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瀬名 碧芭そして、隣の…えっと、
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鷹野 光星すみません、申し遅れました。
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鷹野 光星わたくし、瀬名くんのクラスの副担任で、鷹野光星と申します。
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瀬名 碧芭どうも。いつも眞白がお世話になってます。
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瀬名 碧芭眞白の兄の、瀬名碧芭です。
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ベッドの上から丁寧に頭を下げ返した碧芭は、丁重な姿勢と面持ちで佇む鷹野に微笑みかける。
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瀬名 碧芭先生、どうぞ気を楽にしてください、普段の一人称でいいですよ。
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瀬名 碧芭眞白に対する呼び方も、『くん』付けじゃなくていいです。
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瀬名 碧芭じゃないと、『いつもの先生』が見えないから。
僕も普段通りにしますので。 -
鷹野 光星…お気遣いありがとうございます。
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瀬名 碧芭…あ。
あと、僕の呼び名も『碧芭』でいいです。 -
瀬名 碧芭先生の目の前に『瀬名』が二人もいて、ややこしいでしょ?
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鷹野 光星分かりました。
では、下の名前で呼ばせていただきますね。 -
瀬名 碧芭お願いします。
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瀬名 碧芭それじゃ、改めて…、
今日は、先生にまでご心配をおかけして、すみませんでした。 -
鷹野 光星いえ!大事に至らなくて本当に良かったです。
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鷹野 光星瀬名がすごく心配してましたから。
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瀬名 眞白
鷹野、余計なこと言わなくていいから…、

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鷹野 光星どうして?
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鷹野 光星あんなに心配してたじゃないか、タクシーでも泣い――…
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瀬名 眞白
わわっ、いいって!

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そのときの場景を連ねようとした鷹野の口を慌てて手で塞ぐと、不思議そうに瞬いた瞳が俺を注視した。
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鷹野はまだ、俺に対する碧芭のブラコン度合いを知らないから無理もない。
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瀬名 眞白
(ふう…危ねー)

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瀬名 眞白
(俺が泣いてたことを碧芭が知ったら有頂天になるからな…)

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瀬名 眞白
(俺への溺愛っぷりを、鷹野にも近いうちに話さねーと)

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バタバタと慌てふためいた俺を見た碧芭は、嬉しそうに口元を綻ばせた。
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瀬名 碧芭想像以上に、僕のことをすごーく心配してくれたんだね。
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瀬名 眞白
………それなりに。

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瀬名 碧芭もう、相変わらず愛想がないんだから。
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クスクスと笑ってベッドの掛布団を柔らかに撫でつけながら、碧芭は「それにしても…」と続けた。
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瀬名 碧芭鷹野先生って、眞白の副担任ですよね?
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瀬名 碧芭こういうときって、担任の先生が同行することが多いかなって思ったんですけど…、
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瀬名 碧芭今回は、たまたまですか?
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瀬名 眞白
なに、碧芭。

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瀬名 眞白
なんか失礼な言い方じゃん?

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瀬名 碧芭違うよ、そういうんじゃなくて。
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瀬名 碧芭副担の先生に来てもらえたのも嬉しいけど、僕、眞白の学校に行ったことがないし、
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瀬名 碧芭『担任の先生ってどんな人なのかな?』『会えたらよかったのにな』って、ちょっとワガママなことを思っちゃって。
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目元を柔和に緩めながらも、どこか探るように鷹野を見据える。
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碧芭の俺に対する愛着度は人並み以上だからか、なんとなく、その眼差しには含みを感じた。
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それに動じる様子もなく、吹っ掛けられた疑問に対してすぐに答えようとした鷹野だったが、
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鷹野 光星担任の黒木は…、
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どういうわけか、逡巡するように言い淀む。
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瀬名 眞白
(鷹野…?黒木が言ってたこと、忘れちゃったか?)

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『担任の黒木は、臨時の職員会議でどうしても席を外すことができなかったため同行がかなわず、わたくしが代わりに来ることになりました』
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もしも何か聞かれるようなことがあればそのように話せばいいと、実は黒木が答えを用意してくれていた。
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気が動転していた俺でも覚えているその言葉。
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鷹野がどうしても俺に同行したいと黒木に伝えたとき、
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自分が行くよりも鷹野が俺のそばにいる方が良いと判断した黒木が、この場を鷹野に譲ってくれたのだ。
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黒木 紗衣《瀬名くん、いい?気をしっかり持って!》
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黒木 紗衣《鷹野先生がそばにいてくれるから、百人力だよっ》
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茫然自失となりかけた俺に、黒木はそう励ましてくれていた。
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自分が同行しない方が、そして二人だけの方が、俺や鷹野が少しでもありのままでいられるのではないか…と。
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まだ公にはできない俺たちのことを考えて、それは、俺と鷹野の胸の内を知る黒木らしい機転と配慮。
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黒木が示した提案通り、鷹野は嘘の理由を述べればいい。
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鷹野 光星……
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瀬名 眞白
(…鷹野?どうした?)

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瀬名 碧芭……先生?
どうかされましたか? -
鷹野 光星いえ…、
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鷹野 光星…申し訳ございません。
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鷹野 光星本来は、担任の黒木が来るべきだったのですが…、
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鷹野 光星俺が瀬名と一緒にここに来ることを望んだので、代わりに同行させていただきました。
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瀬名 眞白
…―――

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鷹野は、黒木が提案した嘘をつかなかった。
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誤魔化しのない揺るぎない瞳で碧芭をまっすぐに見つめ返し、静かに声を紡いだ。
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鷹野 光星俺が、瀬名についていてあげたいと思ったので、担任の黒木に同行を申し入れました。
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瀬名 眞白
(鷹野…、)

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瀬名 碧芭……、
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瀬名 碧芭…なるほど。そうなんですね。
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ほんのわずかに生み出した沈黙を飄々と破り、碧芭はにっこりと口端を上げた。
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瀬名 碧芭…ねえ、眞白。
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瀬名 碧芭ちなみに、担任の先生って…女性?
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瀬名 眞白
え、…そうだけど?

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瀬名 碧芭ふーん…そう。…美人さん?
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瀬名 眞白
…そうだな、綺麗だと思う。

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瀬名 碧芭わあ…やっぱり会いたかったなあ。
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どこか上っ面のように冗談ぽく笑ってから一息ついた碧芭は、ベッド脇の棚に視線を巡らせた。
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