-
瀬名 眞白だいぶなんとかなってきたし、もう遅いから、
-
瀬名 眞白そろそろこの辺で終わろうぜ?
-
学園祭3日前の夜。
-
クラスメイト全員で、総仕上げに向けての作業に打ち込んでいた。
-
出し物は、ちょっとしたカフェを演出する予定で、教室を小洒落た雰囲気にするために皆で力を合わせていたのだが、
-
想定外に降りかかったアクシデントに余分な労力と時間を奪われていた。
-
そんな僕たちが休息もそこそこに教室の壁時計を見上げたのが、午後21時。
-
そこからさらに1時間ほど経過した今、とうとう眞白が声を上げた。
-
瀬名 眞白明後日の本番に備えてそろろそろ帰らねーと、みんな疲れが出たらマズイ。
-
瀬名 眞白あとさ、夜ももう遅せーし、
男子は帰り道が同じ方向の女子を家まで送ってこーぜ。 -
---
そうだな、おっけー。
-
片付けに取り掛かっていたクラスの男子一人の賛意の声に、他の男子たちもそれぞれが頷いて快く引き受けてくれた。
-
晴蘭学園はもともと女子の割合が少なく、男子がひしめき合う学校で、
-
さらに僕たちクラスの女子の人数が他のクラスよりも少なくて、必然的にレディファーストな秩序となる。
-
といっても、昔から眞白の弱者への配慮は時や場所、境遇を選ぶことなく柔軟に発揮されているけど。
-
武藤 勝生
(眞白はほんとに優しいなあ…。そういうところが好きすぎる)

-
武藤 勝生
…、

-
いやいやいや…にやける、顔に出る。
-
誤魔化すようにコホンとひとつ咳払いをしてから、
-
武藤 勝生
いいね!
みんなで協力しよう。
-
思わず内心で惚れ惚れしてしまったことを悟られないように爽やかな笑顔を作り、クラスメイトたちに向けた。
-
瀬名 眞白俺は山那と円香、送ってくわ。こいつらと方向が一緒だし。
-
瀬名 眞白他の男子、あとの女子のこと頼める?
-
瀬名 眞白もしも遠いとかあったら、他の女子も俺が送ってくけど。
-
---
ありがと瀬名。たぶん問題ないよ。
…えっとじゃあ、ちょっと決めようか、――― -
皆が家の方向などの話し合いを和気あいあいと進める中で、その輪を抜けて円香が眞白に静かに近づいた。
-
篠原 円香えっと、あの…瀬名くん。
-
篠原 円香僕は男子ですけど…。
-
瀬名 眞白ん。夜も遅いからな。
-
瀬名 眞白変なヤツに絡まれでもしたら困る。
-
篠原 円香そ…そうですよね…、
お手数かけてすみません。 -
円香はれっきとした男子だけど、誰が見ても見た目が女子だから、眞白が心配するのも無理はない。
-
眉尻を下げてシュンと俯いた篠原の小ぶりな頭を、眞白は優しくポンポンとした。
-
瀬名 眞白おまえがちゃんと男らしいのは俺がよく知ってる。
-
瀬名 眞白でも、初対面のヤツらは見た目で判断して、男前なおまえのことを知らねーからな。
-
瀬名 眞白今日は遅くなったし、念のためだ。気にするな。
-
円香の男子としての尊厳をさりげなくフォローする眞白のその言葉は、円香本人だけでなく、僕やクラスの皆の心を温かくする。
-
武藤 勝生
(こういうところも、たまんないんだよなー)

-
そのヒューマンスキルの高さは、眞白が生きてきた中で培ってきたというよりも、生まれ持った才覚。
-
そして、人の心の機微に敏感な円香がそれに気づかないほど疎いわけがなく、嬉しそうに目元を綻ばせると、
-
篠原 円香はいっ…ありがとうございます!
-
花の蕾が開くような柔らかな笑顔で頷いた。
-
山那 みさきいいじゃん、円香、一緒に帰ろー。
-
山那 みさき私は眞白が家まで送ってくれるから、シアワセ!
-
瀬名 眞白おまえはいちいち大袈裟。
-
山那 みさきだって、眞白に特別扱いしてもらえるなんて滅多にないもん。超激レア!
-
山那 みさき…ねえ、眞白。
-
山那 みさき私の家に着いたら、いっそ送りオオカミになっちゃわないー?
-
ちょっぴりおどけたように明るく眞白を見上げた山那だったが、当の眞白は表情一つ変えずに、
-
瀬名 眞白なるわけねーだろうが。
-
瀬名 眞白勝生一筋の俺が。
-
真顔で堂々と言い放った。
-
武藤 勝生
(眞白ってば……ヤバイ、嬉しすぎる)

