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女性に誘われるようにして腕を組み、少しふらついた足取りで立ち飲み屋を出た。
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俺にしなだれかかりながら明るく世間話を振ってくる女性に向けて、適当に相槌を打っていたが、
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歩を進めた眼前に広がるのは、怪しげなネオンが煌めく建物の密集地。
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LEDのカラフルなネオンサインが脳髄に突き刺さるようで、不快を感じて目を細めた。
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鷹野 光星
……あの、どこまで行くんですか…?

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鷹野 光星
この辺りに酒場ってあります…?

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次第に不信感が湧き、歩く速度を落とす。
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-どこのホテルがいい?
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鷹野 光星
えっ…?

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-お兄さん、物欲しそうな顔してたから…、
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-私とお酒飲むよりも、エッチしたいでしょ?
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鷹野 光星
――べっ、別にそんなことはっ…、

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-私はお兄さんみたいなかっこいい人とエッチしたいなー。
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鷹野 光星
俺は――

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-ねえ…しようよ、セッ〇ス。
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そう畳みかけた女性は、有無を言わせぬ勢いで俺の唇に自分の唇を押し付けてきた。
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-ッ…、んっ…、
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鷹野 光星
っ、…――

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俺にとって女性とのキスは、まさに嫌悪でしかない。
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強引に舌を差し込まれそうになり、咄嗟に頭を逸らしてキスを避けると、紅潮していた女性の表情が豹変した。
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-っ、なんなのよ、あんた。
男のくせにつまんなーい。 -
鷹野 光星
…、

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-ま、いいわ。
3万円になりまーす。 -
鷹野 光星
…えっ?!

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-私とのキス、3万円。
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鷹野 光星
な、なに言ってるんだ…!
キミが強引にしたことだろう…っ!
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酔いのせいもあって思わずカッとなり、女性の肩を軽く突き放してその場を立ち去ろうと踵を返した。
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刹那、
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鷹野 光星
―――?!

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正面から、突如黒い塊みたいなものが吹っ飛んできた。
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鷹野 光星
ぅ…ッ――

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いきなりことで避け切れず、左目の辺りに強い衝撃と鋭い痛みが走る。
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--ちょっとお兄さーん。
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--こいつと濃厚なキスしておいて、逃げるなんてどうよー?
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鷹野 光星
っ…、?!

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どうやら『黒い塊』だと思っていたのは男の堅い拳で、俺は見知らぬそいつに突然殴られたらしい。
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目尻にじわじわと生ぬるい水が湧き出るような感覚。
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おそらくそれは、殴られたことで皮膚が切れてしまい俺の血が滲み出ているからだろう。
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-それじゃ、いつものところで待ってるー。
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-おカネ、ちゃんと取ってきてよ?
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--おん。また後でな。
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鷹野 光星
―――

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日常の遊びの約束をするかのような、彼らの軽いやり取りに愕然となる。
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…バカだ、俺は。
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酒が廻るおぼつかない脳内で、やっと状況が飲み込めた。
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女性はその男とグルで、俺に近づいたのは、最初から金目当てだったのだ…と。
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--はいはい、お兄さんはこっちー。
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鷹野 光星
っ、やめろ…、

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男は俺よりも背が低くスリムな体型をしているにも関わらず力が強く、
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抵抗する俺の体を難なく抱え込むと、さらに奥の路地裏へと連れ込んだ。
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建物の壁奥に追い込まれ、手持ちの有り金をすべて出すよう要求されたが、
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鷹野 光星
あいにく…、
そんなに儲ける仕事に就いてないんでね…。
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鷹野 光星
渡す金なんてないよ…。

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わざと投げやりに吐き捨てた。
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--テキトーなこと言ってんじゃねえよ!
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鷹野 光星
本当のことだよ…。

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--てめえ!もっと痛い目に遭っとくか!?
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鷹野 光星
いいさ…、好きにしろ…。

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--はあ…?!イラつくっ!!
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鷹野 光星
殴りたければ、好きなだけ殴れよ…。

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鷹野 光星
殺したければ、殺せばいい…。

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俺はもう、生きることに疲れ始めていた。
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好きな男との別れと再会を経て、結局最後に残ったのは別離という空っぽな現実。
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俺の世界に優以斗はいないのに、いつまでも女々しくその幻影を追い続けている。
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鷹野 光星
(もういっそ…俺なんて消えてなくなればいい…)

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--てめえの命に興味はねえんだよ!さっさとカネ出せや!
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鷹野 光星
しつこいな…。「ない」って言ってるだろ…。

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鷹野 光星
さっきの立ち飲み屋でほとんど使ったよ…。

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鷹野 光星
人の金をたからずに、ちゃんと働いたらどうだ?

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フンッと嘲るように挑発を含んで言葉を並べる。
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目の前のこの男に、無茶苦茶にぶちのめされたいからだ。
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--はああ?!
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--調子こいてナメてんじゃねえぞっ!!
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狙い通り、男は俺の顔面や腹めがけて渾身の拳を何発も喰らわせた。
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鷹野 光星
――ッ、っう…!!

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痺れに似た灼熱の痛みが、腹部や顔中に広がる。
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殴られた際に奥歯で頬の内側を切ってしまったのか、口内で一気に血の味が溢れた。
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--ッ、オラぁ!!
望み通りくたばれや!! -
鷹野 光星
…―――

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あともう一発喰らったら、きっと俺は意識を失う。
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もしかしたら、もう二度と目を覚まさないかもしれない。
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鷹野 光星
(もう…、どうなっても…いい…)

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このまま死を覚悟し、ネオンの明るさに押し負けるような仄暗い夜空を仰いで瞳を閉じた――
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その直後、
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--っ、ぐふぅッ…!!―――
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俺を嬲るように袋叩きにしていた男が、これまでに聞いたこともないようなくぐもった声を漏らした。
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