[ August 30 ] -6

  • 時は流れて。

  • 眞白と過ごす、二度目の俺の誕生日の夜。

  • 大学の帰りにケーキを買って家までお祝いに来てくれた眞白を招き入れ、眞白が作ってくれた手料理を二人で味わいながら楽しい時間を過ごしていた。

  • 誕生日プレゼントは、仕事で使うために俺が兼ねてからこっそり欲しいと思っていたLA○Yの4色ボールペン。

  • 今年も眞白からプレゼントには何が欲しいか聞かれたが、

  • バイトをしているとはいえ、まだ大学生である恋人に強請るのは気が引けて、うまくはぐらかしていたのに。

  • 鷹野 光星

    ありがとう、すごく嬉しいよ。

  • 瀬名 眞白

    よかった。喜んでもらえて。

  • 鷹野 光星

    よく分かったな、俺がこのペンを欲しがっていたこと。

  • 瀬名 眞白

    ん?

  • 瀬名 眞白

    光星は分かりやすいからなー。

  • 鷹野 光星

    (…いや、眞白が鋭いのでは?)

  • 知らないうちに、すっかり見破られてしまっていた。

  • ……愛に傷つき、悲しくて辛い思いをしたあの頃の日々が嘘のように、今は毎日が幸せで溢れている。

  • 時折、この幸せが突然壊れてしまうのではないかと、不安になるくらいに。

  • けれど、

  • 瀬名 眞白

    今年も光星の誕生日を一番近くで祝える俺…めっちゃ幸せじゃん?

  • そんな不安を眞白はいつもさりげない笑顔で、まるで息をしているのと同じようにサラリと払拭してくれる。

  • 俺にとって、眞白は本当に最高の恋人だ。

  • 食事を終えて一段落した頃、眞白は大学の講義内容の課題で調べたいものがあるから本を貸してほしいと、

  • 俺が愛用している書物を物色しながら本棚を眺めていた。

  • 瀬名 眞白

    なんつーか…、
    さすが国語の先生だな、光星。

  • 文芸書や実用書、専門書からビジネス書など、幅広い書籍とその数に感嘆の声を漏らしながらお目当ての本を探していた眞白だったが、

  • 瀬名 眞白

    ……光星、コレ…、

  • 本棚の片隅に飾ってある小さなマスコットに視線を投じ、動きを止めて熟考するように押し黙った。

  • 俺は、あのときの少年からもらったスライムのマスコットキーホルダーを、まるでお守りのように今も大切に飾ってあった。

  • 鞄に付けて持ち歩くことも考えたが、色褪せたり汚れたり、最悪ボールチェーンが切れて失くしてしまうことを危惧して、安全地帯でもある本棚に飾ることにしたのだ。

  • 鷹野 光星

    ん?どうした?

  • 瀬名 眞白

    …可愛いな、コレ。

  • 鷹野 光星

    ああ、スライム?

  • 瀬名 眞白

    ん。

  • 瀬名 眞白

    俺もガキの頃、こういうの好きだったわ。

  • 瀬名 眞白

    …つーか、今もこんな可愛い系のモノ、好きだけど。

  • 眞白は動物が大好きだからか、ぬいぐるみやこういった可愛い系のマスコットには純朴にデレるところがあって、

  • 少し照れくさそうに、それでいて嬉しそうに頬を緩める。

  • 瀬名 眞白

    俺の今の部屋にもいくつか飾ってあるけど、

  • 瀬名 眞白

    光星がこんなの持ってるのって珍しくね?

  • 鷹野 光星

    はは、そうだよな。

  • 瀬名 眞白

    ……、

  • 鷹野 光星

    …どうかしたか?

  • 瀬名 眞白

    んー…
    気のせいかもしれねーけど、なんかコレ…、

  • 瀬名 眞白

    見覚えあるんだよな…。

  • 鷹野 光星

    ――え?

  • 瀬名 眞白

    あー…なんだったかな、このスライム。

  • 瀬名 眞白

    どっかで見たことあるんだけど、思い出せねー。

  • 瀬名 眞白

    俺の部屋にはないから同じものとかじゃねーし…、

  • 鷹野 光星

    ―――…

  • 鷹野 光星

    (まさか――あのときの少年…、)

  • まさかだとは思うが……、眞白…?

  • 唐突な閃きに戸惑いながらも息を飲んで、こちらから眞白の横顔を食い入るように見つめる。

  • あのときの少年はまだ中学生で、しかも出会ったのは仕事帰りの夜だったから、

  • その風采は記憶に残っていても、銀髪なうえに黒いマスクもしていた少年の顔つきは定かではない。

  • 鷹野 光星

    (でも…、確かに目元とか、あの少年と似ているかもしれない)

  • 鷹野 光星

    (そういえば、年齢的にもあの少年と眞白は合致する)

  • 鷹野 光星

    (……いや、まさかな。そんなことありえない)

  • 瀬名 眞白

    まあ、ガチャとかゲーセンとかでもよく見かけるしな、こういう類のモノって。

  • 鷹野 光星

    そ、そうだよな。

  • 鷹野 光星

    似たようなものはたくさんあるよな。

  • 瀬名 眞白

    ちなみにコレ、ガチャで取ったのか?

  • 鷹野 光星

    …いや。

  • 鷹野 光星

    そのスライムは…ずっと前にもらったんだ。

  • 瀬名 眞白

    へえ…、
    それって、誰に?

  • 眞白が悪戯っぽく目尻を歪めて探るようにこちらを見据えながら、ダイニングテーブルで珈琲を味わっていた俺に近づく。

  • 瀬名 眞白

    俺以外の誰にもらったんだよ?
    聞き捨てならねーな?

