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二人きりでプライベートで会える今日こそ、絶対に俺の方から鷹野のことを抱きしめようと企んでいたのに。
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瀬名 眞白
…ず、ずるいぞ、鷹野、

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瀬名 眞白
今日は、俺から抱きしめるつもりだったのに…っ。

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鷹野 光星…へえ…、できるかな?
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瀬名 眞白
できるに決まってるっ。

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瀬名 眞白
この間は学校の中だったから、鷹野の立場も考えて――…

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鷹野 光星そうか。ありがとう。
じゃあ…――― -
スッと畳みかけた鷹野は『やってみて?』とでも言うように少し身を離すと、小首を傾げて俺を見つめた。
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柔らかに微笑んだ口元から漏れる吐息が白く舞い、夜気に溶けてゆく。
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瀬名 眞白
(うう…完全にガキ扱いされてる)

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余裕めいたその微笑みを打破したくて、緊張を押しのけて鷹野を見据えた。
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瀬名 眞白
……よしっ!

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鷹野 光星「よしっ!」って、そこまで気合い――…ッ、
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『気合いを入れなくても』。
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鷹野はきっと、大人の静やかな応対でそう続けるつもりだったに違いない。
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でも俺は、その気合いを鷹野への強い想いに変えてしっかりと抱きしめる。
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鷹野が紡ぎ出そうとした言葉すらも、すべて包み込むように、深く。
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瀬名 眞白
鷹野…、覚悟しろよ?

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鷹野 光星―――…
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瀬名 眞白
俺、鷹野のこと、絶対に離してやらねーから。

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鷹野 光星俺だって、同じだ…、
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小さい声ながらも熱っぽく切り返した鷹野は、俺の腕の中におとなしく収まっていた。
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瀬名 眞白
……

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しばらくして、腕の中の鷹野をそっと解放した俺は、目の前の精悍な瞳に視軸を合わせる。
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鷹野 光星……
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瀬名 眞白
……

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互いに見つめ合うだけで、今、何を欲しているのかがテレパシーのように通じ合う。
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鷹野の整った唇に視線を落とし、ゆっくりと顔を近づけた。
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瀬名 眞白
……、

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鷹野 光星…、
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俺のダウンジャケットの腕の辺りを柔く掴んだ鷹野は、まるで縋りつくようにその手にわずかな力を込めて、そっと瞳を閉じる。
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瀬名 眞白
…――

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…今日だけ。
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クリスマスの今日だけだから。
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二人の想いを封じる取り決めを、破らせてくれ…。
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あと少しで互いの唇が触れ合う…そのとき。
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――…R、…
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RRRRR!
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まるで邪魔をするかのように、突然、俺のスマホが軽快な着信音を奏でた。
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瀬名 眞白
…、っ、

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RRRRRRRR!
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瀬名 眞白
(…っ、クソッ、いいところでっ…、)

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…いや、いろいろと卒業まで我慢の子でいなきゃならねーのに、それを少し破ろうとしたからか?
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天からの訓戒…とか。
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RRRRRRRRRRRRRR!
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瀬名 眞白
(…にしても、このタイミングで…)

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くそー…訓戒だろうがなんだろうが、ちょっとマジで恨むわ。
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鷹野 光星…瀬名、早く出てあげないと…、
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瀬名 眞白
分かってる…、

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瀬名 眞白
(音、切っとけばよかった…)

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眉尻を下げて微笑む鷹野の前で盛大な溜め息を吐き出し、ポケットから取り出したスマホには、
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『碧芭』と表示されていた。
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瀬名 眞白
…もしもし?

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瀬名 眞白
なによ、碧芭。

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いつもより数段無愛想に、通話口でその名を口にする。
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瀬名 碧芭≪ごめーん、眞白!≫
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瀬名 碧芭≪もしかして、お取込み中だった?≫
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瀬名 眞白
……別に。

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瀬名 眞白
それより、なんか用事?

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瀬名 碧芭≪ほんとごめんね、タイミング悪くお邪魔しちゃって申し訳ないんだけど、≫
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瀬名 眞白
(…なんかちょっと、バレてる感…)

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瀬名 碧芭≪そこに、鷹野先生いるよね?≫
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瀬名 眞白
…え?なんで分かんの?

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瀬名 眞白
まさかどっかで監視とか…?

