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子どもの頃から器用なほうだと思う…特に、喧嘩に関しては。
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誰かに教わったわけでもないのに昔から咄嗟に反応できたし、感覚で機敏に動けた。
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中学の頃の喧嘩は、俺にとっての【安定剤】。
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でも今は、ある意味での【活用材】。
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『できるだけ喧嘩をしてほしくない』…
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前に、心配そうに言っていた光星の顔がちらつくけど、
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瀬名 眞白
世の中が無秩序だったら、

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瀬名 眞白
おまえのこと、確実に消してるわ。

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山那のときみたいに、やっぱり、『時と場合による』んだよ。
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--……っ、ぅ…――ゲホゲホッ…!
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腹を押さえながら、男は堪えきれずに吐しゃ物を地面に吐き散らかす。
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たった今、俺の蹴りをみぞおちに喰らったせいだ。
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瀬名 眞白
…もう二度としねえって誓え。

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低い声を浴びせた目先には命乞いをするように震える男と、俺のすぐ右下側には咽び泣く女性が一人。
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--も、ッ…もう二度とっ…
こんなことっ、しませ…んっ! -
瀬名 眞白
……

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マジで胸糞悪い。
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男が女よりも身体的に差があって、力があるのは当然のことで。
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生まれ持ったその力でねじ伏せて自分の思いのまま弄ぶだとか、そもそも人間のすることじゃない。
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*…ぅ…うっ…、
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瀬名 眞白
…、

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女性の顔は、この男に何度か殴られたらしく少し腫れ始めていた。
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着ているカットソーもところどころ裂かれたように汚れて、その姿を目にしただけで怒りがこみ上げる。
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世の中の理不尽なことに対してキレる『怒り』は、俺の強さのベースだ。
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*ッ…、
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瀬名 眞白
もうすぐ警察も来るだろうから、嫌でなければコレ着てな。

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着ていた黒のパーカーを脱いで、女性にポンと投げ渡す。
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*…あ、ありがとう…ござ、います…っ。
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瀬名 眞白
それ、返さなくていいから。

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日が沈んで秋が深まってきたこの時期は少し肌寒くて、Tシャツ姿になった俺の半身を冷たい夜気がまとわりついた。
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それでも、この女性のことを想えば、寒さくらいなんてことない。
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警察に通報するよう指示した俺に従った女性がすぐに電話したことで、そろそろ司法の番人たちがここに到着するはずだ。
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*ほ、ほんとに、すみません…っ、お借りします…、
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女性の声や体が小刻みに震えている。
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そりゃそうだ、こんな怖い目に遭ったら誰でもそうなる。
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瀬名 眞白
(まあでも、未遂でよかったわ)

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小さく息を吐き出して、ホッと胸を撫で下ろした。
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・・・
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――それは、大学の帰り。
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夕日がゆっくりと西の空に姿を隠していく時間帯だった。
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聴いていた音楽を止め、いつものようにワイヤレスイヤホンを両耳から外してケースに片付けた俺は、電車から降り立ち、
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家まで10分程度の距離を歩いて帰路に就いていた。
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普段はマウンテンバイクで駅と家までの道のりを行き来しているが、今日の午前中が雨だったために久しぶりの徒歩。
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見慣れた景色を通り抜けて行く間に日は徐々に落ち、宵闇が広がり始めた。
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駅の周辺は人の数も多く賑やかだが、一定の区間だけ人通りが極端に減る道筋がある。
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そこは、外灯が上の方でぼんやりとひとつ灯っているだけで、下まで光が届くには頼りない明るさ。
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ぼんやりとした陽だまりのようなそこから離れれば、すぐに暗がりに飲み込まれる、そんな不安定な場所。
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瀬名 眞白
《……》

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俺は別にいい。
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暗い場所はもともと平気だし、たとえば誰かに絡まれたとしても対応できるから。
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でも、そうじゃない人には少し危なっかしい経路…ずっと前からそんな風に思っていた。
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『―――…』
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不意に、路地裏の方から普段耳にしないような『雑音』が聞こえた気がした。
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瀬名 眞白
《……、》

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なんとなく胸騒ぎがして、ふと立ち止まる。
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前後の道には俺しかいないし、もちろん周囲に他の人影もない。
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中学時代に、喧嘩は百戦錬磨といったような研ぎ澄まされた日常を送ってきたせいか、俺は人より第六感が優れているのかもしれない。
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そんなことを思いながらさらに耳をそばだてると、やっぱり妙な『音』。
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瀬名 眞白
《…――》

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その『音』に引き寄せられるように少し足早に向かった先は、朽ちかけたような建物に隣接する空閑地。
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奥は行き止まりになっていて、まったく人目にはつかない死角だ。
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瀬名 眞白
《(やべーな…、この場所…)》

