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眞白の中学時代の仲間だったヤンチャ坊主たちも、今やそれぞれの道を歩んでいて。
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彼らは高校に進学した後、美容師や介護士を目指していたり、高校卒業と同時に授かり婚で結婚し家業を継いでいたり、
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運送業や販売業、建設業に就職していたり。
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皆が日々元気に邁進する中で、久しぶりに7人全員で集まろうということになった。
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予約していた居酒屋で互いの近況を語り合い、昔の思い出話に花を咲かせては大いに盛り上がり、
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二次会まで残ったメンツと眞白は小さなバーで過ごしていた。
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-昔から頭良かったからな、眞白は。
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-大学、楽しいか?
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瀬名 眞白
まあ、それなりに。

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瀬名 眞白
色々と大変な面もあるけどな。

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しばらくして、そのうちの仲間の一人に誘われてカウンター席に移動した眞白だったが、
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-眞白が医者になるんかあ…かっこいいな。
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瀬名 眞白
なれるかどうか分かんねーぞ?
途中で挫折するかもだし。
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-いや、眞白は有言実行の男だからな。
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-…ほんとあの頃からずっと、かっこいいままだよ。
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瀬名 眞白
かっこよくなんかねーよ。

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-……俺さ、ずっと隠してたんだけどさ――
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二人で談笑する中で、サラッと驚きの告白を受けることになる。
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-あの頃の俺、ずっと眞白のことが好きだったんだ…異性として。
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瀬名 眞白
――え?!

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それは、実は彼がずっと眞白に片想いをしていた…という事実。
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-俺、ゲイなんだよ、実はさ。
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酔った勢いに任せて、中学時代の面影を残したままの、しかし今では柔和になった面差しに照れくさそうな笑顔を乗せて彼は続けた。
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-高校受験を機に俺らも一旦解散ってなったときは、ほんとは泣きそうになったんだぜ?
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-眞白のそばにずっといたかったから。
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瀬名 眞白
マジか…。

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気が動転しそうになるのを落ち着けながら、眞白はポツリと呟いた。
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ゲイだろうがバイだろうが、セクシャリティについては気にならない。
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だが、まさかヤンチャ仲間の一人から想いを寄せられていたとは微塵も思わなかった。
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中学生らしからぬ荒れた風貌で、彼もまた、対抗してくる相手をすべて敵視して、眞白と同じく鋭利なナイフのように尖っていたからだ。
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あの研ぎ澄まされたような眼差しの奥に、そんな恋心が隠されていたなんて。
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瀬名 眞白
悪い、全然気づいてなかったわ…。

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眞白は、なにも知らずに関わってきたことへの罪悪感めいたものを感じそうになったが、
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-それは仕方ねーよ。
まさかって思うようなことだし。 -
彼はそんな眞白の心の動きを見抜いているかのように、饒舌に畳み掛けた。
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そして、
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-でもマジでさ、
眞白がみんなを集めて、『8末で遊ぶの辞めるわ』って切り出したとき、一瞬固まったわ。 -
思い出を回顧しながら目尻を軽く歪めて眞白に視線を向けた彼は、ちょっぴりむくれながらも未練を感じさせない爽やかな笑顔で笑った。
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中3の夏休みに入った頃、眞白が本格的に進路に向き合い始めたとき、仲間たちにもこの先のことを考えるように明示した。
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カリスマ性のある眞白の言葉は鶴の一声のように響いて、夏休み明けから仲間全員が各々学校に通うようになったのだ。
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-めっちゃ寂しかったけどさ…。
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-まあ、俺の片想いはさておき、他のみんなも眞白が大好きだからさ。
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眞白が皆のことを大切に想っていたように、自分たちも眞白のことを大事に考えていたと彼は述べた。
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眞白という人間をこのままの状態で、ダラダラと過ごさせてはいけない…そう思っていたのだ、と。
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-眞白が生き方変えるなら、俺らも変わろうって思ったんだよ。
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-あのときの俺らも、一歩踏み出した感じでさ。
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-つーか、
眞白を俺たちと同じ落ちた場所に居させるわけにはいかねえって、ずっと思ってたから。 -
ドライマティーニをコクリと喉に通しながら、彼は最後の一文を話の流れで告げたつもりだったのだが。
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瀬名 眞白
……、

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静かに耳を傾けていた眞白は柔軟に笑顔を切り返すどころか、少しばかり不機嫌そうに片眉をピクリとさせた。
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これは、なにか思案がよぎったときや納得がいかないときなどに見せる、眞白独自の表情だ。
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-…眞白?
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相槌を打つわけでもなく口を噤んだままの眞白を訝った彼は、その横顔を軽く覗き込んだ。
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-…どうした?
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瀬名 眞白
あのとき、おまえらが一歩踏み出したのはすっごく偉い。

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-お、おう。
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瀬名 眞白
でも、「落ちた場所」とか言うな。

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-…、え…。
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予想外にぴしゃりと言い放たれて、彼は目を丸くした。
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瀬名 眞白
そもそもおまえらは落ちてねー。

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瀬名 眞白
タバコ吸ったり、他校のヤツらとめっちゃ喧嘩とかしたけど、

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瀬名 眞白
ギリギリのところで懸命に踏ん張ってた。

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-―――
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瀬名 眞白
だから、おまえも他のみんなも、しんどいこともあったりするだろうけど、

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瀬名 眞白
『平穏な今』があるんだろーが。

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横顔に感じる視線を受け止めるようにして、眞白は彼に振り向いた。
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瀬名 眞白
俺がおまえらと過ごせたことで、どれだけ救われたか。

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瀬名 眞白
おまえらがいなかったら、今の俺はいねーよ。

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-眞白…。
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瀬名 眞白
おまえらがそばにいてくれたおかげなんだよ。

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瀬名 眞白
あのときみんなと一緒に過ごせたこと、
俺にとってはかけがえのない時間だった。
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瀬名 眞白
だから、俺の大事な仲間たちのことを『落ちた』ような言い方するな。

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-……眞白ぉ…
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-おまえってほんとにいいヤツ…、
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瀬名 眞白
いいヤツとかそういうんじゃねーよ。

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瀬名 眞白
ただ思ってることを言っただけで。

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-眞白みたいに思えるヤツってそういねーんだって。
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-…なあ、眞白の仲間の中に、俺も入ってる?
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瀬名 眞白
当たり前だろうが。

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-…これからも、ずっと大事?
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瀬名 眞白
当然。変わらねーよ。

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-ああ…もう、
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-眞白のそういうとこ…マジで大好きだわ。
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すん…と鼻をすすりながら彼はしばらく感慨深げに瞳を閉じ、声を区切って沈黙を通していたが、
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ハタと閃いたように眞白に再び向き直る。
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-もうさ、やっぱ彼女とかいんの?
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瀬名 眞白
俺?

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-うん。
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瀬名 眞白
…、

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眞白はのんびりとレモンスカッシュを口にしてから、
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瀬名 眞白
おう。
正確には、『彼氏』な。
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堂々と率直に告げた。
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