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武藤 勝生
誰…こんな時間に。

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壁時計を見ると、午前0時を過ぎたばかり。
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もう夜中。
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ちょっぴり気怠くスマホの画面をのぞき込むと、【眞白】の名前が表示されていた。
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武藤 勝生
…え、え?

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慌てて画面をスワイプする。
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武藤 勝生
…も、もしもし?眞白?

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瀬名 眞白≪おう、≫
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武藤 勝生
こんな時間にどうしたの?
なんかあった?
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瀬名 眞白≪…まだ起きてた?≫
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武藤 勝生
起きてたけど…どうしたのさ?

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瀬名 眞白≪いや、0時回ったから。≫
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武藤 勝生
えっ?

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瀬名 眞白≪勝生、誕生日おめでと。≫
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武藤 勝生
――えっ?!

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武藤 勝生
……あっ、そうか!

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日付が変わって今日は10月1日…よく考えたら、僕の誕生日だった。
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姉が前日にプレゼントを持ってきてくれていたのに、パワフルな甥っ子の相手をしていてすっかり頭の中から飛んでしまっていた。
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武藤 勝生
…今年も忘れずにいてくれたんだね、ありがとう!

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瀬名 眞白≪忘れるわけねーだろうが。≫
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武藤 勝生
(うお…嬉しすぎ)

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瀬名 眞白≪いよいよ20歳だな。≫
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武藤 勝生
そうだね、いよいよですわ。

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武藤 勝生
眞白よりお兄ちゃんになっちゃった。

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瀬名 眞白≪たったの数ヶ月だけどな?≫
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ちょっぴりからかうような眞白の声にほっこりする。
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僕と眞白がスマホを持つようになった中学の頃から、毎年欠かさず互いの誕生日には『おめでとう』の言葉を電話で伝え合うようになっていた。
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眞白が荒れていた時期にすれ違うことが多くても滞ることなく、それは親友という絆の醍醐味。
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瀬名 眞白≪…今年も一番乗り?≫
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武藤 勝生
うん、一番乗りだね。

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瀬名 眞白≪よっしゃ!今年も誰よりも先に言えたわ。≫
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武藤 勝生
あはっ、ありがとね、眞白っ。

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眞白からのお祝いの言葉はいつも、付き合っていた彼女よりも他の友達よりも、誰よりも早く僕に届いている。
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そんな周りからすればどうでもいいような些細なことが、今は余計に嬉しかったりするのだ。
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武藤 勝生
僕も、眞白の誕生日には誰よりも早く『おめでとう』を言いたいけど、

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武藤 勝生
今はもう、鷹野先生に負けちゃってるよね?

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瀬名 眞白≪いや。今も勝生が一番だな。≫
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武藤 勝生
え、そうなんだ?

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瀬名 眞白≪ああ。光星と両想いになって初めての誕生日のときは、朝一で『おめでとう』って電話くれたけど、≫
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瀬名 眞白≪俺、寝起きがめっちゃ悪いからさ。それ以来、昼に連絡くれてる。≫
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武藤 勝生
…なるほど。

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武藤 勝生
鷹野先生のことだから、夜中だと寝てると思って気を遣ってくれてるんだろうね。

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瀬名 眞白≪かもな。≫
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武藤 勝生
眞白の誕生日の前の日から、鷹野先生と一緒に過ごしたりとかはないんだ?

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瀬名 眞白≪んー…まだねーな。今のところ、誕生日は平日ばっかでさ。≫
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短く笑って答えた眞白の声が、ふと、ほんのわずかに波打っているように感じた。
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通話口の向こうに意識を向けると、『ザッザッ…』と地を踏むような摩擦音も耳に届く。
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武藤 勝生
…ね、眞白?

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瀬名 眞白≪ん?≫
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武藤 勝生
もしかして今、外にいる?

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武藤 勝生
なんか、歩いてるよね?

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瀬名 眞白≪あ、分かる?≫
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武藤 勝生
え、まだ家に帰ってないんだ?

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瀬名 眞白≪ああ。大学の友達に課題の解き方教えるのにファミレスにこもってたら、終電に乗り遅れた。≫
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武藤 勝生
マジで?!今どこにいるんだよ?

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瀬名 眞白≪…そろそろ勝生の家の近く、かな?≫
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武藤 勝生
えっ?
僕の家の近く?
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瀬名 眞白≪そう。≫
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瀬名 眞白≪あのさ、勝生…、≫
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瀬名 眞白≪悪いけど、今夜泊めてくれねーかな?≫
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瀬名 眞白≪歩くつもりだったけど、やっぱさすがに叔母さんちまでは遠くて無理だわ。≫
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少し疲れた様子の乾いた声。
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さっき『おめでとう』を言ってくれた明るい声音とは真逆だ。
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鷹野先生の家は眞白が今住んでる叔母さんの家とは電車の路線も違うし、合理的に考えて帰路の沿線上にある僕の家が足がかりとなったんだろう。
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とにかく、眞白が僕を頼ってくれるのは素直に嬉しい。
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武藤 勝生
泊めるのはもちろんいいけど、明日も大学あるよね?
朝の通学に間に合う?
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瀬名 眞白≪午前の講義が教授の体調不良でオンデマンドになったから、行くのは昼からでいいし問題ない。≫
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武藤 勝生
それなら大丈夫だな。

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瀬名 眞白≪せっかくこっち側のファミレスで勉強会やってたのに、しくったわ。≫
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武藤 勝生
あ、大学の友達は?
ちゃんと帰れたのか?
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瀬名 眞白≪ああ。そいつの家はファミレスから近くて、それこそ歩いて帰れる距離だから。≫
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瀬名 眞白≪「泊って行けよ」って言ってくれたけど…なんか気も遣うし、「大丈夫」っつって帰ることにした。≫
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武藤 勝生
…なるほど、そっか。

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瀬名 眞白≪まあでも…、≫
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瀬名 眞白≪勝生の声聞いたら、なんかいきなり歩くの怠くなったわ。≫
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武藤 勝生
―――…

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なかなかに盛大な溜め息と自嘲気味な眞白の笑声が聞こえる。
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瀬名 眞白≪一応言っとくけど、泊めてほしいからっておまえに電話したんじゃねーからな?≫
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瀬名 眞白≪「誕生日おめでとう」って言うために電話したんだからな?≫
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武藤 勝生
分かってるよー。

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もちろん、すごく分かってるよ、眞白。
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僕の声を聞いて、良い具合に気が緩んだってこと。
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大学の友達の前では気を張っていただろうに、僕の前では眞白がやんわりと弱音を吐いてくれる。
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武藤 勝生
最初は叔母さんの家まで歩くつもりでいたんだよね?

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武藤 勝生
着くのが明け方になるよ。無茶すぎる。

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瀬名 眞白≪…だよな。≫
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瀬名 眞白≪でも結局、勝生に甘えようとしてるけど、俺。≫
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武藤 勝生
(いやいや、僕に甘えるだとか…、)

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武藤 勝生
(いくらでも甘えてくれっ)

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もう、胸がきゅーんとなる。
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武藤 勝生
そろそろ着く?

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武藤 勝生
とりあえず、門のところで待ってるから。

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居ても立っても居られないこの感じ。
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瀬名 眞白≪さんきゅー。マジで助かる。≫
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武藤 勝生
全然いいよ。気を付けてな。

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本当に僕は眞白のことが大好きなんだな…と改めて強く実感しながら、眞白との通話を終えて玄関先に向かった。
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