおいがかおったりすると危険だった。恋人なのだから挨拶のキスくらいならと思わなくもなかったが、伊作がいちいちうぶな反応をかえすので、雑渡は理性を保つのに一苦労だったのである。
そして今も。雑渡さん、気持ちいですかぁなどと間延びした声で肩もみを施す伊作の手が触れる両肩が発熱してしまい、あつい。「んふ、気持ちいよ」と凪いだ声をだしながらも、雑渡は内心どきどきとしていた。美容室でしっかり習得してきたらしい方法で、そのあたりが伊作らしいが、素人にしては絶妙な力加減で雑渡の首や肩のこりをほぐしていく。なかなかにたくみだった。ふわふわとしたみかけによらず、伊作の力は強い。こういうとき、あたりまえではあるが、彼も男なのだと実感する。ぐ、と力を入れる拍子に、石けんのかおりに混ざって伊作自身のにおいが濃くかおった。好きとは言えぬデスクワークでこりかたまった身体をほぐしてくれるのは大変気持ちがいいのだが、なんだか妙な気分になってきてしまう。ふ、と伊作の息が耳にかかった。それに、すごくいいにおいだ、と雑渡は思う。美容室でしてもらって気持ちよかったから、雑渡にも、なんて、その心意気がけなげではないか。けれど、ああ。思い起こせば、ここ数日、キスもえっちもしていない。雑渡は汗ばみ震える右手を持ち上げて、自身の左肩にのっている伊作の手に向かってのばした。
*****
にわかに習得してきた我ながら、なかなかにうまいのではないか、と伊作は得意になった。前をのぞきこめば、雑渡は両目を閉じ、少しばかり顔を横に傾けながら、んふ、と満足げな息をもらしている。気持ちよさそうだ。ひょっとすると自分はマッサージ師にもなれるかもしれない。伊作は軽く握った両手でリズミカルにトントンと、雑渡の背をたたいていみる。――けど雑渡さんの専属でいいかな。仕事のつかれを少しでも癒せたら、などとのんきに考えながら、伊作はふう、と息をついた。気合をいれすぎてちょっとつかれてしまった。
「はい、おしまいです」
そのとき、雑渡の肩に置いた左手の上に、雑渡の手がのせられていることに気がついた。伊作の大好きな、大きな手。いまはなんだかしっとりと湿っていて、びっくりするほど熱い。
「? 雑渡さん?」
「……」
雑渡は少しうつむきがちになっている。気のせいか、耳輪が赤い。血行がよくなったのかな、と見つめていると、雑渡がゆっくりとこちらをふりむいた。
雑渡さん、顔真っ赤、と思ったときには、伊作は握られた左手を強くひかれ、次の瞬間には両頬を強い力で包まれ、顔を大きく傾けた雑渡に、ぶつかるほどの勢いで思い切り唇を吸われていた。
*****
「……ごめん」
がまんできなくなっちゃって、と雑渡は寝台の上でうなだれていた。伊作はくったりと額に汗をにじませたまま、それでも、いえ、とさわやかな笑顔を雑渡に向ける。
「がまんしないでください。ためたものを一気に爆発されるとびっくりしてしまうので、」
できればこまめにお願いします。と伊作は力なく笑った。
掃除や洗濯のようないわれように、雑渡はますます背を丸めて頬を赤らめた。
昨年に雑渡の家の合いかぎを渡され、しかしそれは結局一度もつかわれぬまま、伊作の自宅の机の奥にだいじにしまわれ、彼のお守りと化していた。
そうこうしている間に互いに忙しくなり、雑渡の家に遊びにいくことすらままならなくなった頃。紆余曲折を経て、伊作は自身の誕生日に初めて雑渡に抱かれた。
そうしてまた会えない日が続き、ある日もじもじと雑渡に切り出されたのは、一緒に住まないかという提案だった。
年度初めの忙しい互いの仕事の合間を縫ってふたりで新居をさがし、引っ越しを終えて荷解きや整理も仲睦まじく終えたところまではよかった。
なんとなくだが、雑渡がそっけない気がする、と伊作は感じていた。以前はそれぞれ別の家に住み、仕事が休みの日が合うこともめったになかったために――たとえ休みが合ったとして、毎度もれなくデートできるわけもなく――ふたりが会える日は限られていた。
しかし同じ屋根の下で暮らす今は。以前よりもはるかに共有できる時間が増えたはずだ。にもかかわらず、雑渡がつれない。
