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*「住所不定」…ですか…?
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虚を突かれたように目を瞬いた女性に向けて、小さく笑いかける。
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瀬名 眞白
俺、いろんなところにいるんで。

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瀬名 眞白
なんつーか、神出鬼没なんだよ。

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瀬名 眞白
だから、気にしなくていい。

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*じ、じゃあ、このパーカーも…、
本当に返さなくていいんですか…? -
瀬名 眞白
いいよ。

-
瀬名 眞白
さっきも言ったけど、捨ててくれたらいい。

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*でも…、
-
*このパーカー、お安いものではないと思うので、捨てるにはちょっと…、
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女性の言うように、俺のそのパーカーはお気に入りのブランドのものだから、ファストファッションブランドとは違って決して安くはない。
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瀬名 眞白
お。知ってんだ、そのブランド。

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*はい、弟がこのブランドの服が好きなので…。
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瀬名 眞白
へえ、そうなんだな。

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*なので、クリーニングに出してからお返しさせていただいた方がいいかと…。
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おっとりとした口調ながらも懸命に[#ruby=言挙_ことあげ#]してくる女性の姿を微笑ましく思いながら、そっと首を振って見せた。
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瀬名 眞白
いや、そんなの気にしなくていい。
家に帰ったら、すぐに捨ててくれ。
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瀬名 眞白
…できれば、今日あんたが着てる服も全部一緒に。

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*えっ…?
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瀬名 眞白
俺のそのパーカーに全部くるんで、みんな捨てちゃえ。

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瀬名 眞白
で、今日のことはすぐに忘れて、一日も早く元気になったらいい。

-
*―――
-
瀬名 眞白
そうしてもらうためにも、あんたに渡したんだよ、そのパーカー。

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*…っ、
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瀬名 眞白
それじゃ俺、明日の朝、早いんで。

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朝が早いことについては、まるっきり嘘。
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明日の大学の講義は2コマ目からだし、朝はいつもより少しゆっくり眠れる予定だ。
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*…あっ、えっと、あの…っ――
-
瀬名 眞白
じゃ、元気でな!

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女性が次の言葉を紡ぎ出す前に畳み掛けて、足早に警察署の階段を駆け下りた。
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︙
-
瀬名 眞白
(こんなこと、普通は滅多にねーよな…)

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駅を目指して歩道を歩きながら、ぼんやりと思う。
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犯罪を目の当たりにするなんて、なかなか遭遇することじゃない。
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今日のように女性を救えたことも、とてつもない希少な確率での出来事。
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瀬名 眞白
(…ん、いや…?)

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ふと、ずっと前に女の子を助けた記憶が頭の片隅で燻りを見せた。
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脳内でこれまでの軌跡のページをパラパラッとめくるようにしながら、その欠片を探す。
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瀬名 眞白
(んんー…山那のことは高校入ってからだし…)

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瀬名 眞白
(それよりももっと前に…俺が中学のときにも、似たようなことがあったよな?)

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確か、俺や仲間たちが常日頃からたまり場にしていた廃工場の『パーク』の近くで。
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今日ほどの緊迫した場面ではなかったけど、あのときは、中学生くらいの女の子が男に手を掴まれてひどく困っていて。
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それを偶然見かけた俺が、その男に飛び蹴りを喰らわせたという場面が鮮やかによみがえった。
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瀬名 眞白
(あー…あったな、そういえば)

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瀬名 眞白
(その子のことを家の近くまで送って行ったわ、確か)

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セピア色した状景が頭を巡って、なんとなく照れくさくなる。
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瀬名 眞白
(なんかちょっと…ハズイわ)

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理不尽なこととはいえ片っ端からすぐにキレて、暴れてるだけじゃね、俺…?
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瀬名 眞白
……、

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瀬名 眞白
(いや、でも…)

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なんでもかんでも、むやみやたらにキレるわけじゃない。
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荒っぽく拳を駆使するのは、あくまで緊急的措置を取るときだけだ。
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瀬名 眞白
(今回も俺が『キレた』ことで、あの女の人も救われたわけだし…)

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『怒り』は、俺の強さの要。
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その『怒り』が核融合みたいに俺をフル稼働させて、誰かを救えるなら本望だ。
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そう思い直して、こっそり胸を張った。
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瀬名 眞白
(あー…そういや腹減った)

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瀬名 眞白
(帰ったら、風呂の前にまず飯だな)

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瀬名 眞白
(……叔母さん、びっくりするかな…俺が半袖姿で帰るから)

