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鳴り響くパトカーのサイレンがこちらに近づいて来る。
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次第に女性の方は落ち着きを見せ始めたが、
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俺にボコボコにやられたことで恐怖に慄いた様子の男は、俺が軽く視線を投げただけでビクリと身を震わせていた。
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瀬名 眞白
(…バカが。死ぬほど怯えろ)

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瀬名 眞白
(俺に殴り飛ばされる夢を毎晩見て、うなされりゃいいんだよ。ゲスが)

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女性は仕事帰りで、見知らぬこの男に背後から突如襲われたらしい。
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いちいち女性の年齢までは聞かなかったが、見た感じ、俺より少し年上なだけで20代前半くらいに見える。
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もう少しで、この女性のいつもの日常が崩れ去るところだった。
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瀬名 眞白
(マジで通りかかったのが俺で良かった――…って素直に思いたい)

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久しぶりに両手の拳に残る、生温い皮膚の感覚。
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人を殴るとそれがねっとりと纏わりつく感じで、その感覚は好きじゃないし、しばらく不快さは続くが、
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それでもやっぱりステゴロもなにかの役に立つときがあるのだ。
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瀬名 眞白
…大丈夫か?

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*は、はい…っ、
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*あなたが助けてくれなかったら私…っ、ほんとにどうなってたか…、
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瀬名 眞白
良かったよ、俺がたまたま通りかかって。

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*本当にありがとうございました…!
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瀬名 眞白
いや、全然。

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瀬名 眞白
(…にしても、こっからだよ、長げーのは)

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到着したパトカーの赤灯の光が離れたここまで射し込んで、それをチラリと目視する。
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瀬名 眞白
(今日は家に帰れるかな…)

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そんな風に苦笑交じりに思いつつも、
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女性が男の手に落ちることなく、強○を未然に防げて良かったと改めて安心したのもあるのか、一気に疲れが押し寄せた。
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女性を助けたとはいっても、俺が一方的に男のことをタコ殴りにしたことは、いわゆる『行き過ぎた暴○行為』。
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『もう絶対にしない』というトラウマを植え付けるためだったとはいえ、ほぼ無抵抗な人間を数十秒のあいだ殴り続けたのだから、当然といえば当然だ。
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だが、相手は女性を襲おうとしていた外道。
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俺のおかげで自分は救われたのだと女性が必死に警察に直訴してくれたおかげもあって、その法規定は免除の方向に進むらしい。
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一晩留置所泊まりになることも覚悟していたが、警察署での事情聴取も終わり、俺は一旦家に帰されることになった。
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言うまでもなく、男は強○未遂・暴〇の罪で送検されることになる。
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瀬名 眞白
あー……
久しぶりに、なんつーか、消耗した感じだわ。
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警察署の外に出て両手を上に伸ばし深呼吸をすると、冷えた空気が鼻腔を通って体内を巡回しクリアにしていく。
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瀬名 眞白
……う、ちょっと寒い…?

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署のトイレで手や顔に付いた返り血を洗い流した際、女性に譲ったパーカーが黒でよかったと思っていたはずなのに、
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数時間後の今、半袖姿だったことをすっかり忘れてしまっていた自分に苦く笑った。
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瀬名 眞白
(早く帰って風呂入って寝よ…)

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*…あのっ!
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瀬名 眞白
…、

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細くて高い声に振り向くと、助けた女性が小走りに駆け寄って来るのが見えた。
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家族が迎えに来てくれるらしく、その到着を待っている間に俺の元に来たのだろう。
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軽く息を弾ませた口元は、男に殴られたせいで赤黒く出血していて、目尻や頬にも応急処置の白いガーゼ―が当てられていた。
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瀬名 眞白
(…うぅ、かわいそうに…)

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*お帰りのところ、すみません…っ。
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瀬名 眞白
いや、別に構わねーけど。

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女性の見上げてくる瞳が真摯に揺れている。
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瀬名 眞白
大丈夫か?なんかあったか?

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*いえ、その…っ、
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俺が与えたパーカーはその体には結構大きいようで、擦り傷や汚れがすっぽりと隠れていてちょうどいい。
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顔の怪我は隠せないが、男に乱暴されそうになったという事実は丸ごと包み込める気がしたから。
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そんなことを巡らせながら、健気に微笑みを作る女性を見つめていると、
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*今日は、本当にありがとうございました…!
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俺に向けて、深々とお辞儀をして見せた。
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瀬名 眞白
いいよ。たいしたことしてねーし。

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*いえっ…、
たいしたこと、してくれてますっ…。 -
瀬名 眞白
…まあ、あんたが助かったことは、ほんとに良かったわ。

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*ありがとうございますっ…、
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*怪我とかしてないですか?大丈夫ですか…?
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瀬名 眞白
「怪我」?俺が?

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*は、はい…。
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瀬名 眞白
怪我なんてしてねーよ。

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*でも、たくさん血が付いてたので…、
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瀬名 眞白
あの血は、俺の血じゃねーから。
気にしなくていい。
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*そ、そうですか…。
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瀬名 眞白
自分こそいっぱい怪我してるっしょ?
…大事にな。
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*は、はい、ありがとうございます…。
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*ところで、あの、改めてお礼に伺いたいのですが…、
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瀬名 眞白
そういうのいいから。

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*えっ、でも…、
助けていただいたお礼をきちんとしたいです…。 -
瀬名 眞白
マジでいいって。

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*でも――
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瀬名 眞白
俺、住所不定なんだよ。

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不適当な言葉だが、お礼を受け取ることから逃れるための苦肉の文言。
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高校のときから叔母さんの家に住んでいるし、週末は光星の家で過ごして、時々は勝生の家に泊まる、
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そして、極々稀に実家に戻る…
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『不定』という意味は、あながち嘘ではないということで。
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