迷走のあと -3

  • ピーク時の時間帯が過ぎ、グッと客足が減ったコンビニ店内に客として残るのは俺だけ。

  • 鷹野 光星

    眞白、これをお願い。

  • 優以斗との話を終えた俺は、ペットボトルの珈琲をカウンターの上に置き、微笑みながら眞白に声を掛けた。

  • 背を向けてなにか作業をしていた眞白は、無言でこちらに振り向く。

  • 瀬名 眞白

    …ありがとうございます、

  • 瀬名 眞白

    180円になります。

  • どういうわけか、その言い回しはマニュアル通りの他人行儀で。

  • 瀬名 眞白

    ちょうどいただきます。

  • 鷹野 光星

    …、?

  • 不思議に思いながら代金をトレーに乗せた俺に応対する眞白は、なんだか少しむくれているようにも感じた。

  • 鷹野 光星

    …眞白?

  • 瀬名 眞白

    ……、なに。

  • 鷹野 光星

    どうした?
    なんだか様子が変っていうか…、

  • 瀬名 眞白

    ……別に。

  • 鷹野 光星

    でも――

  • 瀬名 眞白

    俺、今日は光星の家に泊まんの止めよーかな。

  • はあっ…と、これまでに見たことがないような失意を滲ませて、溜め息交じりに眞白が畳みかけた。

  • 鷹野 光星

    えっ…どうして?

  • 想像していなかったいきなりの発言に、思いっきり戸惑ってしまう。

  • 鷹野 光星

    眞白?

  • 瀬名 眞白

    ……

  • 鷹野 光星

    どうしたんだ?

  • 瀬名 眞白

    ……さっき、店内清掃してて、たまたまチラッと外見たら、

  • 瀬名 眞白

    光星が優以斗さんと仲良く喋っててさ。

  • 鷹野 光星

    ―――…あっ、

  • 瀬名 眞白

    「あっ」ってなに?

  • 瀬名 眞白

    なんかやましいことでも話してた?

  • 訝しげに目元を引き締めて、ツンとした様子で眞白が言う。

  • 瀬名 眞白

    いったいどんな話をしてたんだか。

  • 鷹野 光星

    そんな、やましいことなんて何も…

  • 瀬名 眞白

    じゃあさ、サッサと話済ませて、店に入ってくればいいじゃん。

  • 鷹野 光星

    それは、その、話が少し長引いてしまったから――

  • 瀬名 眞白

    俺、めっちゃ気になって、
    なんかいつもより多めに床のモップ掛けしたわ。

  • 瀬名 眞白

    マジでもう、今までの中で一番の仕上がりってくらい、床がピッカピカになったわ。

  • 鷹野 光星

    (……え、ちょっと待て…嘘だろ?)

  • 信じられない気持ちが胸の中で渦巻く。

  • 初めてこんな眞白を目にしたから。

  • これまでもほんの少し拗ねたようになることはあっても、ここまで子どものように不貞腐れたことはなかったのに。

  • 鷹野 光星

    (珍しいな…)

  • その態度の愛らしさに、思わず呆然となってしまう。

  • そして、俺は強く悟った。

  • 鷹野 光星

    (…ああ、そうか…、)

  • 鷹野 光星

    (迷走するのは、俺だけじゃないんだ)

  • どんなに心根が強い眞白でも、元恋人同士だった俺と優以斗が長話をしているとなると、気が気じゃないのだということを。

  • 鷹野 光星

    (普段、ここまでの態度を見せてくれないから…)

  • 鷹野 光星

    ごめんな、眞白。

  • 瀬名 眞白

    …っ、な、なにがっ?

  • 瀬名 眞白

    なにが「ごめん」?!

  • 瀬名 眞白

    まさか、元サヤとか――

  • 鷹野 光星

    気づいてやれなくてごめん。

  • 瀬名 眞白

    …えっ?

  • 鷹野 光星

    絶対に、俺が眞白を裏切るようなことはないから。

  • 鷹野 光星

    安心していいんだよ?

  • 瀬名 眞白

    ……、ほんとか?

  • 鷹野 光星

    ああ。

  • 瀬名 眞白

    ……『焼き木杭』が燃え盛ることねーか?

  • 鷹野 光星

    ははっ、面白いことを言う、

  • 鷹野 光星

    燃え盛らないよ、絶対に。

  • 瀬名 眞白

    ……

  • 鷹野 光星

    眞白がいつも俺に『信じろ』って言ってくれているように、
    眞白も俺のことを信じてくれ。

  • 瀬名 眞白

    ………うん…。

  • 鷹野 光星

    大丈夫だから。

  • 静かに俯いた眞白の片頬にそっと手を伸ばして、さらりと撫でる。

  • ちょうどそこに、

  • ---

    ――あっ!
    え、えっ…と、?!

  • 店の奥から現れた店長が俺たち二人を目にして驚き、バツが悪そうな面持ちで声を途切れさせた。

  • 鷹野 光星

    驚かせてすみません。

  • 鷹野 光星

    俺は、眞白…――瀬名くんの恋人なので…つい。

  • 初めて俺が気兼ねすることなく、自ら率先して周知の事実を生み出した瞬間。

  • ---

    ああ…なるほど、そうなんですね…!

  • 鷹野 光星

    ええ。
    決して不審者ではないのでご安心を。

  • もう一度、今度は眞白の唇の輪郭を親指の先で短くなぞり、意気揚々と恋人同士であることを見せつけた。

  • 鷹野 光星

    じゃ、バイトが終わるまであと少し、外で待ってるから。

  • 鷹野 光星

    …もちろん、今夜はうちに泊まるよな?

  • 瀬名 眞白

    泊まる!

  • 鷹野 光星

    よかった。

  • 鷹野 光星

    あと少し、頑張って。

  • ほんのりと頬を赤らめながらも、嬉しそうに大きく頷いた眞白を見遣ってから外に出た俺は、

  • 晴れ晴れとした気持ちで夜気に触れながら、星屑がひっそりと煌めく星空を眺めていた。

  • 鷹野 光星

    ……

  • 眞白のことを待つこの時間ですら愛おしい…そう巡らせながら。

  • 迷走のあと END



  • 【あとがき】まずは、お読みいただきありがとうございます(多謝♡

    「光星」「優以斗」「眞白」の『迷走』を書き表してみましたφ(・ω・。)かきかき
    その迷走のあとに知るそれぞれの心の動き…的な感じでしょうか。

  • なんといいますか、光星の心を少し楽にしてあげたかったというか…優以斗との切ない別れがあって、優以斗の真意を光星に教えてあげたいな…そんな風に思って書いてみました。
    あと、眞白が普段よりも拗ねたところとかも。
    やっぱり、迷走しちゃうときもあるんですよね、チート機能発動男子もっ笑

  • ちなみに、フードフェスのときのお話は【EPISODE STORY】の【描く先には君がいる】で書いてますので、まだご覧になっていない方はぜひ♪

  • エピソード話、みなさんに楽しんでもらえると嬉しいです♡


    ゆさみん

タップで続きを読む