  • 瀬名 眞白

    きちんと飾ってあるくらいだから…、

  • 瀬名 眞白

    もしかして、昔好きだった人からもらったとか?

  • 『んんー?』と眉尻を上げてニヤニヤと覗き込んできた。

  • 鷹野 光星

    違うよ。そういったものは置いてない。

  • 瀬名 眞白

    確かにそっか。

  • 瀬名 眞白

    普通は置かねーか。

  • 鷹野 光星

    そのマスコットはね…、

  • 鷹野 光星

    俺にとって、とっても深くていい思い出が詰まってる宝物なんだよ。

  • 瀬名 眞白

    へえ…、そうなんだな。

  • 鷹野 光星

    実は…―――

  • あの頃の俺がどういう状態でいたのか、あの夜、自分の身になにが起こったのか。

  • どうして今も大切にそのスライムのマスコットを飾ってあるのか…ひとつひとつ、思い出を紐解くように俺は眞白に語り始めた。

  • …そして、話も終盤に差し掛かった頃。

  • 瀬名 眞白

    えっ――それ…、

  • 瀬名 眞白

    マジか、信じらんねー…。

  • 鷹野 光星

    眞白…?

  • 瀬名 眞白

    そいつ――…その少年、

  • 瀬名 眞白

    間違いなく俺だわ…、

  • 鷹野 光星

    えっ…?!

  • 鷹野 光星

    本当に…?!

  • 瀬名 眞白

    思い出した…、

  • 瀬名 眞白

    あの日、遊びに行った先で、ひたすら殴られてたんだよ…若い大人の男がさ。

  • 瀬名 眞白

    で、たまたま俺が助けに入って――…

  • 鷹野 光星

    ―――…

  • 瀬名 眞白

    顔も傷だらけだったし分かんなかったけど、

  • 瀬名 眞白

    あの男の人…光星だったのか…。

  • 鷹野 光星

    あのときの少年が…眞白…。

  • まさかの奇跡ともいえる符合に、お互いがしばらく目を見合わせて茫然となる。

  • そこら中に怪我を負い満身創痍の当時の俺を救ってくれたのが、紛れもなく眞白だったということを知ったのは、

  • あの日から4年も経った今日……俺の27回目の誕生日。

  • 鷹野 光星

    こんなことって…、あるんだな…。

  • 感涙という言葉にふさわしい温かな涙が頬を滑る。

  • 今思えば、あの頃からずっと、眞白は俺を守り続けてくれていたのだ。

  • 鷹野 光星

    ほんとに…信じられないよ…。

  • 鷹野 光星

    眞白、ありがとう…、

  • 瀬名 眞白

    あのスライム、ずっと置いててくれてたんだな…。

  • 瀬名 眞白

    俺こそ、ありがとな…光星。

  • 瀬名 眞白

    これからもずっと、俺が守ってやる。

  • 俺の頬を濡らし続ける涙を指先で拭った眞白は、目尻に優しくキスを落としてくれた。

  • ――…HAPPY BIRTHDAY TO ME.

  • そんな奇跡の誕生日を迎えることができた俺は、世界中の誰よりも幸せ者だ。

  • [ August 30 ] END



  • 【あとがき】まずは、お読みいただきありがとうございます(多謝♡

    作中で未成年の喫煙のことが出ましたが、未成年の喫煙は法律で固く禁止されています!
    物語の流れで描きましたが、くれぐれもマネしないようにしてくださいね。

  • さて。今回は光星の誕生日をテーマに書いてみましたφ(・ω・。)かきかき
    光星は、冷静できっちりとしていて、非の打ちどころがないような人なんですけど、とても脆い部分がある人だと思います。その脆さが他者に対する優しさにいつも置き換わってるんですが、辛さを必要以上に背負い込んでしまうところが彼の弱みですね。

  • 光星がどのようにして優以斗との失恋を乗り越えようとしていたのかも、ちょっと書いてみたくて盛り込んでみました。
    優以斗が関係するお話は【EPISODE STORY】の【ぬくもりの在処】や【描く先には君がいる】【迷走のあと】に書いてますので、まだご覧になっていない方はぜひ♪

  • ちなみに、眞白は子どもの頃から可愛いぬいぐるみとかマスコットの類が好きで、ド○クエはプレイしたことはないのですが、スライムのルックスに惚れていました♪

  • 話の中に出てきたスライムも、クレーンゲームで目が合ったスライムを「お、可愛い」と思って数百円でゲット。
    光星には、「たまたまだよ」みたいなことを言って手渡してますが、ほんとは欲しかったから数百円使って取りました笑

  • でも、眞白はとっても慈悲深く優しい一面を持つ子なので、光星にプレゼントしたということですね♪
    そして現在、眞白が光星にプレゼントしたL○MYの4色ボールペンは、だいたい16000円くらいのお値段です(わたしは使ったことないや、こんな高いボールペン笑

  • あと、お話の中で眞白が言っていた『親友』というのは、もちろん勝生のことです。
    中学3年生になり、晴蘭学園を一緒に目指そうと勝生が粘り強く眞白を誘ったことで、傷だらけの光星と出会った翌々日から、眞白は遅めの受験勉強に取り掛かったのでした。
    眞白は生まれつき頭が良いので、無事に晴蘭の合格を勝ち取ったというわけです(๑•̀ •́)و✧

  • ところで、
    作中の要所要所で『眞白』感が出ていましたが、お気づきでしたでしょうか?w
    「…ん」という返事だったり、
    「たいしたことしてねーし」とか、
    片眉をピクリとさせる表情の変化だったりとか。

    お分かりいただけた方には、もれなく眞白からのハグを…♡(いらない?w

  • エピソード話、みなさんにも楽しんでもらえると嬉しいです♡


    ゆさみん

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