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瀬名 眞白
《 …じゃ、とりあえず、『店員』からいったん離れるわ。》

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--《ああ?!》
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瀬名 眞白
《…、》

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眞白は、バイト先のユニフォームの上着を脱いで、車止めの手すりに投げかけた。
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-《ぼ、僕、大丈夫だから…。》
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-《お兄ちゃんが怪我しちゃう…、僕がいい子にしてたらいいんだから…、》
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眞白が纏う鋭利な空気と、男の剣呑な雰囲気を感じて今から起こることを予測したのか、
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子どもが慄くように小刻みに震えながらそう伝えた刹那、
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--《いらつくガキだな!いちいちうるせーんだよ!》
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男は手にしていた棍棒を子ども目掛けて振り下ろした。
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ゴツッ…!!
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瀬名 眞白
《――ッ、…!》

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子どもの体を咄嗟に引き寄せて庇った眞白は、そのせいで左の前腕に棍棒の打撃をモロに喰らってしまった。
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どうやらそのときに、当たりどころも悪く負荷がかかりすぎてしまったのか、骨まで衝撃が到達してしまったというわけだ。
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-《―――…え、!? 》
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瀬名 眞白
《―――ッ…、大丈夫…、心配ねーよ、》

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-《…っ、!! 》
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瀬名 眞白
《…おまえは、きっといい子だから、》

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瀬名 眞白
《いつもいい子にしてるから、今日は俺に会えたんじゃねーかな。》

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-《ぅ…っ、ッ――》
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瀬名 眞白
《「絶対大丈夫」って、さっき俺、言ったよな?》

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瀬名 眞白
《…今からもっと、『大丈夫』にしてやる。》

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-《 …ッ―――ぅわぁあああんっ…!!》
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途端に堰を切ったように泣き出した子どもからは、
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『安堵』や『縛りからの解放』…いろんな感情が噴水のように湧き出ているかのようだった。
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そんな小さな頭をひと撫でした眞白は、ゆらりと立ち上がる。
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瀬名 眞白
《―――》

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--《 …、》
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まさか眞白がここまで身を挺して子どもを庇うとは思わなかった男は、少し怯んだ様子を見せていた。
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それとは対照的に激昂に火がついてしまった眞白は、 男に向けてニヤリと口角を上げる。
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瀬名 眞白
《…じゃ、次は『俺の番』な?》

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--《 …っ、?!》
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自分よりも弱者だけを虐げて、見掛け倒しの強さをひけらかすこの男のような輩は、
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後先考えずにめちゃくちゃな動作で二発目を仕掛けてくることが多い。
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--《 ッ…!く、喰らえや!!》
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瀬名 眞白
《(はい、ビンゴ――…)》

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想定内の挙動を見極めた眞白は、男の手にある棍棒を慣れた所作でサッと奪い、向かい合わせに立つ男の左上腕を加減しつつも強く叩きつけた。
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--《ッ、う…っ!!》
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瀬名 眞白
《おっと。全然思いっきり殴ってねーけど?》

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瀬名 眞白
《これくらいでヨレヨレかよ。笑えるなあ。》

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--《クッ…、うぅ…、》
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瀬名 眞白
《この程度のアタリで左腕庇ってたら、次の打撃でその右の指の骨折れるぞ?》

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瀬名 眞白
《俺、外さねーから。》

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眞白は、理不尽に行動を起こす相手と対峙するとき、戦々恐々とさせるようなフレーズをわざと吹き掛けることがある。
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ヒタヒタと近づく恐怖を与えて、非情な行為がいかに愚かであるのかを思い知らせて懲らしめるために。
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--《―――っ、…》
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瀬名 眞白
《なあ、あんたさ、》

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瀬名 眞白
《むやみに棍棒振り回すだけの自分が、一番強いと思ってる?》

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--《…っ、 う、うるさいっ…!》
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瀬名 眞白
《赤の他人全員が、狂ったあんたみたいなヤツに何も手出しできねえと思ってる?…まさか?》

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--《…、ッ…》
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瀬名 眞白
《世間知らずで残念でした。》

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瀬名 眞白
《世の中には、俺みたいなのがいるんだよ。》

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--《…―――》
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瀬名 眞白
《で?なによ、この棒…、いつも何に使ってんだよ?》

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瀬名 眞白
《こんなモン振り回して、戦闘ごっこでもしてるんか?》

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--《 こ…っ、子どものしつけ用だっ、こいつが俺のガキになるんなら必要なんだよ! 》
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--《あんたに関係ないだろうが…っ、》
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瀬名 眞白
《 …ハッ…、「しつけ」だ?》

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ふつふつと湧き出る激しい憤りは、眞白が通す正義。
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瀬名 眞白
《ならちょうどいいわ、いい歳こいてバカげたことをやってるおまえをコレで『しつけ』てやるよ…――っ、オラッ!!》

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―――ガツッ…!!
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眞白は宣言通り、左腕を庇った状態の男の右手を強く叩きつけて、
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--《ぁっ!! ぐ、ッ…!! 》
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瀬名 眞白
《もういっちょいっとくか!! 『痛み』を忘れねえようにな?!》

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間髪入れずに、今度は右の上腕を棍棒で叩いた。
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眞白の左前腕にも子どもを庇ったときに打たれた痛みはあったが、構うことなく男の左右の上腕を三度ほど繰り返し打ち続けると、
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男の顔は苦痛に歪んでその場に崩れ落ちた。
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--《 ッ、ク…ぅ…! 》
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仮に指を骨折し、腕に痣が残っても、この子どもが日常的に男から受けてきた暴○よりは遥かに軽いもの。
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瀬名 眞白
《 おいおい、なんだよ、我慢が足りねえなあ?》

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瀬名 眞白
《あんたがこの子を殴ってきた回数よりも、ずっと少ないだろうが?! 》

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--《 …ぅ、う…ッ、》
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瀬名 眞白
《…くだらねーことしやがって、胸糞悪ぃわ。》

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瀬名 眞白
《もう二度と、子どもに暴○振るうな。》

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--《ぅ…、っ、》
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瀬名 眞白
《俺、ここでバイトしてるから、》

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瀬名 眞白
《あんたがもしまたコイツに暴○振るったら、店に逃げ込んで来るようにすっから。》

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--《―――…っ》
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瀬名 眞白
《そのときは、もれなく俺があんたの相手する。…俺、あんたの顔、覚えたから。》

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瀬名 眞白
《 …この意味、さすがに分かるよな…?》

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釘を刺した眞白の低音に、男は押し黙り、青ざめてわずかに震えていた。
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…その後、
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店内から騒ぎを知った他の店員がすぐに子どもを保護し警察にも通報したことで、眞白も事情聴取を受けたが、
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状況を汲み取った警察の判断もあって早い段階で帰路に就くことができた。
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・・・
-
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