Now we’re even. -1

  • 眞白の大学の友達がバイクで転倒し足に怪我を負ってしまったことで、

  • その友達の代わりに2ヶ月の期間限定で、眞白は彼のバイト先で勤務することになった。

  • タイミングが良いというか、晴蘭時代からバイトをしているコンビニの改装工事が入るため、

  • しばらくの間コンビニでのバイトが休みになるから眞白にとっても好都合。

  • 友達にもしっかり休んで怪我を治してもらいたいし、ちょうどいい。

  • そう考えた眞白は、バイトを欠勤することになってしまった友達の頼みを快諾した。

  • そのバイト先は、民間のプール。

  • プールの監視員の補佐というポジションで、施設内の清掃や雑務も兼ねている。

  • 友達のことを考えてバイトを引き受けた眞白だったが、

  • 武藤 勝生

    《…そんな…、どうしてそんなバイトを引き受けたんだよ。》

  • 「友達が怪我したことは気の毒だけど」…と気遣いを添えながらも、

  • このことを知った勝生はあからさまに怪訝な顔をした。

  • 瀬名 眞白

    《「そんなバイト」ってなによ。プールの監視員とか、別によくね?》

  • 武藤 勝生

    《だって、眞白の裸体を惜しげもなく披露するってことじゃん?》

  • 瀬名 眞白

    《…言い方。なんかエロい。》

  • 武藤 勝生

    《昔から「水も滴るいい男」って言葉があるだろ?》

  • 武藤 勝生

    《女子の熱い視線やら男子の羨望の眼差しやらが、眞白に集中する未来が僕には見えるっ。》

  • 瀬名 眞白

    《いやいや、あのな…、》

  • 武藤 勝生

    《うう…心配の種が増えるぅ…。》

  • 瀬名 眞白

    《つーか、ラッシュガード着るし。》

  • 武藤 勝生

    《ラッシュガードを着る?ほんとに?》

  • 武藤 勝生

    《裸じゃないんだね?》

  • 瀬名 眞白

    《裸、裸って…なったとしても、上半身だけだろうが。》

  • 武藤 勝生

    《上半身だけでもダメだよっ。》

  • 武藤 勝生

    《……うぅぅ、ダメダメ、絶対にダメ。》

  • 瀬名 眞白

    《……》

  • 瀬名 眞白

    《(…なんか勝手なこと妄想してんなー…)》

  • 武藤 勝生

    《ほんとにダメなんだからねっ?》

  • 冗談なのか本気なのかよく分からない形相で、そのときの勝生は前のめりになって鼻息荒く捲し立てた。

  • …季節はまだ春。

  • プールは屋内と屋外のエリアがあって、今の時期はもちろん屋内の温水プールが稼働している。

  • この施設の規定では、プールの監視員やその補助業務に従事する者ははラッシュガードを着用することになっているため、

  • 勝生が案ずるような懸念はまず生じない。

  • 瀬名 眞白

    《ラッシュガードを着るっていう決まりになってるから大丈夫だよ。》

  • 武藤 勝生

    《……ちゃんと決まりは守るよね?》

  • 瀬名 眞白

    《守らねーと仕事できねえじゃん。》

  • 武藤 勝生

    《…暑くても我慢してよ?》

  • 瀬名 眞白

    《分かってる。》

  • 瀬名 眞白

    《…信じろ。》

  • ――チュッ…。

  • ソファーの隣に座る勝生をグイッと引き寄せて頬にキスをした眞白に、頑なだった勝生の表情が嬉しそうに緩んだ。

  • 瀬名 眞白

    《(勝生は意外と心配性だからなー)》

  • やれやれと苦笑交じりに思う眞白も、かなりの心配性だったりするのだが。

  • 監視員のバイトをし始めてから3週間が過ぎた頃。

  • 勝生が、休日に屋内プールを堪能しに行くと言い出した。

  • …そして当日、

  • 武藤 勝生

    まーしろっ!

  • 監視台に座りきちんと業務に専念する眞白に向けて、勝生の声が飛びついた。

  • 瀬名 眞白

    (…、勝生?)

  • すぐさま声のする方に視線を落とすと、にこやかに笑って下から手を振る勝生が視界を埋める。

  • 瀬名 眞白

    おう、来たのか。

  • 勝生の来設を内心では嬉しく思いながらも、その姿をチラリと目視しただけで、眞白はすぐにまたプールへと視線を投げた。

  • 武藤 勝生

    うん、今来たばかり。

  • 武藤 勝生

    眞白がちゃんとバイトしてるか覗きに来たよー。

  • タンポポの綿毛のように軽い口調だが、まじまじと見上げる視線はいくつもの矢印となって眞白の全身をコチョコチョする感じ。

  • 瀬名 眞白

    ……、

  • なぜ勝生がわざわざプールに来たのかを察知した眞白は、

  • 瀬名 眞白

    …ちゃんと着てるって。

  • プールに視線を投じたままで、ちょっぴり苦笑交じりに告げてみせた。

  • 武藤 勝生

    さすが眞白。
    よく分かったねえ、僕の気持ち。

  • 武藤 勝生

    ラッシュガードを着てなかったら、監視台から引きずり降ろして着せてたよ。

  • 瀬名 眞白

    ったく、怖えーわ。

  • 瀬名 眞白

    つまんねーこと気にしすぎだし。

  • 武藤 勝生

    つまらないことじゃないの。
    大切なことなの。

  • 武藤 勝生

    眞白は自分のダイヤモンドのような価値を分かってないから困るんだよ。

  • 瀬名 眞白

    「ダイヤモンドのような…」って大袈裟すぎる。

  • 武藤 勝生

    そんなことないのっ!

  • 瀬名 眞白

    …、

  • 反論したところで堂々巡りになると思った眞白は、

  • 瀬名 眞白

    それより、プールに入るのか?

  • この話題を回避しようと話の舵を切った。

  • 武藤 勝生

    せっかく来たし、ひと泳ぎしてこようかなとは思ってるけど。

  • 瀬名 眞白

    …そっか。あのさ、

  • 瀬名 眞白

    泳ぐのが後でもよかったら、
    俺そろそろ休憩だから、

  • 瀬名 眞白

    外の休憩エリアでなんか飲まね?

  • 武藤 勝生

    わ、マジで?
    飲む飲む!

  • 武藤 勝生

    じゃあ、いったん休憩エリアに戻って待ってるよ。

  • 瀬名 眞白

    ん。

  • 勝生と会話を交わしながらも、眞白はプール全体から視線を逸らさない。

  • 監視員の補佐という眞白の働きをこれ以上邪魔しないように、勝生は素直に休憩エリアに引き返した。

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