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瀬名 眞白
え、なに?

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鷹野 光星…やっぱり、話しておいたほうがいいと思って。
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同じように天窓の月を見上げていた光星が、コロンと俺に振り向く。
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その動作に糸で引っ張られるように、俺も光星のほうに体を傾けた。
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瀬名 眞白
話って?

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鷹野 光星おばあちゃんが眞白に、
「もうひとつ奇遇なことがある」って言っただろう? -
瀬名 眞白
……ああ、そういえば…。

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瀬名 眞白
それに関係する話ってこと?

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鷹野 光星ああ。
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鷹野 光星おばあちゃんはたぶん、俺が今から話すことを眞白に話そうとしたんだろうけど、
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鷹野 光星途中で、町内会の集まりへ行っちゃって、話せていないままだから。
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瀬名 眞白
…、

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鷹野 光星実は…、
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鷹野 光星俺のおばあちゃんと、亡くなったおじいちゃんは……、
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鷹野 光星ずっと昔に、眞白のお父さんに助けてもらってるんだよ。
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瀬名 眞白
――えっ?!

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鷹野 光星眞白のお父さんに、すごくお世話になったらしいんだ。
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瀬名 眞白
(お、俺の…父さんに…?!)

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瀬名 眞白
う、嘘じゃん?!そんな話…、

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にわかに信じ難くて、頭の中も混乱し始める。
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けれど、光星の瞳は夜の海のように落ち着いていて、その漆黒の光は揺らぐことなく俺を見つめて続けた。
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鷹野 光星俺が両親や弟に眞白のことを伝えて、
そのあとで、おばあちゃんからもコンビニでの眞白のことを聞いて、 -
鷹野 光星いろいろと話しているうちに分かったことなんだけど、
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瀬名 眞白
―――…

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鷹野 光星おじいちゃんがちょっとしたトラブルに巻き込まれて、
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鷹野 光星そのときに弁護してくれたのが眞白のお父さんだったらしいんだ。
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瀬名 眞白
――マジか…、

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その後の光星の話を辿って時系列を整理すると、おばあちゃんとおじいちゃんがトラブルに遭ったのは、俺の父親がまだ38歳くらいのとき。
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俺はまだ生まれていなくて、母親のおなかの中にいた頃の話だった。
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鷹野 光星当時、混雑した電車におばあちゃんとおじいちゃんが二人で乗っていたんだけど、
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鷹野 光星とんでもないことにおじいちゃんが痴○に間違われて…、
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鷹野 光星冤罪を立証してくれたのが眞白のお父さんだったらしいんだ。
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瀬名 眞白
…父さんが…。

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まさかの人物が、ずっと前に光星の祖父母を救っていたという嘘みたいな本当の話。
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込み合う電車内、目撃者もほぼ皆無。
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当時のおじいちゃんの隣でおばあちゃんが並んで立っていたにも関わらず、特にこういった案件に関しては、
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被害に遭ったとされる女性の言い分だけが事実として取り扱われやすい風潮。
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だからこそ、痴○の冤罪を勝ち取るのは、なかなか難しいところがある。
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光星のおばあちゃんの話では、まるで正義の味方のように俺の父親はその案件に向き合い、解決に導いたのだという。
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瀬名 眞白
信じられねえな…、
あの父さんがそんな…、
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その姿はきっと、碧芭も目指している弱者に優しい弁護士という存在。
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鷹野 光星でも俺は、こう思ったんだ、
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鷹野 光星『眞白のお父さん』はやっぱり、
『眞白のお父さん』なんだなって。 -
瀬名 眞白
え…、ん?

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瀬名 眞白
なにそれ、どういう意味?

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鷹野 光星眞白は、普段はドライなところもあるけど、
困っている人がいたらとても優しく向き合うから。 -
鷹野 光星きっと眞白のお父さんも、心根はそういった人なんだろうなって思ったんだ。
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瀬名 眞白
…いや、エグいって…、

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瀬名 眞白
それは絶対にありえねー思うけど…。

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思わず自嘲や愚弄を含んだ苦笑を漏らしてしまう。
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でも、
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鷹野 光星…俺はそうは思わない。
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俺を見つめる光星の視線はブレることなく、しっかりと俺に視軸を合わせたままで。
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鷹野 光星眞白は物心ついてしばらくしてから、
お父さんとそりが合わなくなって距離を置いた父子関係を続けているけど、 -
鷹野 光星今回、俺のおばあちゃんの話を聞いて感じたんだ。
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鷹野 光星もしかしたら、二人はすれ違ってしまっているだけなのかもしれないって。
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瀬名 眞白
―――

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鷹野 光星眞白は幼い頃からお父さんのことを嫌いだと思っているし、
こんなことを言われるのは不本意だと思う、けど、 -
鷹野 光星少しでもいいから、この話を受け止めてほしい。
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瀬名 眞白
…、

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鷹野 光星眞白がいつも抱く正義は、お父さんと似通った部分なんじゃないかなって…、
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鷹野 光星根本的な部分は、眞白とお父さんが一番似ているんじゃないかなって思ったんだ。
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瀬名 眞白
―――…

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大嫌いな父さんと一番似ている?俺が…?
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まさかの光星の強烈な一打に衝撃を受けて、言葉を忘れたように声を失う。
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あの父親と俺が似ているだなんて…。
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あの冷酷非道な氷みたいに冷たい人間と俺が似ているだとか、正直、光星が紡いだ言葉に根こそぎ抉られる感覚。
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けど、光星の表情がとても真摯で、この話をするのは俺のことを想うからこその決断だったのだと伝わってくるから、
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俺は押し黙ったまま、おとなしく話に耳を傾けた。
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