8-2 ……そして、俺たちは。

  • 二人きりでプライベートで会える今日こそ、絶対に俺の方から鷹野のことを抱きしめようと企んでいたのに。

  • 瀬名 眞白

    …ず、ずるいぞ、鷹野、

  • 瀬名 眞白

    今日は、俺から抱きしめるつもりだったのに…っ。

  • 鷹野 光星

    …へえ…、できるかな?

  • 瀬名 眞白

    できるに決まってるっ。

  • 瀬名 眞白

    この間は学校の中だったから、鷹野の立場も考えて――…

  • 鷹野 光星

    そうか。ありがとう。
    じゃあ…―――

  • スッと畳みかけた鷹野は『やってみて?』とでも言うように少し身を離すと、小首を傾げて俺を見つめた。

  • 柔らかに微笑んだ口元から漏れる吐息が白く舞い、夜気に溶けてゆく。

  • 瀬名 眞白

    (うう…完全にガキ扱いされてる)

  • 余裕めいたその微笑みを打破したくて、緊張を押しのけて鷹野を見据えた。

  • 瀬名 眞白

    ……よしっ!

  • 鷹野 光星

    「よしっ!」って、そこまで気合い――…ッ、

  • 『気合いを入れなくても』。

  • 鷹野はきっと、大人の静やかな応対でそう続けるつもりだったに違いない。

  • でも俺は、その気合いを鷹野への強い想いに変えてしっかりと抱きしめる。

  • 鷹野が紡ぎ出そうとした言葉すらも、すべて包み込むように、深く。

  • 瀬名 眞白

    鷹野…、覚悟しろよ?

  • 鷹野 光星

    ―――…

  • 瀬名 眞白

    俺、鷹野のこと、絶対に離してやらねーから。

  • 鷹野 光星

    俺だって、同じだ…、

  • 小さい声ながらも熱っぽく切り返した鷹野は、俺の腕の中におとなしく収まっていた。

  • 瀬名 眞白

    ……

  • しばらくして、腕の中の鷹野をそっと解放した俺は、目の前の精悍な瞳に視軸を合わせる。

  • 鷹野 光星

    ……

  • 瀬名 眞白

    ……

  • 互いに見つめ合うだけで、今、何を欲しているのかがテレパシーのように通じ合う。

  • 鷹野の整った唇に視線を落とし、ゆっくりと顔を近づけた。

  • 瀬名 眞白

    ……、

  • 鷹野 光星

    …、

  • 俺のダウンジャケットの腕の辺りを柔く掴んだ鷹野は、まるで縋りつくようにその手にわずかな力を込めて、そっと瞳を閉じる。

  • 瀬名 眞白

    …――

  • …今日だけ。

  • クリスマスの今日だけだから。

  • 二人の想いを封じる取り決めを、破らせてくれ…。

  • あと少しで互いの唇が触れ合う…そのとき。

  • ---

    ――…R、…

  • ---

    RRRRR!

  • まるで邪魔をするかのように、突然、俺のスマホが軽快な着信音を奏でた。

  • 瀬名 眞白

    …、っ、

  • ---

    RRRRRRRR!

  • 瀬名 眞白

    (…っ、クソッ、いいところでっ…、)

  • …いや、いろいろと卒業まで我慢の子でいなきゃならねーのに、それを少し破ろうとしたからか?

  • 天からの訓戒…とか。

  • ---

    RRRRRRRRRRRRRR!

  • 瀬名 眞白

    (…にしても、このタイミングで…)

  • くそー…訓戒だろうがなんだろうが、ちょっとマジで恨むわ。

  • 鷹野 光星

    …瀬名、早く出てあげないと…、

  • 瀬名 眞白

    分かってる…、

  • 瀬名 眞白

    (音、切っとけばよかった…)

  • 眉尻を下げて微笑む鷹野の前で盛大な溜め息を吐き出し、ポケットから取り出したスマホには、

  • 『碧芭』と表示されていた。

  • 瀬名 眞白

    …もしもし?

  • 瀬名 眞白

    なによ、碧芭。

  • いつもより数段無愛想に、通話口でその名を口にする。

  • 瀬名 碧芭

    ≪ごめーん、眞白!≫

  • 瀬名 碧芭

    ≪もしかして、お取込み中だった?≫

  • 瀬名 眞白

    ……別に。

  • 瀬名 眞白

    それより、なんか用事?

  • 瀬名 碧芭

    ≪ほんとごめんね、タイミング悪くお邪魔しちゃって申し訳ないんだけど、≫

  • 瀬名 眞白

    (…なんかちょっと、バレてる感…)

  • 瀬名 碧芭

    ≪そこに、鷹野先生いるよね?≫

  • 瀬名 眞白

    …え?なんで分かんの?

  • 瀬名 眞白

    まさかどっかで監視とか…?