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スマホを片手に薄暗い周囲をきょろきょろと見渡す。
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瀬名 碧芭≪おバカ。そんなわけないでしょ。≫
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瀬名 碧芭≪今日はクリスマスなんだから、眞白と鷹野先生が二人で過ごすに決まってるじゃない。≫
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瀬名 眞白
…あ、それでか。

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俺と鷹野のことは、『虫垂炎』で病院に運ばれたときの碧芭に、しっかりと見抜かれていた。
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瀬名 碧芭≪…で、鷹野先生、いるよね?≫
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瀬名 眞白
いるけど…なに?電話代わる?

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瀬名 碧芭≪あ、いいよ、代わらなくて。≫
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瀬名 碧芭≪仕事が忙しいから、ゆっくり話してる時間がないんだ。≫
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瀬名 碧芭≪あのね、先生に伝えてもらいたいことがあって。≫
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瀬名 眞白
…なによ?

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瀬名 碧芭≪『何も問題ナシでした、ハナマル』≫
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瀬名 碧芭≪…そう伝えてくれれば、分かると思うから。≫
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瀬名 眞白
え、なに?

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瀬名 眞白
「何も問題ナシでした、ハナマル」?

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鷹野 光星…―――
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瀬名 碧芭≪うん!≫
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瀬名 碧芭≪あ、そうそう、眞白への僕からのクリスマスプレゼントは、叔母さんの家に宅配で届くように手配してあるから。≫
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瀬名 眞白
…おう、いつもありがと。

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瀬名 碧芭≪さっきの伝言、『何も問題ナシでした。ハナマル』、
鷹野先生にちゃんと伝えてね。≫ -
瀬名 碧芭≪それじゃ、またねー。≫
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暗号文みたいな言葉を残して、碧芭は仕事に舞い戻るように忙しなく通話を切った。
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瀬名 眞白
(…ったく、勝生みたいなことしやがる)

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瀬名 眞白
意味が分かんねー…。

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鷹野 光星電話…碧芭さんから?
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瀬名 眞白
ああ。

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瀬名 眞白
なんか、鷹野に伝えてくれって。

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鷹野 光星なにを?
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瀬名 眞白
『何も問題ナシでした、ハナマル』…だったかな?

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鷹野 光星―――…やっぱりそうか…!
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瀬名 眞白
え?

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鷹野 光星今日はクリスマスだから…、
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瀬名 眞白
なに?

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鷹野 光星『10日後に結果が分かる』って…、そうか!良かった…!
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鷹野 光星ほんとに良かった…!
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目を輝かせるようにして、ひたすらひとりごちる鷹野が不思議過ぎて。
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瀬名 眞白
え、なによ?

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瀬名 眞白
「10日後に分かる」?「良かった」?…なんだそれ?

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鷹野 光星…うん?
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鷹野 光星なんでもないよ。
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瀬名 眞白
なんだよ、また二人してさー。

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鷹野 光星ははっ、今度、碧芭さんから聞くといい。
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鷹野 光星とても弟想いの彼から、直接ね。
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瀬名 眞白
なんか意味深だなー。

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鷹野 光星結果的に良い話だから心配ないよ。
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鷹野 光星でもその話を聞いたら、碧芭さんの優しい気遣いに触れて、瀬名はまた泣いてしまうかもしれない。
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瀬名 眞白
…なにそれ。

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瀬名 眞白
そう泣かねーよ?

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鷹野 光星…そうか?
あのときも少し泣いてただろう? -
瀬名 眞白
い、いや、あのときはさ、動揺してたっつーのもあるし…、

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碧芭が病院に緊急搬送されたときのことを回顧しながら、苦く笑って見せた。
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鷹野 光星…どんなときも、俺が瀬名のそばにいるから。
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鷹野 光星どんな瀬名も、俺がしっかりと受け止めるから。
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瀬名 眞白
……、

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瀬名 眞白
鷹野…、

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鷹野 光星…ん?
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瀬名 眞白
最高に、かっこよすぎ。

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……そして、俺たちは。
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時には迷い苦しむことがあったとしても、繋いだ手を離すことなく二人の[#ruby=時間_とき#]を歩んでいく。
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俺たちが紡ぐ物語は、不器用でいびつかもしれないけど、たくさんの愛に満ちているから。
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それは、何事にも負けない、誰にも壊せない…そんな愛。
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鷹野 光星そういえば、瀬名、さっきの続きは?
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瀬名 眞白
ッ、なに余裕かましてニヤニヤと…、これだから大人はっ。

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瀬名 眞白
高校卒業まで我慢の子だっ。

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鷹野 光星んー…残念だけど、仕方ない。
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瀬名 眞白
そ、それよりさ、そろそろメシ行かね?
さすがに腹減った!
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ずっと愛し合える。
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きっと、これからもずっと。
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【そして、俺たちは。編】/ グレースケール MAIN STORY END
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