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ランチタイムを過ごした店の駐車場を出て、僕が運転する車は高速道路を走る。
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今から小一時間程度のドライブを経ての目的地は、ずいぶん昔に行ったことがある中規模の遊園地だ。
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そこは、眞白がまだ小学校に入って間もない頃の十数年前、僕と眞白が休日を過ごすために初めて出かけた場所…
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眞白が初めて父親に反抗的な態度を取ったことで二人が口論になってしまい、それを目の当たりにした僕が眞白を連れて向かった場所だった。
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怒りに火が付いた父親から眞白を遠ざけるため…、そして、眞白の心を守るために。
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瀬名 碧芭
あの遊園地、眞白がまだ小さい頃に二人で行ったことがあるんだけど…覚えてる?

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瀬名 眞白んー……遊園地で碧芭と遊んだ記憶は、なんとなく残ってる。
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瀬名 碧芭
僕と遊んだ記憶が残ってれば十分だよ。

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前方を見据えて車を走らせながら、にっこりとしてみせる。
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瀬名 碧芭
(遊園地に行くことになったいきさつ…忘れているならよかった)

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僕たちの父親は、暴力こそ振るわない人だけど、怒り出すとモラハラ炸裂の説教を始める。
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尊大な言動で尊厳を振りかざし、どんな場合でも自分から引き下がることはない。
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僕がまだ小さい頃は、あそこまでじゃなかった。
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眞白が生まれて、気づいたら、あんな気難しい父親になっていた。
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あの日も、父親が吐き出す暴言を聞かせないようにと眞白の両耳を手で塞いた僕は、
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『ちょっと出かけてくるねー』と、そそくさと眞白を遊びに連れ出した。
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あのときの僕は、まだ高校1年生。
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瀬名家の絶対的君主である父親に全力で立ち向かう勇気がなくて、せめてその場から連れ出してあげることしかできなかった。
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それでも、怒り心頭の父親を落ち着かせるには、十分な対応だったと思う。
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瀬名 碧芭
国内のレジャー施設の中では少し中規模だけど、なかなか楽しめたよね。

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瀬名 眞白…だな。
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瀬名 眞白お化け屋敷とかに入ったの覚えてる。
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瀬名 碧芭
あのお化け屋敷、結構怖かったよねえ!

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瀬名 眞白そうか?
面白かったけどな? -
当時、遊園地に着いた僕たちは、モラハラ気質の父親が生み出した仄暗い休日を一瞬でカラフルポップに塗り替えた。
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お化け屋敷には平気で挑んで、飛び出たお化けの類に驚くことはあっても怖がらない眞白だったけど、絶叫マシンに関しては尻込みしていた姿が懐かしい。
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きっかけはどうであれ、僕にとっては宝物の眞白と紡いだ、遊園地での思い出。
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眞白は今回、ランチ後に過ごす場所として映画を勧めてくれたけど、これといって観たい映画もないし、あれから数年たった今、
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互いが大人になった僕と眞白の二人でもう一度遊園地に赴いて、新たな思い出を作りたいと思った。
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今も絶叫マシンの類は苦手なのかと問うと、
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瀬名 眞白今は全然へーき。
なんでもいけると思う。 -
…と、凛々しい答えが返ってきた。
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けれど、どういうわけか、眞白の表情がスッと薄く翳る。
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瀬名 眞白…でも、今日はあんまりその気分じゃねーかな。
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瀬名 碧芭
ええ?そうなんだ?

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瀬名 眞白んー……
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瀬名 眞白乗れても、メリーゴーランドみたいなやつとか…かも?
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瀬名 碧芭
あはっ、なにそれ、可愛すぎるんだけど?

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瀬名 碧芭
…さては、絶叫系をまだ克服できてないとか?

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ニヤっとしてしまいながら訊ねると、眞白は少しばかりムキになって反論する。
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瀬名 眞白ほんとに乗れるんだって、普段は。
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瀬名 碧芭
ほんとにぃ?

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瀬名 眞白ほんとに。
マジで乗れる。 -
瀬名 碧芭
じゃあ、今日はどうしたのさ?

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瀬名 碧芭
絶叫マシン、一緒に乗りたかったのになあ。

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瀬名 眞白……まあ、
乗れねーこともない……、かも…? -
瀬名 碧芭
思わせぶりだなあ。

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瀬名 碧芭
乗れないこともないならさ、一緒に乗ろうよ。

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瀬名 碧芭
今日は僕の誕生日だし、今度は大人になった眞白と二人で思い出のページを作りたいんだよ。

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瀬名 眞白……、「思い出のページを作りたい…」。
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瀬名 碧芭
そう!

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僕の要望をぽつりと復唱した眞白に向けて、元気に頷いて見せる。
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瀬名 眞白………仕方ねーな…。
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瀬名 眞白分かったよ。
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瀬名 碧芭
やったあ!

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運転席でポンとお尻をバウンドさせて喜んだ僕に、眞白はやれやれと肩をすくめた。
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瀬名 眞白相変わらず、子どもみてー。
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瀬名 眞白じゃあ、ちょっと…、
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瀬名 眞白着くまで寝てていい?
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瀬名 碧芭
うん、着くまでもう少しかかるし、もちろん寝てていいよ。

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瀬名 碧芭
さっきのランチのお店のコース料理、結構ボリュームあったもんね。

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瀬名 碧芭
おなかがいっぱいになって眠くなってきちゃった?

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瀬名 眞白…まあ、そんな感じ。
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瀬名 眞白うたた寝だし、起きてから30分くらいで寝起きの悪さは治まるはずだから。
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瀬名 碧芭
うん、分かってる。

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瀬名 眞白…じゃ、ちょっと寝るわ。
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瀬名 眞白いったんおやすみ。
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瀬名 碧芭
着いたら起こしてあげるから、ゆっくり寝て――…

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チラッと僕が眞白の姿を確認したときには、すでに静かな寝息を立て始めていた。
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瀬名 碧芭
(はやっ、もう寝てる…)

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瀬名 碧芭
(眞白が少しでもゆっくり眠れるように、ゆりかご運転に徹しようっと)

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フロントガラスの前方をしっかりと見据えた僕は、いつもよりもさらに穏やかなハンドル捌きを心掛けて現地を目指した。
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