『もしも』の扉が開くとき -2

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    え…?!

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    え?!
    か…「彼氏」?!

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    眞白、おまえ――…

  • 瀬名 眞白

    なんつーか、
    恋愛に性別とか…よく分かんねーんだよ。

  • 瀬名 眞白

    好きになった相手が男だっただけで。

  • 瀬名 眞白

    つまりは、好きになった相手が全て…みたいな?

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    マジか!!

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    じ、じゃあ、もしかしたら、
    眞白が俺のことを好きになった可能性もあったってこと?!

  • 瀬名 眞白

    んー…
    あったかもしれねーな?

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    うおおおおお…マジかあ…!

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    …なあ、眞白、
    その彼氏に捨てられたら、いつでも俺んとこに来いよ?

  • 瀬名 眞白

    気持ちはありがたいけど、縁起でもねーこと言うな。

  • 窘めるように微笑みながら、眞白は氷だけになったレモンスカッシュのグラスを指先で軽くカウンターの奥に押しやる。

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    彼氏ってさ、同い年?年下?年上?

  • 瀬名 眞白

    いや、落ち着け。

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    だってさあ!知りたいじゃん!

  • 瀬名 眞白

    …7つ年上。

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    おっ、年上かあ!

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    どこで知り合ったんだよ?

  • 瀬名 眞白

    …通ってた高校の教師と生徒だった。

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    うぉお!!マジか!!

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    え、彼氏…今も学校の先生?

  • 瀬名 眞白

    ん。

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    なんかドキドキしてきたっ!

  • 瀬名 眞白

    なんでおまえがドキドキすんだよ。

  • 瀬名 眞白

    反応が想像してた以上で、俺が照れるわ。

  • 言いながら、目尻を細めて苦い笑みを口端に浮かべる。

  • これ以上追求されるのも小っ恥ずかしい。

  • そう思った眞白は、目の前にあるドリンクメニューに視線を移した。

  • 瀬名 眞白

    あ、飲み物また頼むか…。

  • 別にそこまで飲みたいわけでもないが、サラッと話題を変えるための文言。

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    ちなみにその親指のリングと、薬指のリング…、
    もしかして、彼氏からもらったんか?

  • 瀬名 眞白

    …、鋭いな。

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    おおお…!

  • -

    …つまりはあれだな、教師と生徒の禁断の愛を育んできたってことか…!

  • 瀬名 眞白

    いや、まあ…、

  • 瀬名 眞白

    当時は立場もあるから周りには秘密だったし、お互いの中で想いを温めつつ、

  • 瀬名 眞白

    あくまでプラトニックを通して、
    正確には卒業してから正式に付き合い始めたんだけどさ。

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    そっかあ…。
    忍耐の高校生活だったってわけか…。

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    その薬指のリングってさ、彼氏も同じのつけてんの?

  • 瀬名 眞白

    ん。ペアリングだからな。

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    「ペアリング」!

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    なんか結婚指輪みたいに見えるわ!

  • 瀬名 眞白

    …ぶっちゃけ、そういう意味合いを含んでる。

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    ヤバ!めっちゃいいじゃん!

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    …おい、眞白っ、すげーにやけてるぞ?!

  • 瀬名 眞白

    そ、そんなことねーよっ。

  • 意図せず紡ぎ出してしまった幸せオーラを指摘されて、照れ隠しにこめかみの辺りをポリポリと掻いた。

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    くうぅぅ……
    どっちのリングも眞白にめっちゃ似合ってるっ。

  • 瀬名 眞白

    サンキュ。嬉しいわ。

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    眞白のそのニヤけた顔とかも超珍しい…今のうちに目に焼き付けとこ。

  • 瀬名 眞白

    ……そんなニヤけてる?

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    めっちゃ嬉しそうにニヤけてるっ。

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    相変わらず、かっこいいけど可愛いわ、眞白…。

  • アルコールがさらに廻ってきたのか、彼はトロンとした瞳で眞白の端正な横顔を見つめた。

  • 瀬名 眞白

    …あんま飲み過ぎんなよ?

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    眞白が酒飲まねえからつまんねー。

  • 瀬名 眞白

    絶対に酒は飲むなって、勝生に釘を刺されてんだよ。

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    勝生って、眞白の親友のアイツだろ?

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    優しそうな顔してなかなか厳しいヤツだな…。

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    つーかさ、
    彼氏でもない勝生になんでそこまで仕切られなきゃならねーんだよ。

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    こっそり隠れて飲もうぜ?
    黙ってたら分からねーって。

  • 瀬名 眞白

    悪いけど無理。

  • 瀬名 眞白

    もしも俺が酒を飲んだら、親友辞めるって言われてるから。

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    うえっ、マジで?!

  • 瀬名 眞白

    マジで。

  • 瀬名 眞白

    …なにより、飲まねえって約束したあいつのことを、裏切るようなことしたくねーし。

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    ……なんか、いいなー…勝生。

  • 瀬名 眞白

    なにがいいんだよ?

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    だってさ、眞白にとって、それだけ親友の勝生は大切な存在ってことだろ?

