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鷹野 光星
……、

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途端にせり上がってくる言葉を喉奥で堰き止めるから、どうしても意味深に押し黙ってしまう。
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**……ん?
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鷹野 光星
……

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**…なに?
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俺が少年を見つめたままでじっと佇むせいで、勘のよさそうな彼はマスク越しに疑問符を投げかけ、訝し気に俺を見遣った。
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鷹野 光星
……

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こんな、俺からすればずっと年下の少年に、これまで抱いてきた苦悩を吐き出したところで、きっと彼にとっては迷惑でしかない…。
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恥じるような、卑下に似た気持ちを抱きながらも、
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鷹野 光星
……自暴自棄に…なりすぎてた。

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ひとりごちるように呟いてしまった。
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**…え?
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鷹野 光星
…、

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**なんだよ?
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鷹野 光星
……キミよりもずっと大人なのに…、
情けないよな、俺は。
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**……
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鷹野 光星
でも…、

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鷹野 光星
もう、しんどくて…、
どうでもよくなっていたんだ。
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鷹野 光星
いろいろあって、

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鷹野 光星
とても辛くて悲しくて、寂しかったんだと思う…。

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**……
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鷹野 光星
あの男に殴られていたときも、
もう死んでしまってもいいとさえ思った…。
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これまで押し留めていた苦しい想いを、出会ったばかりのこの少年に、俺は素直に吐露していた。
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優以斗への未練を…今も残る愛着はただの依存に成り下がっているのだということを、自身にも分からせるように。
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鷹野 光星
でも、不思議だけど、今日のことがあったから、

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鷹野 光星
たくさん殴られて怪我もしたし、とても痛い目にあったけど、

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鷹野 光星
キミが助けてくれて…、

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**……
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鷹野 光星
なんていうのかな…、
ようやく、少しずつ前向きになれそうだよ。
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謙遜しながらそっと笑って見せると、少年は無言のまま精悍な目元をピクリとさせた。
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**……、
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鷹野 光星
あっ、と。
ごめん、こんな話をしてしまって…。
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鷹野 光星
キミも、みんなと気を付けて遊ぶんだよ?

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**……
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鷹野 光星
…助けてくれて本当にありがとう。

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鷹野 光星
受験勉強も頑張って。

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鷹野 光星
合格するように願ってるよ。

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**…なあ。
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鷹野 光星
えっ?

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**…、
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少年はカーキアッシュのカーゴパンツのポケットから、ゴソゴソと何かを取り出すと、
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**…ん。
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握り拳をまっすぐこちらに突き出して、手の中身のものを受け取るように俺に促した。
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鷹野 光星
な、なにかな…?

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**そんなビビんなくていいって。
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鷹野 光星
…、

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言われて、静々と自身の右手のひらを広げて差し出す。
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**コレしかねーけど。
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鷹野 光星
……、これは…?

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**ド○クエのスライム。
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**あんたに会う前、遊んでたゲーセンのクレーゲームで取った。
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ポトンと俺の手に乗ったそれは、直径5センチほどの水色のスライムのぬいぐるみ。
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頭の部分の尖った先にボールチェーンが付いていて、なかなか精巧に作られたマスコットキーホルダーだ。
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**やるよ。
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鷹野 光星
えっ…?!

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鷹野 光星
で、でも、せっかくキミが取った景品なのに…?

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**そんなたいそうなモノじゃねーよ。
たまたま取っただけだから。 -
鷹野 光星
けど…、

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**あんた、今日誕生日なんだろ?
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鷹野 光星
え…っ、

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**さっき言ってたじゃん、誕生日だって。
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鷹野 光星
そ、そうだけど…、

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**ソレ、やるよ。
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**…早く元気になれたらいいな。
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鷹野 光星
っ…――

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**じゃーな。
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**いらねーなら捨てろ。
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鷹野 光星
…あ!
あのっ、ちょっと待っ――
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俺が引き留めるのを無視するかのように少年は踵を返して、サッサとその場から立ち去ってしまった。
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鷹野 光星
……、俺への…、

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鷹野 光星
誕生日プレゼント…。

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感極まる想いが掠れた声となって街の中に溶けてゆく。
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物憂げで脆くなった俺のことを憐れんだ少年は間違いなく、誕生日のプレゼントとしてこのスライムのマスコットを恵んでくれたのだ。
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ボロボロで頼りない、いつまでも這い上がることのできない…どうしようもない大人の俺に向けて。
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鷹野 光星
―――…

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明日から…いや、今この瞬間から。
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いつまでも過去に縋るばかりでなく前を向き、未来を見据えて力強く歩いて行こう。
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鷹野 光星
……

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芽吹いた俺の決意を見守るように、手のひらからクリクリとした目でこちらを見上げるマスコットのスライム。
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鷹野 光星
(…――っ、ありがとう…、)

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屈託のない微笑を浮かべたそのマスコットに先ほどの少年の面影が重なって、
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そこに一粒の涙が零れ落ちた。
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