伊作は引っ越し当日の出来事を思い出す。ガス会社の係員が到着するまで湯が出ない中、先んじて電気は通っていたので暖房だけはつけられた。天候に恵まれた春の休日だったが、とはいえ、ものがない家は冷える。いつもより早起きをして、昼食をまだとっていなかったことも関係しているかもしれない。ちょっとさむいですね、とこぼしながら伊作は荷解き作業を、雑渡はカーテンレールに真新しいカーテンをかける作業をしていた。そして、カーテンかけ終わったよ、という声にふりむいたそのとき。伊作は前触れなく、雑渡にキスをされた。触れるだけのそれはごく一瞬で、雑渡はすぐに離れたが、ふいとそらされた目元と耳が真っ赤だった。
『ざっとさ、』
呼びかけたところでインターホンが鳴ってしまったので、伊作は慌てて廊下にかけていき、雑渡は家具の組み立て作業に着手した。こんな日々がこれから続くのだと、伊作はガス開栓作業に立ち会いながら、気が気でなかったのだが。
予想に反して雑渡は、伊作と同じ空間で、しかしある一定の距離を保ちながら静かに日々を過ごしている。居間や風呂場で繰り広げられるかもしれないあれやこれやを想像していた伊作は自らの浮かれた思考を恥じた。何かの見すぎ、あるいは読みすぎかもしれない。
あんまりにもなにもないので、伊作はなにか雑渡の機嫌を損ねるようなことをしただろうかと心配したのだが、それは杞憂に終わった。
なぜなら雑渡は、閨では口数が少ないながらも情熱的に伊作を愛したからだ。伊作の耳元で彼の名を呼びながら熱い息をもらし、伊作の全身をくまなく愛撫する男は、それこそ休日の昼間に居間のカウチで本を読む雑渡とは別人であるかのようだった。
そうか、と伊作は思う。雑渡は居間と寝室とで、オンオフを切りかえているらしい。むかしかたぎの、クールなおひとなのだな、と解釈することで伊作は自らを納得させた。
スキンシップが少なくとも、雑渡が伊作にやさしい眼差しを向け、伊作が雑渡の名を呼べば、なあに、伊作くん、とやわらかく笑む点は以前と何もかわらない。伊作はそのうちに、当初の拍子抜けをだんだんと忘れていった。
*****
新しい生活にも慣れてきた初夏。いつも適当に自宅近くの理容室で散髪をしている伊作が、めずらしく自身の休日をつかって、少し遠くの美容院へ赴いた。仙蔵の紹介で、金髪の美容師がなかなかの腕前だからというので、ものは試しでいってみることにしたのだった。なんでも仙蔵の後輩の同級生であるが帰国子女で、齢は仙蔵や伊作と同じらしい。「善法寺さん、お手入れは怠っているみたいですけど、色も質感も、似合ってます。地毛なんですねえ」とにこにこと、くしを通す美容師に癒されながら、たまにはこういうのもいいかあと伊作は思った。
なにより目を見張ったのは、帰り際に施されたマッサージである。あまりにも心地がよく、ふおお、と伊作は思わずへんな声をもらした。イケメンに絶妙な力加減で首や肩のこりをほぐされ、すっきりとした心持ちで伊作は会計をしたのだった。立花&綾部の紹介のおかげで、破格の割引だったというのもまた気分がよかった。
「雑渡さん、雑渡さん、」
伊作はその晩、仕事から帰り、風呂からあがった雑渡に昼間の出来事を話した。散髪したばかりですっきりと両耳がのぞき、髪にも心なしかつやの出ている伊作を、いつもの通りやわらかな眼差しで見つめながら雑渡は相槌をうっていた。
「それで、見よう見まねですけど、わたしも、雑渡さんにやってみてもいいですか」
「してくれるの」
「はい!」
伊作は雑渡が腰かける椅子の後ろへまわり、雑渡の両肩に手をおいた。ぐ、と力を入れてもみもみしはじめる。
*****
愛しい恋人に肩をもみもみされながら、よわったな、と雑渡は内心で苦笑した。
伊作と一緒に住み始めて、雑渡はある種のがまん大会を強いられていた。否、だれも強いてなどいない。ほかでもない雑渡自身が、自らに課していたのである。
生活をともにすることを伊作に承諾されてからというもの、雑渡は顔にこそ出さぬが、浮かれていた。焦がれてやまない伊作と、これからは毎日同じ屋根の下で暮らせるのである。伊作の手すらまともに握ることのできぬ雑渡だったが、引っ越し日の荷解き作業中、感極まって衝動的に伊作にキスをしてしまった。
