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ある日の大学での昼下がり。
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眞白は、通学途中にあるベーカリーショップで購入していたクロワッサンを食べながら、昼休みの時間を過ごしていた。
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いつもは友人たちと和気あいあいと過ごすことが多いのだが、今日はゼミの時間がずれたこともあり、遅めのランチタイム。
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そのせいか、普段は学生たちの人気のスポットでもあるこの中庭のベンチも空いていて、
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静寂な空間を独り占めしたような、少しばかり贅沢な気分を味わっていた。
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瀬名 眞白
(今の季節が一番気持ちいいな…)

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暑くもなく寒くもなく、おまけに天気もいい。
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時折吹くそよ風が眞白の柔らかな金髪を浚って、その心地よさに落ち着いた気分で黙々とパンをかじっていると、
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――カア。
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ふと、上のほうからカラスの声が聞こえた。
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瀬名 眞白
(……ん?)

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その鳴き声に視線を巡らせると、ベンチに座っている眞白の少し前方に、一羽のハシブトカラスがどこからともなく降り立った。
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…カア。
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眞白の存在を意識しているかのように、カラスがもうひと鳴きする。
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猛禽類の中では中型のその体がひょこりと揺れると、リッチブラックの羽に太陽の光が当たって、美しく深い輝きを放っている。
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瀬名 眞白
(…結構前から見かけるよな…コイツ)

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そのカラスはこれまでにもこの辺りで何度か見かけたことがあって、大学の周辺に住み着いているように思えた。
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眞白は二つ目のクロワッサンを食べながら、ぼんやりとそのカラスを眺めていたが、
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カア、ッ、カ…。
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瀬名 眞白
…ん、?

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カァ、……。
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瀬名 眞白
…、

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瀬名 眞白
(こっちに寄ってきてるよな、コイツ)

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こちらの表情を伺いながら距離を詰めるように近づいてくるそのカラスに、眞白は口端を緩めた。
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瀬名 眞白
なに、おまえ…腹減ってんの?

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……、カァ、
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カラスはぴょこぴょこっと瞬きを繰り返して、つぶらな瞳で眞白を見据える。
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瀬名 眞白
(…なによ、可愛いじゃん)

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探るようでいてどこか遠慮がちなその小さな双眸に、クスっと微笑を零した。
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眞白は人に対しては不愛想なところもあるが、動物にはストレートにデレる。
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子どもの頃から動物が大好きな眞白は、残りわずかになったクロワッサンの端っこをカラスが食べやすいように丁寧にちぎると、
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瀬名 眞白
食べるか?……ほら。

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―――
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待っていたかのようにトントンッと素早く歩み寄ったカラスは、眞白が軽く投げたパンくずを嬉しそうにくちばしで挟む。
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カア…!
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器用に平らげたあと、催促するように小首を傾げてまた鳴き声を上げた。
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……
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瀬名 眞白
(まだ欲しそうだな…)

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瀬名 眞白
全部食べるか?
少ないけど。
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カラスが喉に詰まらせないようにと、小ぶりになったクロワッサンをさらに3つにちぎり分けて、一つずつ優しく投げる。
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…、カ、ッ、カァ、
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瀬名 眞白
うまいか?

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…カア。
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瀬名 眞白
もしかして、俺の言ってること分かる?

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カア…!
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瀬名 眞白
お、マジか。

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思わず嬉しくなって、にっこりとした笑顔を浮かべながらカラスを見つめた。
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餌付けが良くないのは理解しているが、このカラスを大学内で何度も見かけることがあるということは、誰かが追い払うというわけでもなく、
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おそらくこの場が居やすい環境であるということと、
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それでいて注意深く、人間とは適切な距離を保ちながら、一匹狼のように単体で暮らしているということだ。
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瀬名 眞白
人間のこと、怖くねーの?

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カア。
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瀬名 眞白
おまえさ、いつも一羽でいて平気?

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…カァ。
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瀬名 眞白
怪我とかしたらどうすんの?

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…、
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瀬名 眞白
…あ、いいわ、

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瀬名 眞白
もし怪我とかしたら、
俺のところに姿見せろよ、助けてやる。
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瀬名 眞白
金髪頭、覚えときな?

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…カア!
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瀬名 眞白
マジで頭いいなー!おまえ!

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瀬名 眞白
カラスって賢いんだな、やっぱ!

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ほくほくしながら、眞白はカラスとの不思議な意思疎通を無邪気に楽しんでいた。
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…そこへ、
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*え、なにあれ、カラスじゃん!
なんか不気味ー! -
-カラスがいるとさ、不幸が起きるっていうよね?
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眞白とカラスの対話に横やりを入れるように、少し離れた場所から女性の二人の声が聞こえてきた。
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