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クリスマスの夕暮れ時、俺は鷹野と二人で出かけていた。
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普段、俺たちの恋は慎ましく育まれているから、学校以外で二人きりで会うのはこれが初めてだ。
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つまりは、初デート。
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今回、バイトのシフトで初めてクリスマスに休みをもらった。
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店長に『もしかして、デート?』と聞かれて、即行で『はい』と答えながらも、
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相手を暴露するのはもうしばらく先だから、リスキーな質問はうまくはぐらかした。
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クリスマスプレゼントに俺が用意したのは、ボックスサイズの手づくりのフルーツケーキ。
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ケーキが食べたいと言った鷹野の要望で、昨日のクリスマスイブの日に、
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鷹野が部活動での指導が終わって部員たちが帰った頃に、弓道場まで出向いて手渡した。
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すごく喜んでくれたその笑顔が嬉しくて、なんでも作って食べさせてやりたくなる。
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瀬名 眞白
(弁当とか作って、さりげなく渡すとかってできねーかな?)

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昨日のことを思い返しては、そんなことを巡らせながら。
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…そして、クリスマスの今日。
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夏休みに勝生と鷹野の家に訪れた前夜みたく、楽しみすぎて寝不足にならないようにと気をつけてはいたけど、やっぱりあまり眠れずに。
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ちょっぴり寝不足気味で、でも嬉しさで満ち足りた心で、人々が行き交う街の中を鷹野と二人、同じ歩幅で歩く。
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華やかで煌びやかなクリスマスイルミネーションがとても綺麗で、
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鷹野と肩を並べる今がまるで夢のようで、
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瀬名 眞白
綺麗だなー!

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瀬名 眞白
俺、こんなにじっくりイルミネーション見たのって、小さい頃以来かも。

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瀬名 眞白
あ!あんなとこに、超でかいサンタいる!

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クリスマスならではの街のデコレーションの話題ばかりを高いテンションで口にしていた。
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初めてのデートで舞い上がっているというか、緊張もしているからか無言でいることに耐えれ切れなくて。
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鷹野 光星…ッ、
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そんな俺に静かに付き合ってくれていた鷹野だったが、いきなりクスクスと堪え切れない様子で笑声を漏らした。
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瀬名 眞白
え、なに?

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鷹野 光星いや、ごめん…、
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鷹野 光星瀬名があまりにも可愛くて。
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瀬名 眞白
…んだよっ、だってさ、

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鷹野 光星うん?
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瀬名 眞白
初めてのデートでテンション上がるわ緊張するわで、

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瀬名 眞白
なんか、心が忙しいっつーか…、

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鷹野 光星俺も。
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瀬名 眞白
え?

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鷹野 光星俺も嬉しくてすごく舞い上がってるよ、今。
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瀬名 眞白
…、

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鷹野 光星…どうした?
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瀬名 眞白
…いや、別に。

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街路樹のイルミネーションに照らされた鷹野の笑顔がキラキラと輝くようで、
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それがあまりにも綺麗だったから、こっそり見入っていたというのは内緒の話。
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鷹野 光星…寒くないか?
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瀬名 眞白
おう、全然へーき。

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晩飯の前に鷹野が先に寄りたいところがあると言うから、俺たちは今そこに向かっている。
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しばらく他愛のない話を続けながら、笑い合ってふざけ合うように肩を組んだり、同じところを眺めて喜んだり。
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そんな俺たちは、何も知らない周囲の人たちから見れば、ただの『仲のいい二人組』だろうけど。
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実際は紛れもなく『両想いな二人』だ。
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︙
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瀬名 眞白
…うわ、めっちゃ綺麗だな…。

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澄み切った冬の空気をかき分けるようにして、白い息を吐きながら辿り着いた先は、街の一角の広い展望台。
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等間隔にいくつかの木製のベンチが配置されていて、その奥には壮大な海のように広がる夜景。
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星屑がちりばめられたような、宝石箱をひっくり返したような美しい光景が目に映る。
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瀬名 眞白
俺、夜景って初めて見たわ。

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瀬名 眞白
中学のとき、さんざん夜遊びしてたのに…。

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自嘲めいて短く笑った先の夜景は、過去を乗り越えた自分へのちょっとした贈り物に思えた。
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その[#ruby=絢爛_けんらん#]な夜色とは対照的に、ところどころ小さな街頭があるだけのこちら側は灯りが乏しい。
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鷹野 光星…瀬名。
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しばらく一緒に夜景を眺めていたが、不意に鷹野が小さく俺の名を呼んだ。
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視線を巡らせると、いつになく真剣な表情をした鷹野が視界を埋める。
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瀬名 眞白
…どうした?

