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ちょうどいい頃合いだったこともあって、ご飯会はお開きになった。
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心配してくれた友人たちと店先で別れて、眞白と二人、帰宅する際に利用している最寄り駅を目指して歩く。
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焼鳥屋からは徒歩で10分程度だから、駅もすぐ目先に見えてきた。
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武藤 勝生
(…よかった、なんともなさそうで)

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歩いているうちに気分が悪くならないか心配したけど、そういった様子はなく、ひとまず胸を撫で下ろす。
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武藤 勝生
…、

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ただ…まったくなんともない、というわけではない。
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歩き始めてしばらくは何も変わりはなかったが、
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瀬名 眞白しょういー。
あいすたべたい、 -
瀬名 眞白あいすかってかえろー。
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武藤 勝生
はいはい、アイスねー。

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駅に辿り着いた頃には、『いつもの眞白』が、いつもの眞白じゃなくなっていた。
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武藤 勝生
(普段の眞白はどこいった…)

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歩いたことで必然的に体が動くからアルコールが体内を巡ったとしても、
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僕ですらあの量を飲んだくらいでは、おそらくここまで幼稚にはならないはずだ。
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まさか眞白が、こんなにもお酒に弱いなんて。
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武藤 勝生
(でも…めちゃくちゃ可愛い)

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ちょっぴり甘ったるい声で話す、精悍な瞳がトロンと潤む、
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普通に歩けてはいるけど極端に甘えっ子になる…。
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すっかりアルコールに支配された眞白は、幼い子どものように僕の手をしっかり握って歩いていた。
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その姿は、まるで別人。
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しかも、通り過ぎる人と目が合うと、にっこりとした笑顔で微笑みかけたりもする。
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生まれ変わったかのように、あり得ないくらいの愛嬌の良さ。
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武藤 勝生
眞白、知らない人に向かってニコニコしなくていいから。

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瀬名 眞白でも、おれのことみてたから。
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武藤 勝生
見てたとしても、知らん顔しなさい。

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武藤 勝生
いつものように無視したらいいの。

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瀬名 眞白…むしするのか?
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武藤 勝生
なに、その切なそうな雰囲気。

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瀬名 眞白んんー……なんでいつもみられんのかなあ。
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武藤 勝生
それはね、眞白がイケメンだから…――って、とにかく。

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武藤 勝生
いい?
知らない人と目が合っても、いつものように真顔で居なさい。
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武藤 勝生
でないと、変な人だと思われちゃうよ?

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瀬名 眞白……へんなひとっておもわれたら、こまる。
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武藤 勝生
嫌だよね?

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武藤 勝生
だから、見られても気にせず歩きなさい。

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瀬名 眞白…うん、わかった。
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武藤 勝生
(可愛いけど…、これ、飲めるようになっても、絶対にお酒を飲ませたらダメなやつ…)

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こんな無防備で無垢な眞白を鷹野先生が見たら、心配でたまらなくなるだろう。
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武藤 勝生
(僕だって心配だよ、ほんと)

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瀬名 眞白なあ、あいす、かわねーの?
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武藤 勝生
食べたいの?

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瀬名 眞白たべたい。
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武藤 勝生
(さっきからずっと、眞白の言葉が全部『ひらがな』変換で聞こえるから不思議だ…)

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いつもの凛々しい眞白からは考えられない。
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ひとまず、眞白の現在の居住地である叔母さんの家まできちんと送り届けないと。
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いろいろと危なすぎて、こんな眞白を一人でほいほい帰らせるわけにはいかない。
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武藤 勝生
アイスを今買ったら家に着くまでに溶けちゃうから、後で買おう。

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瀬名 眞白んー…。
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武藤 勝生
家に帰ってから食べな。

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瀬名 眞白…「いえにかえる」?
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武藤 勝生
そう。
叔母さんの家に帰らないと。
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瀬名 眞白きょうは、しょういのいえにとまる。
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武藤 勝生
…は?
え?なんで?
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瀬名 眞白でんしゃにのるの、めんどくさい…。
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武藤 勝生
いや、僕の家に帰るのも電車だし。

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武藤 勝生
僕も叔母さんの家まで一緒に電車に乗って、ちゃんと眞白を送り届けるから。

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瀬名 眞白とおいし、いやだ。
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武藤 勝生
(普段なら、こういった類の文句を言ったりしないのに)

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駄々っ子のように不満を放つ眞白は、本当に目新しい。
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瀬名 眞白きょうは、しょういのいえにとまる…。
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武藤 勝生
…、

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確かに、この駅から眞白の叔母さん宅までは電車だけで1時間くらいかかる。
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僕の家までは、その半分くらいの時間で済むけれど…。
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武藤 勝生
でも…、明日は講義があるよね?

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瀬名 眞白んー…ひるからだからいい。
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瀬名 眞白でも、18じまである。
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武藤 勝生
「ひるから」?

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武藤 勝生
講義は、昼から夕方の18時まであるってこと?

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瀬名 眞白…ん。
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ゆらりと頷いた眞白の横顔は、まるで酩酊しているように朧げな輪郭を見せる。
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1時間も電車に揺られて、気分が悪くならないという保証はない。
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武藤 勝生
(うーん…どうしようかな…)

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武藤 勝生
じゃあ、朝は僕と同じ時間に起きて、

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武藤 勝生
そこから眞白は一旦家に帰って支度して…ちゃんと大学に行ける?

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瀬名 眞白いける。
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武藤 勝生
……

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コクリと素直に頷いた眞白が可愛すぎて絶句。
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武藤 勝生
(こんな眞白…、当然だけど、まだ僕だけしか知らないよね)

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間違えてお酒を飲んでしまったのは今日が初めてだろうから、恋人の鷹野先生ですらこの状態の眞白を見たことがないはず。
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武藤 勝生
…、

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そう思った途端、とてつもない優越感に浸ってしまった。
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武藤 勝生
(…よし。連れて帰ろう)

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ある意味の『お持ち帰り』。
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そんな邪な考えが悪戯にぴょこんと浮かんで内心で苦く笑う。
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瀬名 眞白しょうい…どうした?
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武藤 勝生
分かった。
僕の家に一緒に帰ろう。
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瀬名 眞白やったっ、かえろー。
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瀬名 眞白…あいすもいっしょに?
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武藤 勝生
「あいす」?
…ああ、「アイス」ね。
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武藤 勝生
僕の家の最寄り駅に着いたら、買って帰ろうか。

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滅多にお目にかかれない激レアキャラを手にした気持ちで、僕はこっそり意気揚々と眞白と二人で家路についた。
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