だが実際に共同生活をはじめてからは、雑渡は慎重になっていた。じつのところ、玄関でも居間でも伊作をきつく抱きしめてそこいらじゅうに口づけたい気分であったが、それはいけない、と雑渡は首をふった。あまりべたべたして助平おやじであることがばれ、あげく気持ち悪がられ、伊作が家を出ていってしまったら一巻の終わりである。伊作のからだに触れるのは極力ベッドの上だけにとどめ――だからそこでの雑渡は半ば飢えた獣のようになっていることに雑渡自身も伊作も気づいていなかったが――、あとは年上の余裕あるやさしい男を演じきろうと心に決めたのだった。伊作に愛想をつかされない限りは、ずっと一緒にいられるのだから、そんなに焦ってがっつかなくともよいだろう。
だがふとした瞬間に手やからだが触れたり、伊作のにおいがかおったりすると危険だった。恋人なのだから挨拶のキスくらいならと思わなくもなかったが、伊作がいちいちうぶな反応をかえすので、雑渡は理性を保つのに一苦労だったのである。
そして今も。雑渡さん、気持ちいですかぁなどと間延びした声で肩もみを施す伊作の手が触れる両肩が発熱してしまい、あつい。「んふ、気持ちいよ」と凪いだ声をだしながらも、雑渡は内心どきどきとしていた。美容室でしっかり習得してきたらしい方法で、そのあたりが伊作らしいが、素人にしては絶妙な力加減で雑渡の首や肩のこりをほぐしていく。なかなかにたくみだった。ふわふわとしたみかけによらず、伊作の力は強い。こういうとき、あたりまえではあるが、彼も男なのだと実感する。ぐ、と力を入れる拍子に、石けんのかおりに混ざって伊作自身のにおいが濃くかおった。好きとは言えぬデスクワークでこりかたまった身体をほぐしてくれるのは大変気持ちがいいのだが、なんだか妙な気分になってきてしまう。ふ、と伊作の息が耳にかかった。それに、すごくいいにおいだ、と雑渡は思う。美容室でしてもらって気持ちよかったから、雑渡にも、なんて、その心意気がけなげではないか。けれど、ああ。思い起こせば、ここ数日、キスもえっちもしていない。雑渡は汗ばみ震える右手を持ち上げて、自身の左肩にのっている伊作の手に向かってのばした。
*****
にわかに習得してきた我ながら、なかなかにうまいのではないか、と伊作は得意になった。前をのぞきこめば、雑渡は両目を閉じ、少しばかり顔を横に傾けながら、んふ、と満足げな息をもらしている。気持ちよさそうだ。ひょっとすると自分はマッサージ師にもなれるかもしれない。伊作は軽く握った両手でリズミカルにトントンと、雑渡の背をたたいていみる。――けど雑渡さんの専属でいいかな。仕事のつかれを少しでも癒せたら、などとのんきに考えながら、伊作はふう、と息をついた。気合をいれすぎてちょっとつかれてしまった。
「はい、おしまいです」
そのとき、雑渡の肩に置いた左手の上に、雑渡の手がのせられていることに気がついた。伊作の大好きな、大きな手。いまはなんだかしっとりと湿っていて、びっくりするほど熱い。
「? 雑渡さん?」
「……」
雑渡は少しうつむきがちになっている。気のせいか、耳輪が赤い。血行がよくなったのかな、と見つめていると、雑渡がゆっくりとこちらをふりむいた。
雑渡さん、顔真っ赤、と思ったときには、伊作は握られた左手を強くひかれ、次の瞬間には両頬を強い力で包まれ、顔を大きく傾けた雑渡に、ぶつかるほどの勢いで思い切り唇を吸われていた。
*****
「……ごめん」
がまんできなくなっちゃって、と雑渡は寝台の上でうなだれていた。伊作はくったりと額に汗をにじませたまま、それでも、いえ、とさわやかな笑顔を雑渡に向ける。
「がまんしないでください。ためたものを一気に爆発されるとびっくりしてしまうので、」
できればこまめにお願いします。と伊作は力なく笑った。
掃除や洗濯のようないわれように、雑渡はますます背を丸めて頬を赤らめた。
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