  • スマホを片手に薄暗い周囲をきょろきょろと見渡す。

  • 瀬名 碧芭

    ≪おバカ。そんなわけないでしょ。≫

  • 瀬名 碧芭

    ≪今日はクリスマスなんだから、眞白と鷹野先生が二人で過ごすに決まってるじゃない。≫

  • 瀬名 眞白

    …あ、それでか。

  • 俺と鷹野のことは、『虫垂炎』で病院に運ばれたときの碧芭に、しっかりと見抜かれていた。

  • 瀬名 碧芭

    ≪…で、鷹野先生、いるよね?≫

  • 瀬名 眞白

    いるけど…なに?電話代わる?

  • 瀬名 碧芭

    ≪あ、いいよ、代わらなくて。≫

  • 瀬名 碧芭

    ≪仕事が忙しいから、ゆっくり話してる時間がないんだ。≫

  • 瀬名 碧芭

    ≪あのね、先生に伝えてもらいたいことがあって。≫

  • 瀬名 眞白

    …なによ?

  • 瀬名 碧芭

    ≪『何も問題ナシでした、ハナマル』≫

  • 瀬名 碧芭

    ≪…そう伝えてくれれば、分かると思うから。≫

  • 瀬名 眞白

    え、なに?

  • 瀬名 眞白

    「何も問題ナシでした、ハナマル」?

  • 鷹野 光星

    …―――

  • 瀬名 碧芭

    ≪うん!≫

  • 瀬名 碧芭

    ≪あ、そうそう、眞白への僕からのクリスマスプレゼントは、叔母さんの家に宅配で届くように手配してあるから。≫

  • 瀬名 眞白

    …おう、いつもありがと。

  • 瀬名 碧芭

    ≪さっきの伝言、『何も問題ナシでした。ハナマル』、
    鷹野先生にちゃんと伝えてね。≫

  • 瀬名 碧芭

    ≪それじゃ、またねー。≫

  • 暗号文みたいな言葉を残して、碧芭は仕事に舞い戻るように忙しなく通話を切った。

  • 瀬名 眞白

    (…ったく、勝生みたいなことしやがる)

  • 瀬名 眞白

    意味が分かんねー…。

  • 鷹野 光星

    電話…碧芭さんから?

  • 瀬名 眞白

    ああ。

  • 瀬名 眞白

    なんか、鷹野に伝えてくれって。

  • 鷹野 光星

    なにを?

  • 瀬名 眞白

    『何も問題ナシでした、ハナマル』…だったかな?

  • 鷹野 光星

    ―――…やっぱりそうか…!

  • 瀬名 眞白

    え?

  • 鷹野 光星

    今日はクリスマスだから…、

  • 瀬名 眞白

    なに?

  • 鷹野 光星

    『10日後に結果が分かる』って…、そうか!良かった…!

  • 鷹野 光星

    ほんとに良かった…!

  • 目を輝かせるようにして、ひたすらひとりごちる鷹野が不思議過ぎて。

  • 瀬名 眞白

    え、なによ?

  • 瀬名 眞白

    「10日後に分かる」?「良かった」?…なんだそれ?

  • 鷹野 光星

    …うん?

  • 鷹野 光星

    なんでもないよ。

  • 瀬名 眞白

    なんだよ、また二人してさー。

  • 鷹野 光星

    ははっ、今度、碧芭さんから聞くといい。

  • 鷹野 光星

    とても弟想いの彼から、直接ね。

  • 瀬名 眞白

    なんか意味深だなー。

  • 鷹野 光星

    結果的に良い話だから心配ないよ。

  • 鷹野 光星

    でもその話を聞いたら、碧芭さんの優しい気遣いに触れて、瀬名はまた泣いてしまうかもしれない。

  • 瀬名 眞白

    …なにそれ。

  • 瀬名 眞白

    そう泣かねーよ?

  • 鷹野 光星

    …そうか?
    あのときも少し泣いてただろう?

  • 瀬名 眞白

    い、いや、あのときはさ、動揺してたっつーのもあるし…、

  • 碧芭が病院に緊急搬送されたときのことを回顧しながら、苦く笑って見せた。

  • 鷹野 光星

    …どんなときも、俺が瀬名のそばにいるから。

  • 鷹野 光星

    どんな瀬名も、俺がしっかりと受け止めるから。

  • 瀬名 眞白

    ……、

  • 瀬名 眞白

    鷹野…、

  • 鷹野 光星

    …ん?

  • 瀬名 眞白

    最高に、かっこよすぎ。

  • ……そして、俺たちは。

  • 時には迷い苦しむことがあったとしても、繋いだ手を離すことなく二人の[#ruby=時間_とき#]を歩んでいく。

  • 俺たちが紡ぐ物語は、不器用でいびつかもしれないけど、たくさんの愛に満ちているから。

  • それは、何事にも負けない、誰にも壊せない…そんな愛。

  • 鷹野 光星

    そういえば、瀬名、さっきの続きは?

  • 瀬名 眞白

    ッ、なに余裕かましてニヤニヤと…、これだから大人はっ。

  • 瀬名 眞白

    高校卒業まで我慢の子だっ。

  • 鷹野 光星

    んー…残念だけど、仕方ない。

  • 瀬名 眞白

    そ、それよりさ、そろそろメシ行かね?
    さすがに腹減った!

  • ずっと愛し合える。

  • きっと、これからもずっと。

  • 【そして、俺たちは。編】/ グレースケール MAIN STORY END

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