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鷹野 光星これ…、
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鷹野 光星瀬名に、クリスマスプレゼントなんだけど。
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少し照れくさそうにジャケットのポケットから取り出したのは、リボンが掛けられた小さな箱。
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瀬名 眞白
え、マジで…?

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鷹野 光星あと一年。
瀬名が高校を卒業するまで、 -
鷹野 光星お互いの想いをいつも確かめられるような、そんなものがあればいいなと思って。
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瀬名 眞白
…わ…、ありがと…。

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差し出された小箱を、喜びと緊張でわずかに震える手で受け取る。
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瀬名 眞白
…開けてもいいか?

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鷹野 光星もちろん。
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瀬名 眞白
…、

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指先で丁寧にリボンを外し、小箱の蓋を開けると、
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瀬名 眞白
…おお!かっけー!

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薄い暗がりの中で外灯の淡い光を受けて緩く煌めいたのは、俺が好きなブランドのリング。
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銀色を纏うそれは、ライオンのタテガミとアラベスクが流動的に刻印されていた。
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鷹野 光星そのブランドのイヤカフだったりをいつも気に入って着けてるみたいだから、そのブランドにしたんだけど。
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瀬名 眞白
うん!このブランド、めっちゃ好き!

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鷹野 光星ちょっと瀬名らしくというか、親指に嵌めれるサイズにしたんだけど…どうかな?
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瀬名 眞白
マジで嬉しい!

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瀬名 眞白
ありがと、鷹野…!

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鷹野 光星俺こそ、手作りのケーキをありがとう。とってもおいしくいただいてるよ。
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瀬名 眞白
あんなのでよかったら、いくらでも作ってやるよ。

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言いながら、目元を綻ばせて嬉々として嵌めたリングは、左手の親指にぴったりと収まった。
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瀬名 眞白
お!いいじゃん!

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瀬名 眞白
俺の指のサイズ、よく分かったな?

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鷹野 光星俺と瀬名の手の大きさや親指の太さが似てるから…、
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鷹野 光星合わなかったらサイズ変更もできるし、
ひとまず俺の指のサイズに合わせたんだけど、うまく合ってよかった。 -
瀬名 眞白
マジでぴったりだよ。

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鷹野 光星…実は、俺も。
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瀬名 眞白
え?

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鷹野 光星それとお揃いだよ。
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鷹野は自分の首元に手をやって、首筋から何か紐のようなものを引き出す。
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一瞬キラリと光ったシルバーの細いチェーンの先に揺れる、丸いリング。
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それはたった今、俺の親指に収まったリングと全く同じものだった。
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鷹野 光星今は同じものを同じ位置に着けることはできないから、
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鷹野 光星せめてチェーンに通して、いつも身に着けていようと思って。
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瀬名 眞白
…鷹野…、

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今までにないくらい、胸の中が甘い切なさで満たされる。
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今は多少の距離を置く必要があっても、誰にも壊させやしない――
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口には出さなくても、鷹野のそんな強い想いが赤い糸のように俺の小指に絡まった気がした。
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瀬名 眞白
俺、絶対に大事にする!

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瀬名 眞白
このリングも、鷹野のことも!

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瀬名 眞白
ずっとだ!

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力強く述べた言葉が、愛に震える。
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鷹野 光星…世界中の誰よりも、瀬名のことを想ってる。どんなときも。
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瀬名 眞白
俺だって、鷹野が俺のことを想ってくれる以上に、鷹野こと――

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鷹野 光星…―――
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言葉の最後を言い終えるよりも早くスッと距離を詰めた鷹野は、俺の体を優しく抱き込んだ。
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