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〔光星弟〕:
お待たせしてごめん。 -
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〔光星弟〕:
兄さん、会いたかった人が来たよ。 -
弟さんが出迎えて戻った背後に付いてくる小さな人影。
-
小さな…と言っても、もちろん子どもではない。
-
瀬名 眞白
(会いたかった人って、誰だろ…?)

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『近所の人』というには、弟さんが招き入れる様子だとかの距離感が近い。
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と、いうことは…
-
鷹野 光星おばあちゃん…!久しぶり!
-
俺の隣のソファーで腰かけていた光星がすっくと立ちあがり、嬉しそうな笑顔でその人物に近づいた。
-
---
〔光星祖母〕:
ほんとに久しぶりね。
光星、元気にしてた? -
にっこりと笑いかけて光星を見上げながらも、どこか凛とした佇まいの女性は、光星の父方の祖母だった。
-
その雰囲気は、今より若い頃に学校の校長先生をしていたような、どこか慎ましやかな威厳を感じさせる。
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なんとなく身が引き締まる思いがして、その場景を見た俺も立ち上がって頭を下げた。
-
瀬名 眞白
初めまして。瀬名眞白です。

-
鷹野 光星おばあちゃん、春先に僕が実家に戻って話してた、僕の恋人だよ。
-
鷹野 光星とても大切な人。
-
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〔光星祖母〕:
ああ…、彼がそうなのね。 -
---
〔光星祖母〕:
春に光星が戻って来たときに会えなかったから、
詳しい話は[#ruby=星明_せいあ#]
から聞いてたんだけど。 -
[#ruby=星明_せいあ#]とは、光星の弟さんの名前だ。
-
---
〔光星祖母〕:
その話を聞いたとき、
最初はとても驚いたけど…、 -
言いながら、光星のおばあちゃんは静々と俺の元まで歩み寄ってきた。
-
---
〔光星祖母〕:
初めまして。
鷹野[#ruby=和沙_かずさ#]です。 -
---
〔和沙〕:
…あなたが、光星の大切な人なのね。 -
瀬名 眞白
はい…っ、
俺も、光星のことがとても大切です!
-
---
〔和沙〕:
ふふ…、元気なお返事。いい人ね。 -
瀬名 眞白
ありがとうございます。

-
少し緊張しつつも微笑んで頭を下げた俺に、おばあちゃんは一旦声を区切って俺を見つめる。
-
---
〔和沙〕:
…… -
瀬名 眞白
…、?

-
探るようでいて柔らかな光を宿したその双眸に、反問するように目を瞬くと、
-
---
〔和沙〕:
ねえ、あなた……見覚えない? -
瀬名 眞白
え…?

-
---
〔和沙〕:
ちょうど1か月くらい前だったかしら…? -
瀬名 眞白
「一か月くらい前」…ですか?

-
な、なんだ、なにがあったっけ?!一か月くらい前に?!
-
面では平静を装いつつも、内心では焦って頭の中を弄る。
-
---
〔和沙〕:
さすがに覚えてないかしら。 -
瀬名 眞白
…い、いや、えっと…、

-
---
〔和沙〕:
…あ、そうだわ。
あのときの私はマスクをしていたし、 -
そう言って、光星のおばあちゃんは手で口元を隠して見せる。
-
---
〔和沙〕:
ちょっとした出会いだったから、
覚えていないのも無理ないわよね。 -
瀬名 眞白
ええっと…?

-
---
〔和沙〕:
実は、眞白くんがバイトをしているコンビニで、私と端末の操作を一緒にしてくれたのよね。 -
瀬名 眞白
……、!

-
瀬名 眞白
あぁ…!
あのとき…の?!
-
そういえば…!と。
-
最近は、あの端末操作で手こずるお客は少ないから、記憶の片隅にまだ残っていた。
-
---
〔和沙〕:
眞白くんがあのコンビニでバイトをしているとは知らなかったんだけど、 -
---
〔和沙〕:
私が操作に手間取っていたら、とても親切に対応してくれたのよね。 -
---
〔和沙〕:
思い出してくれたかしら? -
瀬名 眞白
…はい、思い出しました。

-
あのときのあのおばあさんが、まさかの光星のおばあちゃんだったなんて…ものすごい奇遇。
-
---
〔和沙〕:
あのとき、レジで他のお客さんの対応をしていたのに、その間もずっと私のことを気に掛けてくれていたのよ。 -
そして、レジ対応を終えてすぐに小走りに近づいた俺のネームプレートに『瀬名』と記されていたことで、直感でピンと来たのだとおばあちゃんは言った。
-
瀬名 眞白
…鋭いですね。

