-
夜中に、勝生からの電話。
-
毎年のように、午前0時を過ぎてすぐの着信に目元が綻ぶのを感じながら、スマホ画面をスライドさせた。
-
武藤 勝生≪眞白ー!誕生日おめでとっ!≫
-
瀬名 眞白
サンキュー!

-
武藤 勝生≪もちろん僕が一番乗りだよなっ?≫
-
瀬名 眞白
ああ。

-
武藤 勝生≪やったねー!≫
-
小学校からの親友の嬉しそうな声がスマホの向こう側で弾ける。
-
3月5日は俺の誕生日で、今年も勝生からの『おめでとう』は最速で俺に届いた。
-
武藤 勝生≪いよいよ眞白も20歳ですか。≫
-
瀬名 眞白
だな。

-
武藤 勝生≪今日は鷹野先生とデート?≫
-
瀬名 眞白
ん、まあ…たぶん。

-
瀬名 眞白
俺は春休みだけど光星は仕事だし…、

-
瀬名 眞白
昨日から弓道部の引率かなにかで、家を留守にしてるんだよ。

-
武藤 勝生≪え、そうなんだ。試合とか?≫
-
瀬名 眞白
なんか、それに関したこと…みたいな?

-
瀬名 眞白
俺も深く聞かねーから、詳しくは分かんねーけど。

-
武藤 勝生≪ふーん…せっかくの週末なのに。≫
-
瀬名 眞白
でもまあ、今日の夜には会えるんじゃねーかな。

-
武藤 勝生≪…なんだか、会えないかもしれないみたいな言い方じゃん?≫
-
瀬名 眞白
まあ…どうだろうな?
仕事だし、会えなくても仕方ねーよ。
-
そっと笑いを零してみたが、本音を言えば半ば虚勢に近い。
-
強がりな笑顔はゆっくりと消沈した。
-
――日付が変わって今日は土曜日。
-
初めて俺の誕生日が週末と被った。
-
いつも金曜日の夜から光星のマンションに滞在するのがお決まりになっているが、今回は、光星から仕事を理由にキャンセルされてしまった。
-
俺の誕生日のことを気に掛けつつ、当日の夜には会おうと言ってくれていたけど。
-
瀬名 眞白
(…なんつーか…、)

-
光星は隠そうとしていたけど、遠慮がちというか、どこか神妙な面持ちというか…纏うその雰囲気に、なんとなく違和感を感じて。
-
けど、それを追求するのも、自分の誕生日なのにと不貞腐れるのもみっともないし、口を閉ざして今に至る。
-
武藤 勝生≪鷹野先生のことだから、眞白の誕生日をそのままにはしないだろうけど。≫
-
瀬名 眞白
まあ、たかが誕生日だし、別になんでもいいんだけどさ。

-
武藤 勝生≪またまたー。≫
-
武藤 勝生≪そんな強がり言ってー。≫
-
瀬名 眞白
…、そんなんじゃねーよ。

-
武藤 勝生≪あーもう。≫
-
武藤 勝生≪僕なら寂しい想いはさせないよー?≫
-
武藤 勝生≪いっそ僕のモノになっちゃう?≫
-
瀬名 眞白
ばーか、なに言ってんだよ。

-
武藤 勝生≪『一家に一台眞白計画』は、まだまだ続いてるよ?≫
-
武藤 勝生≪絶賛、随時受け入れ体制中ー!≫
-
勝生のおどけたようなひょうきんな声音に、思わず声を立てて笑ってしまった。
-
瀬名 眞白
…どーもな、勝生。

-
瀬名 眞白
なんか元気出たわ。

-
武藤 勝生≪そう?よかった!≫
-
武藤 勝生≪改めて、誕生日おめでとっ…、チュッ!≫
-
フィニッシュブローとばかりに、通話越しに勝生からの熱い投げキッスが届いた。
-
・
-
・
-
・
-
勝生との通話の後、眠りについた俺は、光星のことを気に掛けながらもぐっすりと質の良い睡眠を取り、昼前に目が覚めた。
-
正確には、碧芭からの電話で叩き起こされて盛大な「おめでとう」の言葉をもらい、さっき誕生日プレゼントも届いた。
-
俺が欲しいと思っていたものをさりげなくリサーチして、さらにその中から1番ではないものを選んでいる辺りが碧芭らしい配慮。
-
俺が光星と付き合う前の碧芭なら、真っ先に1番欲しがっているものをプレゼントしてくれていたが、
-
そこは恋人である光星に委ねようとしてくれているのだと思う。
-
瀬名 眞白
(ほんと俺、兄貴には恵まれてるわ)

-
口に出すと調子に乗るから、碧芭にはいちいち言わないけど。
-
母親からも例年通りプレゼントが届き、添えられたメッセージカードには『時々は元気な顔を見せてね』と書いてあった。
-
瀬名 眞白
(「時々」は無理だな…。ごくたまーになら)

-
瀬名 眞白
(……父さんが家にいないときに、久しぶりに顔見せるか)

-
母親のことを大切に想うからこそ、できるだけ俺の存在が負担にならないように。
-
そう思いながらも、LIN〇のメッセージで毎回『ありがとう』と一言だけしか送信しない、実家には執着ゼロの愛想のない俺。
-
言うまでもなく、これまた例年のごとく父親からは祝いの言葉すらない。
-
瀬名 眞白
(つーか、いらねー)

-
万が一にもそんなものが届いたら、天変地異の前触れかと戦慄する。
-
…叔母さんや叔父さん、従姉妹も誕生日プレゼントを用意してくれていて、それらを開封したり談笑したり。
-
嬉しい気持ちや楽しい気持ちがあるにも関わらず、光星がいないことで、どうしても空虚な気持ちが拭い去れずにいた。
-
瀬名 眞白
……

-
光星からまだ連絡はない。
-
『誕生日おめでとう』の電話も、昼を過ぎてもかかってこない。
-
瀬名 眞白
(……まさか、なんかあったとか…)

-
光星の身になにかあったとか、それとも…他に嫌なこと。
-
そう思うといきなり不安になる。
-
瀬名 眞白
(うー……考え出すとキリがねえ)

-
自室に戻り、もらったプレゼントの整理をしながら、細い溜め息をついたとき、
-
---
―――ピコン。
-
不意に、LIN◯の通知表示がスマホで光った。
-
瀬名 眞白
…―――

-
慌てて画面をタップして確認すると、待ち焦がれた『光星』の二文字。
-
文面には、
-
鷹野 光星【眞白、誕生日おめでとう。】
-
鷹野 光星【今、電車の中だから、電話できなくてごめん。】
-
光星のあの穏やかな声が、耳奥でしっとりと響くような感覚に包まれる。
-
ようやく届いた光星からのLIN◯。
-
瀬名 眞白
【ありがと!】

-
飛び上がるほど嬉しくて、すぐに返信を送信した。
-
NEXT
タップで続きを読む