  • 瀬名 眞白

    おまえのことも大切だけど?

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    でも、俺との酒は飲まねーんだろ?

  • 瀬名 眞白

    だからそれは、勝生との約束だからな。

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    じゃああれか、
    勝生と『酒を飲まねえ』っていう約束をする前だったら、今夜俺と酒を酌み交わしてたってこと?

  • 瀬名 眞白

    …そうだな。

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    う…、残念過ぎる。

  • 瀬名 眞白

    前に一回だけ、間違えてカクテルを飲んだことがあってさ。

  • 瀬名 眞白

    その次の日の朝に速攻で言われたんだよ、
    『絶対に、天地がひっくり返っても酒は飲むな』って。

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    そこまで言う…

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    よっぽどのことやらかしたか?

  • 瀬名 眞白

    それがまったく記憶にねーんだよ。

  • 瀬名 眞白

    勝生が言うには、とにかく俺の体質には酒が合わねーんだってさ。

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    ふーん…。

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    じゃあ、酒は諦めるから、今夜さ…、

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    俺の一生の思い出に、朝まで俺のこと抱いてくんね?

  • 瀬名 眞白

    悪いな。

  • 瀬名 眞白

    俺、こう見えてめっちゃ一途なんだわ。

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    くううううっ…、
    やっぱ眞白はかっけーわ!

  • 表情一つ変えることなくサラッと眞白に切り返された彼は、

  • カウンターテーブルの上でだらりと寝そべるように半身を横たえて、悶絶するように声を唸らせた。

  • 酒を飲まなかった他の仲間が運転する車で眞白が自宅に着いたのは、深夜1時過ぎ。

  • 風呂上がりにバスタオルで髪を拭きながら、今夜皆と過ごしたひとときを思い返しては、自然と口端が緩む。

  • 瀬名 眞白

    …、

  • そんな中、仲間の一人からの告白がふと頭をよぎって、ベッドの上に腰を下ろした眞白はぼんやりと一点を見つめて思考を巡らせた。

  • 自分に対して恋心を抱いていたのは過去のこととはいえ、その心中を傷つけてしまっていたかもしれないと思うと、少し複雑な気持ちになる。

  • 瀬名 眞白

    (マジでアイツの気持ちにまったく気づかなかった…。あれだけ一緒にいたのに)

  • 『灯台下暗し』という言葉が、胸に刺さる気がした。

  • もしもそのとき、気持ちに気づいていれば、なにかが変わっていたのだろうか。

  • 想いを寄せられて自分も相手のことを好きになっていたのか、それとも受け入れることなく過ごしたのか…。

  • そのようなことをいろいろと思いつめていると、脳内にふわりと勝生の顔が浮かんだ。

  • 瀬名 眞白

    なんでここで勝生…、

  • ひとりごちながらフッと笑って霞を払うように掻き消そうとしたが、すぐに『あれ…?』と思う。

  • 瀬名 眞白

    ……、

  • これまでの、特に高3に入ってからの勝生の自分に対する言動がまるで走馬灯のように幾つも脳裏を駆け抜けて、眞白は熟考してしまった。

  • 瀬名 眞白

    ……、いや、違うだろ。

  • まさか、な。

  • 勝生は小学校からの親友だ。

  • 瀬名 眞白

    (でも、この間も…、いきなり妙なことを言い出したよな)

  • あれは、数か月前の勝生の誕生日の夜。

  • とある事情で勝生の家に立ち寄った眞白が、『誕生日プレゼントは何がいい?』と問い掛けたとき、

  • 武藤 勝生

    《眞白が欲しい…、眞白の全部。》

  • あのときの勝生はどこかとりとめのないような、ふわふわと揺れる浮き草のような雰囲気でそう呟いていた。

  • だがそれは、『一家に一台、眞白が欲しい』という要望なのだと、勝生はいつもの笑顔で言い直していた。

  • ただ、丁寧に記憶を辿ってみると、そのときの勝生の様子が普段と少し違った気もする。

  • 瀬名 眞白

    (そういや、俺の誕生日のときも…似たようなこと言ってたよな?)

  • 武藤 勝生

    《僕なら寂しい想いはさせないよー?》

  • 武藤 勝生

    《いっそ僕のモノになっちゃう?》

  • 冗談っぽくおどけたように言っていたが、今思えば妙に引っかかる。

  • 瀬名 眞白

    ……

  • それに、これまでも。

  • 勝生が発熱したときも、手を繋いで欲しいと言ったり、

  • 付き合っていた彼女と別れて間もない頃は、傷心からか涙を浮かべつつハグをねだったり。

  • 勝生は自分にとってかけがえのない大切な親友だから、

  • そしてもちろん勝生も親友として自分に甘えているのだと思っていたから、すべての甘えを眞白は全力で受け止めていた。

  • 瀬名 眞白

    (……え…、いや、ちょっと待て)

  • そのときの場景を振り返ってじっくりフォーカスすれば、散らばっていた欠片が磁石のように引っ付いて一つの画になり、

  • とてもに気になるある仮説が浮かび上がった。

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