-
---
〔和沙〕:
星明や、この子たちの両親からもあなたの名前は聞いていたから、 -
---
〔和沙〕:
女の勘っていうのかしら。
おばあちゃんになっても鈍ってないわね。 -
再び品のいい笑みをふふっと零してみせた。
-
光星のおばあちゃんは俺の見立て通り、これまでずっと小学校の校長先生をやってきたらしい。
-
この年齢になっても、颯爽とした清々しい風格はそこから来ているのかもしれないと感じた。
-
---
〔和沙〕:
そうそう、あとね、もう一つ奇遇なことがあって――― -
---
…Prrrrrt――!
-
話を続けようとしたおばあちゃんの声を遮るように、スマホのアラーム音が鳴り響いた。
-
---
〔和沙〕:
…あら、町内会の集まりに行く時間になってしまったわ。 -
---
〔和沙〕:
眞白くん、ごめんなさいね、 -
---
〔和沙〕:
今日はもう会えないかもしれないけど、この連休中にまたゆっくりお話ししましょうね。 -
瀬名 眞白
はい、ぜひ!

-
---
〔和沙〕:
…光星のことを、どうぞよろしくお願いします。 -
柔らかに目尻を細めて告げてくれた言葉は、俺にとっては『認可状』。
-
瀬名 眞白
もちろんです!

-
瀬名 眞白
よろしくお願いします!

-
瀬名 眞白
(よっしゃ…!おばあちゃんにも、俺たちのことを分かってもらえたっ)

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内心で力強くガッツポーズをしながらも再び丁寧に会釈した俺に向けて、光星のおばあちゃんは笑顔で淑やかにやわやわと手を振って、玄関先へと姿を消した。
-
︙
-
町内会の会合の後、みんなと食事会とへ出向くことになったおばあちゃんには、やっぱり今夜は会えなかったが、
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光星の家族と晩御飯を食べ終えて、みんなで近場の温泉に行き、
-
帰宅後は、光星の部屋で二人仲良くゆったりとした時間を過ごしていた。
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二人で床上に仰向けに寝転んで、部屋の天窓から覗く明るい月明かりを眺めながら、じゃれ合ったり思い出話に会話を弾ませる。
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瀬名 眞白
…じゃあさ、夜店に行くたびに、必ず綿菓子買ってたってこと?

-
鷹野 光星ああ。
綿菓子の大きな袋を必ず二つは買ってもらってたな。 -
鷹野 光星それを両脇に抱えて、つまずいてこけても、綿菓子だけは死守してたな。
-
瀬名 眞白
それ危ねー!
顔からいくじゃん!
-
鷹野 光星ははっ、こけたときは派手に擦りむいてたな。
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瀬名 眞白
えー…マジで危ねえって。

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瀬名 眞白
子どもだったらギャン泣きするレベル。

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鷹野 光星俺は、泣いてる場合じゃないって感じだったかな。
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鷹野 光星綿菓子を守って、味わって食べるのが楽しみすぎて。
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瀬名 眞白
(…うわ、なにそれ、可愛すぎ)

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光星の子どもの頃のいろんなエピソードを聞きながら、「おチビな光星」を想像しては悶絶する俺がいた。
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瀬名 眞白
(子どもって苦手だけど…、子どもが光星なら可愛がる自信あるわ、俺)

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…なんて自分勝手な妄想。
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そんなことを思いながら、ニヤけてつり上がってしまう口端を隠しきれずにいると、
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鷹野 光星…眞白、さっきからニヤニヤしてるけど?
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俺の様子を視界の端で捉えた光星が、不思議そうに問いかけてきた。
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瀬名 眞白
いや…、光星の子どもの頃を想像したら、めっちゃ可愛いなって。

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鷹野 光星そうかな?
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瀬名 眞白
うん、マジで可愛すぎる。

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力強い返答を聞いて照れたように眉根を下げた光星をチラリと見遣った俺は、再び天窓の月に視線を投じた。
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瀬名 眞白
…それにしても、光星の部屋、いいな。
こうして月が眺められるし。
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瀬名 眞白
なんか落ち着くわ。

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鷹野 光星うん。
-
鷹野 光星…一人でずーっと月が隠れて見えなくなるまで眺めていたこともあるよ。
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瀬名 眞白
確かに見続けちゃうよな。

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瀬名 眞白
ちなみにそれってさ、例えばどんなとき?

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鷹野 光星んー……
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鷹野 光星理由はいっぱいあるけど、親と言い合いになったときとか…。
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瀬名 眞白
へえ…
なんか意外だわ。
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鷹野 光星どうして?
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瀬名 眞白
だってさ、めっちゃ仲いい家族じゃん?

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鷹野 光星まあ、仲は良いとは思うけど、
それでも、何度か衝突はしたよ。 -
静かに呟いた光星は少し逡巡してから、
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鷹野 光星……実は、眞白に伝えようか迷った話があるんだけど…。
-
唐突に声を並べた。
-
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