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見た目もいい、頭もいい、喧嘩も強い。
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眞白は、僕が思いついたメタファー『チート機能発動男子』通りに生きるイケメン。
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僕も周りからは俗にいう『イケメン』って言われることがあるけど、眞白ほどじゃない。
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そう思っていつも過ごしてきたけど、
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-あたしの『超お気に入りの勝生♡』に、コレあげるっ。
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武藤 勝生
え、なに?

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-勝生、甘いもの好きでしょ?
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武藤 勝生
…うん、好きだけど…、

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クリスマスイブの終業式、隣のクラスの女子から告白めいた言葉と小さなギフトバックを手渡された。
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この子からは、当時同じクラスだった高1のときにも告白をされたことがある。
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そのときすでに僕は眞白と付き合っていたから丁寧に断って、この子とは友達としての関係を築いてきたつもりだったけど。
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武藤 勝生
(うーん…、告白に近いよね?これ…)

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今もまだ、この子の瞳の奥や言葉の端々に僕へのハートマークが見え隠れしているのが分かる。
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武藤 勝生
いや…こういうの、悪いけどもらえないよ。

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-そんなこと言わないで、
今日はちょうどクリスマスイブだし、もらって? -
武藤 勝生
でもさ…コレ、手作りじゃん?

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ギフトバックのセロファンから覗くのは、おそらく手作りのチョコレートクッキー。
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武藤 勝生
ちょっともらえない…っていうか。

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-ただのチョコレートクッキーだよ?
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武藤 勝生
「だだの」じゃないじゃん。「手作り」じゃん。

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武藤 勝生
せっかくだけど、こういうのはもらわないようにしてるから。

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-…勝生は眞白の恋人だから?
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武藤 勝生
うん。

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-そっか…。
やっぱりそうだよね。撃沈するとは思ってた。 -
武藤 勝生
(…やっぱり、告白っぽいものだったか…)

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-でも…
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-勝生のことを気に入ってる女子がいるって、改めて分かってもらえただけでも嬉しい。
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武藤 勝生
……、

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-…あっ、ごめん…、
そんな切なそうな顔しないで? -
-あたし、勝生のことを困らせるつもりとかじゃなくて――
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武藤 勝生
大丈夫、ちゃんと分ってるから。

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柔らかな微笑みで畳み掛ける。
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確かに、申し訳なさで胸が痛んだけど、どうすることもできないことに対して僕が傷心するのは筋違いだと思った。
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だって、一番切ない想いを抱いているのは、目の前のこの子。
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だからこそ、
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武藤 勝生
でも、やっぱりコレはもらえない。

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残酷かもしれないけど、クッキーが入ったギフトバックを静かに押し返した。
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『手作りのもの』ってすごく気持ちがこもっているから、軽く受け取ることはできない。
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-じゃあ、
せっかく作ったんだし、眞白と二人で食べて? -
武藤 勝生
いやいや、なに言ってんの、それはダメでしょ。

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僕への想いを込めて作ってくれたクッキーを、平気な顔して眞白と二人で食べるなんてできるわけがない。
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相手の気持ちを推し量ることができる眞白も、きっと僕と同じ考えだろう。
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-気にしなくていいのにー。
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武藤 勝生
いや、普通は気にするでしょうが。

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-そっかあ…。
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武藤 勝生
そこでトーンダウンする?

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-だって…、
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-振られちゃったのはめっちゃ悲しいけど、
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-二人が仲良くしてるのも、やっぱり嬉しいんだもん…。
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武藤 勝生
もう…、
どこまで人がいいんだよー。
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ちょんと唇を尖らせたような顔つきのままでいるその子に思わず苦笑いしながら、きちんと向き直る。
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武藤 勝生
…ほんとに、ありがとうね。

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武藤 勝生
クッキーをもらうことはできないし、
僕のことを想ってくれてるその気持ちにも応えることはできないけど…、
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武藤 勝生
一生懸命に伝えてくれたこと、忘れないから。

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-…勝生…。
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この子の細い指先がわずかに震えているのは、寒いとかじゃなく、緊張も然り自分の想いをコントロールしているから。
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きっとこの子は、わざと『好き』って言わずにいてくれている。
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重くならないように…眞白という恋人がいる僕の心を守るために。
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それでも、『どうしても』の想いがあったから、改めての玉砕覚悟で僕の目の前にいる。
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だから、この子が抱く僕への想いを、『ごめん』という言葉で払いのけるようなことはしたくないと思った。
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武藤 勝生
『お気に入りの勝生』って言ってくれてありがとう。

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-もう…、
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-勝生のそういうところが…、
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-なんともいえないくらい『推し』!
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また『好き』を誤魔化して、この子は飾らない笑顔を広げた。
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-じゃあ…
また来年も、友達としてよろしくね、勝生! -
武藤 勝生
うん。こちらこそよろしく。

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ああ、なんだか、眞白に告白する前の僕に似てるんだよなあ…。
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軽く手を振って立ち去る健気な姿に、胸がチクチクと痛む。
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武藤 勝生
(うぅ、切ない…)

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そんなことをセンチメンタルにほろりと思いながら、その子と別れてくるりと踵を返した――
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瀬名 眞白……
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武藤 勝生
…、あれ?眞白?

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――その先の廊下で、眞白が壁に背を預けて立っていたから、何も悪いことをしていないのに心臓がぴょこんと跳ねた。
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武藤 勝生
ど、どうしたの?
今日はバイトじゃなかった?
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瀬名 眞白バイトだよ。
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チラリとこちらを一瞥しただけで、また前に向き直る眞白にいつもの微笑みはない。
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武藤 勝生
もう帰ったかと思ってた。
せっかくだから、途中まで一緒に帰ろっか。
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瀬名 眞白…ん。
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普段から聞き慣れてる短い返事なのに、いつもと何かが違う。
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眞白はもともと喜怒哀楽が激しいわけじゃないし、こういった切り返しには離れてるけど、やっぱりどこか不機嫌だ。
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武藤 勝生
(…これは、もしかして…)

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嫉妬してる?
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まさかの?
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武藤 勝生
…ちなみに眞白、いつからあそこにいた?

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瀬名 眞白さっきからずっと。
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武藤 勝生
「ずっと」…。

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瀬名 眞白……
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武藤 勝生
なら、見てた?

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瀬名 眞白なにを?
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武藤 勝生
僕が、隣のクラスの女子から『お気に入り宣言』されてたの…見てた?

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瀬名 眞白……、
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ようやくむっくりと壁から離れてこちらに歩み寄った眞白は僕の前に立ち、少しばかり薄暗い表情で視線を伏せる。
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瀬名 眞白見てた。
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武藤 勝生
一部始終?

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瀬名 眞白…最初っから最後まで。
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武藤 勝生
声掛けてくれればよかったのに。

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瀬名 眞白できねーよ、そんなの。
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苦虫を嚙み潰したような顔つきになった眞白は、フイッと窓辺に視線を投げた。
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