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みんなでアイスを食べながら休憩していたところに、後輩の一人の男子に彼女からLIN〇が入ったことで、今日の勉強会の続きは次回に繰り越されることになった。
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彼には最近彼女ができたらしく醸し出すニヤけ感が凄まじかったために、気を利かせた眞白がそう判断した。
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もう一人の後輩も帰宅して、部屋に残ったのは僕と眞白の二人だけ。
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互いが通う大学の話やたわいのない雑談を交わしていたが、不意に眞白が話を変えた。
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瀬名 眞白そういえば勝生、戸川とはうまくいってんの?
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武藤 勝生
…、

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できれば、触れられたくない話題に。
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『戸川』とは、この間まで僕が付き合っていた彼女の苗字だ。
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別れてそんなに日は経っていないけど、その固有名詞は思っていたよりも早く記憶に薄くなっていた。
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武藤 勝生
…なんで?

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武藤 勝生
知りたい?

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瀬名 眞白知りたいっつーか…
そういや最近、戸川の話聞かねーなと思って。 -
瀬名 眞白今も話に出てこなかったじゃん?
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武藤 勝生
あー…なるほど。

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さっき、後輩の一人に彼女から連絡があったからか、眞白にふとその疑問符が浮かんだのかもしれない。
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…いやそこは、クエスチョンのフラグ、立ててくれなくていいんだけどな…。
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瀬名 眞白今日なんかもさ、土曜だし、遊びに行かねーの?
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瀬名 眞白なんなら俺、そろそろ帰っ――
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武藤 勝生
いや、いいんだ。遊びに行かないから。

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思わず、勢いよく畳みかける。
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僕の咄嗟の切り返しに眞白は少しだけ片眉をピクリとさせたけど、それ以上は追求することなく、
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瀬名 眞白…そ?
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納得したように短く声を吐き出した。
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瀬名 眞白……
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武藤 勝生
…、

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それなのに、僕をじっと見据えて押し黙るから、その視線に耐えられなくなってサッと顔を逸らしてしまった。
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武藤 勝生
(うぅ…根負け)

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瀬名 眞白…おまえ、様子が変だな?
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武藤 勝生
(…あ、マズイ)

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武藤 勝生
…そ?

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瀬名 眞白俺の真似しねーの。
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武藤 勝生
いいじゃーん。

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瀬名 眞白……勝生。
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武藤 勝生
なーに?

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瀬名 眞白おまえ、もしかして…、
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僕の表情の微々たる変化を読み取るように、眞白がさらに凝視してくる。
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武藤 勝生
なんだよー。

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広がる笑顔はどうしてもぎこちなくなってしまうけど、すぐにそれを打ち消して、
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あたかも今思い立った風に、食べ終わったアイスのカップを集めてゴミ箱に捨てることをしてみた。
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武藤 勝生
……

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瀬名 眞白……
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武藤 勝生
(……この空気感…気まずい)

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眞白に狙いを定められたら、なかなか誤魔化しは効かない。
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だからこそ、そうならないように、いつも予防線を張っておくんだけど。
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武藤 勝生
(……、無理だな、これは)

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…仕方ない。降参。
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武藤 勝生
実はさ…、別れたんだよ。

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瀬名 眞白――やっぱり。
なんか様子が変だなって思ったわ…。 -
武藤 勝生
さっすが、眞白は鋭いなー。

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瀬名 眞白なんで別れたんだよ?
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武藤 勝生
んー……それはまあ…、
ちょっといろいろあって。
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瀬名 眞白言えねーこと?
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武藤 勝生
……、かな。

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瀬名 眞白親友の俺にも言えねーこと?
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武藤 勝生
……まあ…、うん。

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言えるわけない、親友だからこそ絶対に言えない。
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『眞白のことが好きだから、彼女と別れた』…だなんて。
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瀬名 眞白……そっか。
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武藤 勝生
なんか、ごめん…。

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武藤 勝生
気に掛けてくれたのに…。

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瀬名 眞白謝る必要ねーよ。
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瀬名 眞白ただ…、大丈夫なんだな?
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武藤 勝生
…え?

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瀬名 眞白おまえの心の状態とか…大丈夫か?
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武藤 勝生
…―――

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瀬名 眞白俺にも言えねーこととか…今までそんなことなかったじゃん?
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瀬名 眞白別れた理由、よっぽどのことじゃねーの?
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武藤 勝生
……、

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瀬名 眞白話したくねーなら俺も無理には聞かねーし、勝生が大丈夫ならいいけど…、
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瀬名 眞白もしも辛くなったら言えよ?
いつでも聞くから。 -
武藤 勝生
―――

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どんなところからでも、眞白の『無自覚親友ムーブ』はいきなり剛速球で飛んでくる。
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悪気がまったくない純粋な言動って、本当にエグい。
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武藤 勝生
……

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…辛いよ、もう。
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眞白を好きになってしまったときから、ほんとはもう、ずっと苦しい。
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いっそ想いを吐き出せたらどれほど楽になるだろう…何度もそう思った。
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でも、そうすると、眞白が手にした幸せを壊してしまうし、慈悲深い眞白が苦しむのは目に見えている。
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眞白が辛くなる姿なんて、絶対に見たくない。
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それに…もしも僕が想いを告げたとしたら、『親友』である関係までもがきっと崩れ去ってしまうだろう。
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武藤 勝生
(嫌だ、そんなの)

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眞白の心を守るためにも貫き通すと決めた『僕の嘘』。
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でも、眞白のためだけじゃない、僕の心も保つため。
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せめて、【親友である眞白】だけは失いたくないから。
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