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眞白が、左腕の前腕に怪我を負った。
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骨に少しひびが入った、不全骨折。
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骨形は保たれているから重症というわけではないけど、ギプスでしっかり固定して、全治8週間。
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怪我を負って帰宅した眞白は、まさか自分の腕の骨にひびが入っているなんて思いもしなかったらしい。
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痛みはあるけど問題ないだろう…と気にも留めず、左手を庇いながらもきちんとご飯を食べ、お風呂にも入り、
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聞き手である右手は健在だから、大学の提出レポートも無理なくこなせていた。
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ただ、夜中からさらに痛みが増してきたようで、隣で眠る僕のことを起こさないように黙って、こっそりと常備している鎮痛薬を飲んでいた。
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そんな眞白に僕が気づかないわけがなく、心配で声を掛けたら、
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『念のためだから』と何でもない風に切り返されて、素直にそれを信じた僕はそのまま眠りについた。
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実はそのとき、眞白の腕にはかなり強い痛みが出ていたらしい。
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僕たちは大学生になってからルームシェアでの生活を始めて、仕送りやバイトで生活費等を賄いながら仲睦まじく暮らしていた。
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家事は当番制にしていて、眞白が怪我をした次の日、
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朝御飯作りの当番だった僕は、眞白の前腕の部分がパンパンに腫れているのを見て思わず発狂した。
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武藤 勝生
《ぎゃあっ!眞白っ!?なにその腕っ…?!》

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瀬名 眞白《……、あれ…?なんか腫れてるな?》
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武藤 勝生
《なにをのんきにっ――痛いだろ?!それだけ腫れてたら!》

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瀬名 眞白《まあ…うん……、そうだな、痛いな…》
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武藤 勝生
《どれくらい痛い?!》

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瀬名 眞白《「どれくらい」……ジンジン…ズキズキ…?》
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瀬名 眞白《いや、ガンガン…?なんつーか…、バールでずっと殴られてるみてーな…?》
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武藤 勝生
《―――》

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痛みでぐっすり眠れていなかったのか、ぼんやりとしながらも眞白が紡ぐ生々しい説明に、気が遠くなりそうに眩暈を覚えた。
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この日、二人とも大学の講義は欠席。
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痛みのせいでさすがに朝御飯は喉が通らないという眞白を、急遽病院へ引き連れて行ったというわけで。
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武藤 勝生
(…まったく、眞白ってば、のんびり構えるにもほどがある)

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床上に膝立ちした僕の前で胡坐をかいて座る眞白を見下ろしながら、数日前のことを回顧して小さく溜め息を零した。
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ギプスが取れるまでは、眞白が一人でこなせないことを手伝っていて、今もお風呂上がりの眞白の髪をドライヤーで乾かしている。
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武藤 勝生
ドライヤーの風、熱くない?

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瀬名 眞白ん、へーき。
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瀬名 眞白……髪を乾かす勝生の手の捌きが絶妙で、
気持ちよくて眠くなってきた…。 -
武藤 勝生
えー!
今日は先に寝ちゃダメだよ?
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悠長にあくびをした眞白の髪を乾かしながら、ちょっぴりむくれて見せる。
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瀬名 眞白…なんで?
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瀬名 眞白いつも「眠くなったら先に寝ていいよ」って言ってくれるじゃん…?
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武藤 勝生
今夜は別。

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武藤 勝生
電気を消して、僕がちゃんとベッドに入るまでは起きてて。

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瀬名 眞白……あ、そっか…。
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瀬名 眞白ッ……ククッ、…怖がり。
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武藤 勝生
もぉ、そこで笑わないっ。

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瀬名 眞白ははっ、だってさ…、
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瀬名 眞白さっき意地張って怖い動画なんか見るからこうなるんじゃん?
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武藤 勝生
いいじゃんかっ。

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武藤 勝生
大学の友達の中で話題になってたから、ちょっとだけ興味があったんだもん。

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瀬名 眞白ったく…、
仕方ねーヤツ。 -
武藤 勝生
うるさいやい。

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苦笑した眞白のうなじに、ちょっとした反撃とばかりにカプッと小さく嚙みついた。
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瀬名 眞白ッ、ははっ、食うなー。
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武藤 勝生
んー…うまい。

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冗談っぽくニヤリとしたあと、眞白の左前腕を覆うギプスに視線を落とすと、
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武藤 勝生
…ギプスのその文字、なかなか消えないね?

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10日くらい前に僕がギプスに書き記したソレが、まだしつこく残っていることを不思議に思って問いかけた。
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瀬名 眞白んー?
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瀬名 眞白…そりゃまあ…、
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武藤 勝生
…「そりゃまあ」?

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武藤 勝生
何か理由でもあるんだ?

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瀬名 眞白…ん。
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瀬名 眞白薄くなったら、上からペンでなぞって書き足してるから。
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武藤 勝生
ウソ?!マジで!?

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瀬名 眞白マジで。
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瀬名 眞白…バレたわ。ハズい。
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武藤 勝生
…ううっ、眞白ぉお!

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瀬名 眞白うお…ッ、
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ドライヤーの稼働を止める時間すら惜しくて、
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あらぬ方向に熱風を吐き出し続けるドライヤー片手に今度は背後から眞白の首に抱きついた。
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武藤 勝生
こっそりとなに可愛いことやってんのさぁ!

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グリグリと後ろから眞白の肩に顔をうずめると、まだ乾ききっていない柔らかな髪が僕の頬をくすぐる。
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瀬名 眞白こんなことをギプスに書いたおまえのほうが可愛いだろうが。
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照れたように微笑んだ眞白は、怪我をしていない右手を掲げて僕の頭をぽんぽんと撫でた。
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左前腕のそのギプスには、
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【 Feel better soon, my love. ― Shoi. 】
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…と、油性マジックで僕が書いた文字が大きく並ぶ。
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大学は英文科に通う僕らしい筆致。
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眞白が最初にこれを目にしたときも、嬉しそうに口端を緩めて照れ笑いしていた。
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…どうして、眞白がこんな怪我を負ったのか。
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帰宅した直後は詳しく語らなかった眞白だったが、数日前の病院までの道すがら、ぽつりぽつりと話してくれた。
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