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眉根を寄せたと同時に、ガサガサッと音が響いた方向を咄嗟に覗き込むと、
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*《い、いや…っ、やめて…!》
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--《おとなしく、っ、しろっ…!》
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小暗がりの向こうで、今まさに女性を地面に組み敷いて、覆いかぶさろうとしている男の荒ぶったような背中が見えた。
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がっちりと押さえ込んだ小さな体の上で興奮した様子の男が、カチャカチャとズボンのベルトに手をかけているのが窺える。
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*《誰か…っ、助けて――…》
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--《黙れっ…!》
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ゴツッと鈍い音がして、女性のくぐもったような声が響き渡った。
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おそらく男が女性の顔面を殴りつけたのだと思う。
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瀬名 眞白
《―――》

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こんなとき、普通ならまず大声を出すのが良いと聞いたことがある。
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普通の人がそうするのももちろんアリだ。
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でも、喧嘩に慣れている俺は敢えてそうしない。
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他者に気づき、逆上した男が女性を盾にして、その顔や体をさらに傷つける可能性を推測するからだ。
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瀬名 眞白
《……》

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気づかれないよう音を立てることなく静かに、それでいて素早く歩み寄る。
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無論、男を一発目で仕留めるために。
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*《いやぁ…っ、お願いっ、やめて――》
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--《うるせえっ、黙れっ!》
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--《はぁ、はぁ…っ、てめえ、脚…広げろっ!》
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女性のスカートを捲り上げながら鼻息を荒くした男は、無我夢中で女性にフォーカスしているから、
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気配を極力消して背後まで近づいた俺に全く気付く様子はない。
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瀬名 眞白
《…、》

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仰向けになった女性にも悟られないように、男の後ろから横にはみ出さないように真後ろまで近づいた――刹那。
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瀬名 眞白
《てめえが黙れ…!》

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--《っ…?!あっ?!》
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瀬名 眞白
《…――!》

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男のTシャツの襟首を引き掴んで上に持ち上げ、ぶらりと揺れた顔面の横っ面に渾身の一撃を喰らわせた。
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--《ッぐふぅ…っ!!》
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瀬名 眞白
《(奥歯、イッたな…これ)》

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瀬名 眞白
《 (もう一発、喰らっとけ…!) 》

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立て続けに二発目を喰らわせた瞬間、温い液体の感触が拳に触れた気がしたのは、
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男の唇の端が切れたか鼻柱まで衝撃が響いて鼻血を吹き出したのか、どちらにせよ、その血が俺の拳に付いたからかもしれない。
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そんなことはお構いなしに、持ち上げたままの男の襟首をさらにグンと揺らして平行に思い切り投げ飛ばした。
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--《っわぁあ…ッ、ぅう!!》
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空閑地の地べたを奥まで勢いよくゴロゴロと転がった男は、突然何が起こったのか混乱した様子で苦悶の表情を浮かべている。
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大きな体で成すすべなく狼狽えているのが滑稽だ。
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瀬名 眞白
《こんなとこで汚ねえイ○モツ晒して、なーにやってんだよ…、てめえ》

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--《な、なんだ、おまえは…っ、いきなり――》
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瀬名 眞白
《「いきなり」?…てめえがこの女の人にやってることは、いきなりのことじゃねーのかよ?》

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瀬名 眞白
《てめえが「いきなり」っていう言葉を語るな。》

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瀬名 眞白
《まさかこんな薄汚い場所で、恋人同士でじゃれてるわけじゃねーよな?》

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俺が助けに入ったことで、男の支配から解放されて起き上がった女性は震える体を両手で抱えるようにしながら、強く首を縦に振って見せる。
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*《い、いきなり…っ、ここに連れ込まれて…っ、》
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瀬名 眞白
《ほーらみろ。てめえがしたことは、『いきなり』の犯罪じゃねーか。》

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--《ま、まだ何もヤッてない…っ、》
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--《見逃してくれ…!》
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瀬名 眞白
《どの口が言う!誰が見逃すかよ、バカが!!》

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--《ひ、ひぃ…っ、》
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瀬名 眞白
《再犯防止しねーとな?》

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瀬名 眞白
《通りすがりの一般市民、舐めんなよ…?》

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言いながら、男めがけてタンと地を蹴る。
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脱ぎかけていたズボンに動きを絡め取られた男は無様に這いつくばって逃げようとしたが、
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俺はすぐにその図体を差し押さえて仰向けにし、無防備な顔面をタコ殴りに拳を振り下ろした。
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--《っ、うっ、ぐ…ッ!!》
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瀬名 眞白
《―――!!》

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飛沫のような細かい返り血を浴びながらも、躊躇うことなく真顔で。
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目が据わった俺の顔つきはきっと今、世界中の誰よりも冷徹だ。
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瀬名 眞白
《―――!》

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--…、っ、ガッ…ぅ!!
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恐怖は、時に必要だと俺は思う。
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悪人に対して、『もう二度としない』と植え付けるための、トラウマ級の恐怖が。
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瀬名 眞白
《…ッ、!!》

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最後に、ようやく立ち上がった俺から男のみぞおちに一発の蹴りを喰らわせる。
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--《っ、うっぐ…ッ!!……っ、 》
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みぞおちは急所の一つでもあるために、死なない程度に手加減の蹴りを『優しく』お見舞いしたわけだが。
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瀬名 眞白
《(一応、これくらいで…)》

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…ここで止めて慈悲深いだろうが。
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ありがたく思え。
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