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『わあ、眞白くん風邪引いちゃう!朝着てたパーカーはどうしたの?!』
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…とか、開口一番に言いそうだ。
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瀬名 眞白
(んー…いちいち理由を説明すんのもダルイな)

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瀬名 眞白
(どこかに置き忘れたとかって、誤魔化すか)

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あの女性が早く元気になるようにと願いを込めて、
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その身に起こった嫌な出来事を全部ひっくるめて滅失する役目を持たせた、俺のパーカー。
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瀬名 眞白
(大役を頼んだものの……やっぱ、ちょっと寒いな)

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秋の夜長、駅までの道のりを黒い半袖のTシャツ姿で歩く俺は、周りから見たらおかしなヤツかもしれない。
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そう思うとなんだか滑稽で、フフッと笑いがこみ上げた。
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---
――Vvvvv…、Vvvvv!
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バイブの振動に気づいてポケットからスマホを取り出す。
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瀬名 眞白
――お。

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画面に表示された名前を目にした途端、懐かしさで頬が緩んだ。
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瀬名 眞白
もしもし?

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篠原 円香≪瀬名くん!ご無沙汰してます!≫
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瀬名 眞白
久しぶりじゃん、円香!元気にしてたか?

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篠原 円香≪はい、とても元気にしてます!≫
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篠原 円香≪…瀬名くんも、声を聴く限りでは元気そうですね!≫
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瀬名 眞白
おう!めっちゃ元気!

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瀬名 眞白
ピアノ留学は順調か?

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篠原 円香≪はいっ、いろいろ大変ですけど、順調です!≫
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瀬名 眞白
そっか、頑張ってんだなー!

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瀬名 眞白
つーか…今もそっちだよな?
もしかして、日本に帰って来たのか?
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篠原 円香≪そうなんですよ。一昨日、休暇を兼ねて一時帰国したところです。≫
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篠原 円香≪少し時間ができたので、瀬名くんやクラスのみんなとも会えたらなと思って、電話してみました。≫
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瀬名 眞白
おおっ、いいじゃん!
久しぶりにみんなで会おうぜ!
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瀬名 眞白
すぐに召集かけるわ!

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――…中学時代に、『パーク』の近くで助けたあの女の子が、
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篠原 円香≪わあ!嬉しいです!よろしくお願いします!≫
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篠原 円香≪瀬名くんやみんなに会えるの、とっても楽しみです!≫
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瀬名 眞白
俺も楽しみにしてる!

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実は今の電話の相手、高2のときのクラスメイトの『篠原円香(♂)』だったと知ることになるのだが…、
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…それはまた、別の話。
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孤高のソナタ END
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【あとがき】まずは、お読みいただきありがとうございます(多謝♡
今回のお話はちょっと暴力的な内容アリのBL要素はゼロ、がっつりヒューマンドラマなお話でした。眞白の想いというか…もしかしたら特殊かもしれない彼の考え方を書き綴ってみたいと思いましてφ(・ω・。)かきかき
みなさんは、このお話をお読みになり、どう感じたでしょうか。
人それぞれ感じ方も考え方も違うことでしょう。 -
暴力はいけないですが、それが必要なときもある…眞白は常にそう考えています。
眞白は今回、もしかしたら『行き過ぎた暴力』で罰せられることになったかもしれない状況でしたが、そのことを分かっていても、それでも女性を守るため、再犯防止のために拳を振るいました。 -
悪いヤツが同じ過ちを繰り返さないためには生ぬるいことはやってられない、トラウマ級の恐怖が必要である、拳を振るうのは誰かを、何かを守るときだけ…これはもう、眞白の揺るぎない信念といえます。
なにを言われようが、見知らぬ人を迷わずに助けることができる眞白は、書き手のわたしにとっては大変誇りでありますよ(๑•̀ •́)و✧.゚ -
さて、円香が久しぶりにちょこっと登場しました♪
「おお!円香が絡んできたか…!」と作中で読みながら悟ってくださった方は、
とってもコアな読み手さんですっ!わたくしから感謝と愛を送ります♡
(ちなみに円香は、本編の【体育祭編】で登場しています) -
ちなみに、円香が中学時代に眞白に助けてもらった内容については、キャラの裏話にちょこっと載せていますので、
併せてご覧いただくと「ああ、こんなことがあったんだー」って思ってもらえるかと。
まだご覧になっていないかたは是非♪ -
エピソード話、みなさんに楽しんでもらえると嬉しいです♡
ゆさみん
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