[ August 30 ] -4

  • 少年は、いつもは別の場所で過ごしていることがほとんどで、この近辺で長時間遊ぶのは夏場だけだと話した。

  • みんなと過ごしているその場所はエアコンがなく暑いから、涼しいところにたむろするという些細な理由で。

  • もしも今が夏でなければ…、

  • この少年が助けに入ってくれなければ、俺は本当に命を落としていただろう。

  • そうなってしまってもいいとは思っていたが、命拾いしたことで『生きる』ことへの執着を取り戻せた気がした。

  • **

    もうこんな場所に迷い込むなよ?

  • 鷹野 光星

    「迷い込む」というか、無理やり連れ込まれたんだが…。

  • 苦笑交じりに告げると、思い返すように少年はぼんやりと言う。

  • **

    …あ。
    最初は駅前の店かなんかで酒飲んでたんだっけ?

  • 鷹野 光星

    …ああ。

  • **

    ま、気をつけな。

  • **

    俺らみたいなのが普通に見えるくらい、危ねーヤツばっかだから、この辺りは。

  • 鷹野 光星

    そうだな…気を付けるよ。

  • **

    …ん。

  • 鷹野 光星

    ……少し、聞いてもいいかな?

  • **

    …、なに。

  • 鷹野 光星

    キミはまだ、おそらく中学生だよね…?

  • **

    ……

  • 鷹野 光星

    2年生…それとも、3年生かな?

  • **

    職質お断り。

  • 鷹野 光星

    やっぱり聞かれたくないよな…すまない。

  • **

    ……中3。

  • 鷹野 光星

    …え?

  • **

    こう見えて俺、来年の春に高校受験控えてんだよ。

  • **

    だから、この8末で…
    明日で遊ぶのもいったん終わり。

  • 鷹野 光星

    …そうなのか。

  • **

    小学校からの親友がうるせーんだよ。一緒の高校受けようって。

  • 『親友』という言葉を口にしたとき、ほんのわずかだが、黒いマスクの下の少年の顔が嬉しそうに綻んだ気がした。

  • きっとこの少年にとって、その親友はとても大切な存在なのだろう。

  • 鷹野 光星

    どこの学校を受けるつもりなんだ?

  • **

    それ以上は個人情報。

  • 鷹野 光星

    あ…ごめん、そうだよな。

  • **

    …ん。

  • 鷹野 光星

    受かるように願ってるよ。頑張って。

  • **

    どーも。

  • **

    …それより、怪我…、痛むか?

  • 鷹野 光星

    はは…、まあね…。

  • 鷹野 光星

    こんなに殴られたのって生まれて初めてだよ。

  • **

    …あんたを殴った男、タッパもあんたより低いし痩せてるし、

  • **

    見た感じ格闘技やってそうじゃなかったし、

  • **

    下からの打撃は、上からくる打撃よりはまだほんの少しマシだとは思うけど…、
    やっぱ結構やられてんな。

  • 鷹野 光星

    うん…。
    顔も、体中がもう痛いね。

  • **

    顔とか、明日になったらもっと腫れる。

  • 鷹野 光星

    え…そうなんだ?

  • **

    家に帰ったら、すぐに冷やした方がいい。

  • 鷹野 光星

    そうだね…そうするよ。

  • 鷹野 光星

    (よかった、今日が金曜日の夜で…)

  • 土日のこの休日の間に、できるだけ怪我を回復させなければ。

  • すでに学校では夏休みも終わってとうに授業が始まっているし、欠勤するわけにもいかない。

  • **

    …ここからなら、大丈夫か。

  • 表通りに差し掛かり、裏通りとは真逆の平和的な街灯の明るさを背に、少年はこちらに向き直って立ち止まった。

  • 鷹野 光星

    ありがとう。

  • 鷹野 光星

    キミのおかげで助かったよ…。

  • 鷹野 光星

    何かお礼をしたいところだけど――

  • **

    いらねー。邪魔だから早く帰れ。

  • **

    あいつら待たせてるし、これ以上あんたといると遊ぶ時間が減る。

  • 『あいつら』とはもちろん、先ほど話に出ていた、この少年にとって愛すべき仲間たちのことを言っているのだろう。

  • 鷹野 光星

    ははっ、そうだよな…。

  • 鷹野 光星

    本当にありがとう。

  • **

    いいって。たいしたことしてねーし。

  • 無骨にそうに切り返しながらも、目尻がふわりと下がる少年のどこか優しい破顔。

  • 鷹野 光星

    …、

  • それを目にした瞬間、俺の中でピンと張り詰めていた糸のようなものが、プツリと切れた気がした。

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