わがままの意味 -1

  • 『勉強会をやるなら、僕の家で』。

  • そう提案したのは、別に下心満載だったというわけでもない。

  • 眞白は大学を卒業してからも親戚の叔母さんの家に住んでいるし、そこに後輩二人を呼んでの勉強会は気を遣うのではないかと考えたのが主な理由。

  • 自室を提供することは、僕なりの配慮だと言っても過言じゃない。

  • 瀬名 眞白

    …じゃあ、次は…っと、三角関数の積分だな。

  • -

    はいっ、お願いします!

  • -

    お願いします!

  • 瀬名 眞白

    よし、じゃあ、ここの問題は…――

  • 武藤 勝生

    ……

  • でもやっぱり、

  • 武藤 勝生

    (どんな理由であれ、眞白と同じ空間で過ごせるのは嬉しい…フフフ)

  • だって、合法的に眞白を愛でることができる。

  • 武藤 勝生

    (…結局やましいな、僕)

  • ちょっとヤバイ人みたい?

  • こっそり苦笑めいてそんなことを思いながらも、後輩たちに向き合う眞白の姿に惚れ惚れしていた。

  • 瀬名 眞白

    ――三角関数の積分は、tをxの関数にするとき、4つある公式を頭に叩き込んでおくのが基本だ。

  • 瀬名 眞白

    あと、合成関数の微分の逆数掛けるっていうのもしっかり覚えとく。いいな?

  • -

    はいっ!

  • -

    はいっ!

  • 丁寧で的確に積分の解説をする眞白に応えるように、二人は真剣な表情で数学の問題集に見入っている。

  • 瀬名 眞白

    一つ目のこの不定積分を求める場合は――

  • 瀬名 眞白

    ――=2∫sin xdx−3∫cos xdx…で、=2(−cos x)−3sin x+C…――

  • 瀬名 眞白

    ――で、この場合は、Cを積分定数とするから…、―――…で、

  • 瀬名 眞白

    『 −2cos x−3sin x + C 』…これが答えになる。

  • -

    なるほど…、そっか…、そういうことか…!

  • -

    公式をきちんと押さえて解くのが大事ですね!

  • 瀬名 眞白

    ああ。そこは絶対だな。

  • 瀬名 眞白

    しっかし…高2で数Ⅲのこれ、やっぱちょっとハードだよな。

  • 瀬名 眞白

    晴蘭にいたとき俺もやったけど、懐かしいわ。

  • -

    マジでしんどいっす。
    でも、眞白さんが教えてくれるから、かなり頑張れます。

  • 瀬名 眞白

    ん、良かった。

  • 瀬名 眞白

    勉強なんて、別に予習はいらねーから。

  • 瀬名 眞白

    学校には、教えてくれる先生がいるんだからさ、
    授業しっかり聞いて、復習するっていうのが一番効果的。

  • -

    ……復習を家でやってて、分からなくなったら…、

  • -

    これからも、眞白さんに聞いてもいいっすか…?

  • 瀬名 眞白

    当たり前じゃん。

  • 瀬名 眞白

    これからも連絡してこいよ?
    おまえの数学の点数、絶対に上げてやる。

  • -

    ありがとうございます…!
    俺、絶対に頑張りますっ!

  • -

    僕も頑張ります!

  • 瀬名 眞白

    …よしっ。

  • 瀬名 眞白

    じゃ、今俺が目の前で解説したものを頭の中に入れた状態で、

  • 瀬名 眞白

    ゆっくりでいいから、思い返しつつ解いてみ?

  • -

    はいっ!

  • -

    はいっ!

  • 武藤 勝生

    さっきからほんと、二人ともいい返事ー。

  • 武藤 勝生

    えらいねえ!

  • 元気よく素直に頷く二人の姿が、まるで雛鳥みたいで笑みが浮かぶ。

  • 僕が彼らに会うのは今日が初めてなのに、出身校の後輩というだけで可愛く思えてしまうから不思議だ。

  • 眞白からは、彼らの間で起きたちょっとしたトラブルに関わったことで知り合ったのだと、それだけを聞いていた。

  • 詳しい内容までは語らなかった眞白だけど、今日うちに訪れた二人はそのときにいったい何があったのかを全て話してくれて、

  • 実に眞白らしい対応をしたものだと感心した。

  • 武藤 勝生

    (なかなかできないよな…眞白みたいなこと)

  • 僕ができるとすれば、こうやってちょっとしたサポートに回ることくらいで。

  • 眞白は相変わらずのチート機能発動男子。

  • ひょんなことがきっかけで、彼らの勉強の面倒まで見ることにした親友の横顔は、少しの驕りもなくとても慈悲深い。

  • 武藤 勝生

    (ほんと、かっこいいんだから…)

  • 内心でほわほわしながらこっそり眞白を見つめていると、いきなりこちらに振り向いた精悍な双眸と目が合った。

  • 瀬名 眞白

    ……

  • 武藤 勝生

    (わ、ヤバイ、見つめてたのバレる…)

  • 武藤 勝生

    な、なに?

  • 武藤 勝生

    なにか手伝おうか?

  • 瀬名 眞白

    いや…、

  • 瀬名 眞白

    なんか、おまえの視線感じたから。

  • じっと僕を見つめる、ちょっぴり探るような眼差し。

  • 武藤 勝生

    …あ、ええっと、そう?

  • うっ、変なところで鋭い…。

  • 武藤 勝生

    そ…そうなんだよ、そろそろ休憩どうかなと思ってさ。

  • 武藤 勝生

    もう2時間以上ぶっ通しで勉強してるし…、

  • 武藤 勝生

    眞白が買ってきてくれたアイスをみんなで食べない?

  • その場しのぎの名案ではなく、休憩を勧めようとも考えていたところだ。

  • 瀬名 眞白

    そうだな…、

  • 瀬名 眞白

    よし、じゃあその問題を解いたら、ちょっと休憩しようぜ?

  • 後輩二人に視線を戻して、眞白は微笑みかけた。

  • -

    やった…!もう少しで解き終わるっす!

  • -

    僕もです…!

  • 武藤 勝生

    二人とも頑張れ。

  • 武藤 勝生

    …じゃあ僕、アイス取ってくるよ。

  • 瀬名 眞白

    おう、頼んだ。

  • アイスは眞白がみんなのために買ってきたもので、溶けないようにと冷凍庫で預かっていた。

  • 僕の両親の分まで考えて買ってきてくれた眞白の配慮にも、心から感服。

  • 武藤 勝生

    (ほんといい男だよなー)

  • 『かっこいい』やら『いい男』やら、マジで褒め言葉しか浮かんでこない。

  • 練習問題に向き合う二人を見守る眞白を一瞥してから、僕はアイスを取りに腰を上げた。

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