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何か月も前から、
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いや、去年の僕の誕生日から、今年もランチに付き合ってもらうという約束を眞白に取り付けていた。
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眞白には鷹野先生という素敵な恋人がいるけど、この日だけは僕だけの可愛い弟・眞白でいてほしいから。
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そんな僕の想いを知ってか知らずか、
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普段はあまり愛想のない眞白も、毎年僕が提示するその約束に二つ返事でオッケーしてくれている。
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ヤンチャだった中学時代の頃でも、会話は少なくても一緒に過ごす時間を作ってくれていた。
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――1月14日。
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僕がこの世に生を受けた日。
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二人でランチを楽しんだ店を出て、車を停めてある駐車場まで歩き始めたとき、
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数歩遅れて歩いていた眞白が、不意に僕を呼び止めて何かを手渡した。
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瀬名 碧芭
…え、なに?

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瀬名 碧芭
どうしたの…?

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瀬名 眞白誕生日プレゼント。
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瀬名 碧芭
わ…、
ありがとう…!
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背負っていたM◯6×サロ◯ンのバックパックの中から眞白が取り出したソレは、見覚えのあるブランド名が綴られた綺麗なギフトバッグ。
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ちなみに、僕にプレゼントを手渡した後、眞白が丁寧に背負い直したそのバックパックは、去年の眞白の誕生日に僕がプレゼントしたものだ。
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瀬名 碧芭
(贔屓目かもしれないけど、大切に使ってくれてるなあ…)

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もらったプレゼントに歓喜しつつも、内心でほくほくとしながらそんなことを思っていると、
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瀬名 眞白碧芭、いつもいい匂いするじゃん?
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瀬名 眞白今使ってるのは別のモノみたいだけど、
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瀬名 眞白碧芭の好きなブランドでもメンズのフレグランスを取り扱ってたから、
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瀬名 眞白一番人気のヤツをリサーチして選んでみた。
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ちょっぴり得意げに話した眞白の声に引き戻された。
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プレゼントの中身は、どうやら僕のお気に入りのブランドのフレグランス。
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二ッと口角を上げた笑顔を見せた眞白は、僕の愛車の助手席に乗り込んで続ける。
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瀬名 眞白気に入ってくれたらいいんだけど。
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瀬名 眞白テスターで嗅いでみたらめっちゃいい匂いだったし、好きそうかなって。
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瀬名 碧芭
…えっ、もしかしてお店まで行ってくれたの?

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瀬名 眞白……、行った。
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短く呟いてから、眞白がこめかみ辺りをちょこちょこっと指先で掻いた。
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それは、眞白が少し照れたときに、僕がよく目にする仕草。
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そして、それを隠そうとフロントガラスの先にさりげなく視線を飛ばしている。
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瀬名 碧芭
(ああ…、ほんとに可愛いなあ)

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瀬名 碧芭
…ねえ、お店には一人で行ってきたの?

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瀬名 碧芭
それとも、鷹野先生と?

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瀬名 眞白いや、一人で。
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瀬名 碧芭
あ、そうなんだ。

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瀬名 眞白…碧芭の誕生日プレゼントは、一人で買いに行くって決めてるから。
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瀬名 碧芭
…え…っ、

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瀬名 碧芭
え、なにその嬉しい取り決め…。

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瀬名 碧芭
それって新情報なんだけどっ?

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瀬名 眞白「新情報」ってなによ?
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ククッと笑う眞白を見つめながら、僕は驚きのまま目を瞬いた。
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瀬名 碧芭
だ、だって…、

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瀬名 碧芭
僕が知らなかった嬉しい新情報が、こうやって時々更新されるから…、

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切り返した言葉はどこかしどろもどろで、独り言に近い。
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瀬名 碧芭
(これまでずっと、一人でプレゼントの内容考えて用意してくれてたってことだよね…?)