-
またもやにやけそうになる頬を引き締めつつ、黙々と片付けをしながら動じないフリをするのが大変だ。
-
ここで無防備にフヤけたら、良い意味でみんなから囃し立てられてしまうから。
-
…そんな僕たちは、学校でも公認の恋人同士で。
-
小学校から親友同士の僕たちだったが、中学時代に眞白が荒れていた頃、僕の方から次第に眞白を恋愛対象として見るようなり惹かれていった。
-
眞白の方も、そんな僕のことをいつしか好きになっていてくれていたらしく、意を決して告白した僕にすぐにオッケーの返事をくれた。
-
僕たちのセクシャリティは、少し謎。
-
もともとお互いがゲイというわけでもなく、かといってバイと決めつけるには違う気もする。
-
僕は眞白だから好きになり、眞白も僕だから好きになった…つまりは、互いの存在が限定なのかもしれない。
-
中3の秋頃から付き合い始めたが、当時は受験シーズンも後半戦に入っていたから何かと我慢の日々。
-
晴蘭での勉強は大変だけど、今は高2だから、大学受験が本格的になるまではデートも満喫。
-
たくさん一緒に過ごせているから、受験で忙しくなって会える回数が減る高3になるのが今からもう憂鬱だけど。
-
武藤 勝生
(…眞白と同じ大学に行きたいけどなあ…)

-
眞白は頭も良いし理系だから、僕が目指す文系の大学を視野には入れてないだろう。
-
…遠距離恋愛なったら、寂しすぎる…。
-
武藤 勝生
(そんなこと考えてたら悲しくなるっ、別のこと考えろー)

-
内心で頭を振って、悲観的な思考を振り払った。
-
山那 みさきほんとに眞白は、勝生オンリーだもんね。
-
瀬名 眞白当たり前だろうが、付き合ってんのに。
-
山那 みさきね、例えばさ…、
-
山那 みさきめっちゃ可愛い女の子がいたらどうする?
-
瀬名 眞白どうもしねー。
-
山那 みさきま、まあ、そうだろうけど。
-
山那 みさきそのすっごく可愛い女の子が眞白に告白したら、どうする?
-
瀬名 眞白断る。
-
山那 みさき早っ。容赦ない即答。
-
瀬名 眞白…つまんねーこと聞くなら、一人で帰るか?
-
山那 みさきわあ、ごめんっ!
もう聞きませんっ! -
武藤 勝生
あはは、
山那、素直じゃん。
-
眞白の腕にしがみついてペコペコする山那の姿に思わず笑ってしまう。
-
例えば、女子が眞白に絡んだところで僕がいちいち嫉妬しないのは、こういった眞白のブレない心情をいつも目の当たりにしているからだ。
-
瀬名 眞白なあ、勝生も一緒に帰ろうぜ?
方向一緒だしさ。 -
武藤 勝生
んーごめん、
みんなと一緒に帰りたいんだけど、
-
武藤 勝生
僕はまだもう少しやることがあるから、山那と円香を送ってあげて?

-
武藤 勝生
僕なら大丈夫だから。

-
学園祭の実行委員も兼ねている僕は、クラスでの作業以外の仕事も溜まっていて、パソコンを使用してのタスクがまだ少し残っていた。
-
僕だって男。
-
夜道が一人でも、女子よりは不審者に遭う確率は低い。
-
怖いとすれば、暗闇や幽霊などの類。
-
それは子どもの頃から変わらない、僕の弱点だったりする。
-
武藤 勝生
(暗い夜道も苦手だけど、街灯や月明かりもあるし…、)

-
そこはまあ、自転車を飛ばせばなんとかなるだろう。
-
︙
-
NEXT
タップで続きを読む