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瀬名 碧芭
いつも僕の好きなブランドのものを誕生日にプレゼントしてくれるけど、

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瀬名 碧芭
それって、一人でお店に行って、
どれをプレゼントするか考えてくれてたってことでしょ?
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瀬名 眞白まあ、そうだけど?
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瀬名 碧芭
鷹野先生とか…
もしくは勝生くんたちと遊びに行ったついでに買ってるんだと思ってたから…。
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瀬名 眞白いやいや、違うんだわ。
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瀬名 眞白そういうの俺、ちゃんとしたいタイプ。
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またこめかみの辺りを指先で軽く搔いた眞白を見て、ふと昔の記憶が脳裏に飛来した。
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思い返せば、眞白が一番最初に僕にプレゼントしてくれたのは、折り紙で作った柴犬やチューリップ、ペンギンにどんぐり。
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それは、眞白がまだ幼稚園の年中さんの頃で、
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母さんが、『これは全部、眞白が一人で作ったものなのよ』と、まるで自分のことのように嬉しそうに言ってくれていた。
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幼稚園の先生に教えてもらったものを僕のために最初から一人で作り直したうえに、その一つ一つの折り紙には青や緑のサインペンを使って、たどたどしい可愛らしい文字で、
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『あおば、おたんじょうびおめでとう』と書いてくれていた。
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それらはすべて、自分で僕の誕生日にプレゼントしようと閃いて、
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誰にも手伝ってもらうことなく、僕のために一人でこつこつと作り上げたもの。
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幼かった眞白の、なんともいえないくらい可愛いサプライズプレゼントだった。
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瀬名 碧芭
あの頃から、ずっと一人で用意してくれてたんだね…。

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今頃そういった健気な「新情報」を知り得た僕は胸を打たれて、わずかに声を震わせた。
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そんな僕に、眞白は少し不思議そうに緩く小首を傾げる。
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瀬名 眞白「あの頃」から?
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瀬名 碧芭
最初に眞白が僕にプレゼントしてくれた頃からってこと。

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瀬名 眞白……俺、最初に何プレゼントしたっけ?
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瀬名 碧芭
ペンギンや柴犬なんかの、手作りの折り紙。

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今でもそれらは、僕の部屋の壁掛けのディスプレイケースに飾ってある。
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瀬名 眞白……ああ、そういえば。
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瀬名 碧芭
嬉しいなあ…。

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瀬名 碧芭
今年も眞白の僕への変わらない愛をたっぷりと感じるよぅ…。

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瀬名 眞白大袈裟。
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瀬名 碧芭
照れなくていいのに。

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瀬名 眞白…、やかましい。
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瀬名 眞白まあ、今年のプレゼントも気に入ってもらえたならよかったわ。
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瀬名 碧芭
気に入るもなにも、嬉しいに決まってるじゃない!

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瀬名 碧芭
香水にこの値段を支払うのはなんだかもったいなくて、

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瀬名 碧芭
LOE○E以外の少し安価なものにしてたんだけど…
使ってみたかったからすごく嬉しいよ。
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大きめのシグネチャーのラッピングボックスは、定番の50mlサイズではなく100mlサイズの香水をチョイスしてくれたことがうかがえる。
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それを大切に抱えていた僕は、まるで指定席を与えるかのように後部座席に丁寧に置いたあと、改めて運転席に身を鎮めた。
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瀬名 碧芭
あの香水、高かったでしょ…ほんとにありがとう、眞白。

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瀬名 眞白買えねー額じゃねえけどな。
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瀬名 碧芭
それでも、眞白はまだ大学生で社会人じゃないし、バイトで頑張って稼いだお金で買ってくれたんでしょ?

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瀬名 碧芭
毎年ランチに付き合ってくれるだけでいいって言ってるのにさ…

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瀬名 碧芭
いつもちゃんとプレゼントも用意してくれてさ…。

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瀬名 碧芭
お兄ちゃんはもう、胸がいっぱいだよぅ…。

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気を緩めたら感極まって泣いちゃいそうだから、ひょうきんな笑顔で誤魔化して車のエンジンをかけた。
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瀬名 眞白毎年、「胸がいっぱい」って言ってる。
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瀬名 碧芭
当り前じゃない。

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瀬名 碧芭
大好きな眞白がくれたものなんだから。

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瀬名 眞白…またひとつ年取ったな、碧芭。
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瀬名 眞白ああもう、ひとつオジサンに近づいたわ。
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どこか揶揄するように言葉を並べた眞白は、しんみりとしてしまわないように、感激屋な僕の心を保つように明るく響く。
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瀬名 碧芭
うぅ、絶対にイケオジになってやるー!

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瀬名 眞白…まあ、なれるんじゃね?碧芭なら。
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瀬名 碧芭
兄弟揃って、イケオジになろうねっ!

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20代後半の兄が、20代前半の弟に提唱を促す『目指せ、イケオジ宣言』。
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満面の笑顔を浮かべて眞白を見遣ると、苦笑交じりに軽く頷いてくれていた。
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