6-1 そろそろ期末テストに入る、ある日の放課後。

  • 木枯らしが吹き始める11月。

  • そろそろ期末テストに入る、ある日の放課後。

  • 教室の片隅の机で、勝生は数学のテスト範囲の問題集と格闘していた。

  • 武藤 勝生

    あー…ムズイ。

  • 瀬名 眞白

    ……

  • 前の席から勝生に向き合うようにして、静かにその様子を見守る。

  • 解答欄でシャーペンの先を走らせるスピードが、教え始めたときよりもずいぶんとスムーズになってきた。

  • それなのに、

  • 武藤 勝生

    ほんとムズイ。

  • 武藤 勝生

    マジでムズイ。

  • 武藤 勝生

    僕はもともと文系なんだよー。

  • 勝生はぶつぶつ文句を言い続けながら、一問一問を丁寧に解いていく。

  • 瀬名 眞白

    さっきよりも、ちゃんとできてきたじゃん。

  • 武藤 勝生

    それは眞白の教え方がうまいからだよー。

  • 瀬名 眞白

    勝生の飲み込みが早いからだろ。教え甲斐がある。

  • 武藤 勝生

    でも、数学は嫌い、生まれたときから嫌ーい。

  • 瀬名 眞白

    それだけ文句言いながらも解けるって、そっちにも頭使うからなかなかできねーよ?

  • 武藤 勝生

    そんなことない、おバカだもーん。

  • 瀬名 眞白

    なに言ってんだよ。

  • 瀬名 眞白

    もともと、勉強ができる勝生が俺を見込んで、晴蘭に行こうぜって誘ってくれたんじゃん。

  • 武藤 勝生

    眞白はなにもしなくても地頭いいしー。

  • 武藤 勝生

    勉強サボってても、ちょっと本気出せば晴蘭に受かると思ってたしー。

  • 武藤 勝生

    今だって、ずっと学年でトップクラスだしー。

  • 武藤 勝生

    眞白がいなかったら、僕、晴蘭でやっていけてなかったよー。

  • 瀬名 眞白

    俺なんかいなくてもやっていけるよ、おまえなら。

  • 瀬名 眞白

    俺には、勝生という親友が必要だけどな。

  • 武藤 勝生

    ……

  • カツカツと筆記音を立てながら問題を解いていた勝生が、パタリと手を止めて顔を上げる。

  • 瀬名 眞白

    …ん?どうした?

  • 武藤 勝生

    今、きゅんとした。

  • 瀬名 眞白

    は?

  • 武藤 勝生

    相変わらず、眞白は人たらしだな。

  • 瀬名 眞白

    なんだそれ。

  • 武藤 勝生

    ううー…微積ってほんと嫌い。

  • 武藤 勝生

    誰だよ、こんなの考えたヤツ、マジで嫌ー。

  • 瀬名 眞白

    (ああ…ヤバイな、これは)

  • 話もあっちこっち飛び回るし、おまけにさっきからずっと、勝生が吐き出す言葉のほとんどの語尾が伸びている。

  • 昔からこういったときの勝生の中では深刻なバグが生じているから、よく食べるこいつには食べ物補充という調整が必要だ。

  • 瀬名 眞白

    なあ。帰り、なんか食ってく?

  • 武藤 勝生

    …確かに、嫌いな数学に頭使いすぎて腹減ったかも…。

  • 武藤 勝生

    今日はもうここまでにしようかなあ。

  • 慣れた手つきでペン回しをしながら、子犬みたいに甘えた目をして俺を見る。

  • 瀬名 眞白

    いいじゃん、それで。問題集も結構進んだし。

  • 武藤 勝生

    んんー…だよなっ?

  • 武藤 勝生

    じゃ、今日はこれにて終了ってことでっ。

  • 武藤 勝生

    飯行こー!

  • 瀬名 眞白

    あ。今日、俺奢るわ。

  • 瀬名 眞白

    勝生、めっちゃ頑張ったし…ご褒美な。

  • 武藤 勝生

    えっ?!そんな……、

  • 武藤 勝生

    マジで??

  • 瀬名 眞白

    マジで。
    いつものとこでいいか?あそこゆっくりできるし。

  • 武藤 勝生

    うん!いつものとこでいいっ!

  • 武藤 勝生

    …チョコパフェも食べていい?

  • 瀬名 眞白

    いいよ。

  • 瀬名 眞白

    この間バイト代入ったし、好きなモノ食べな。

  • 武藤 勝生

    ううっ…、嬉しい…

  • 武藤 勝生

    眞白ーーっ!愛してるっ!

  • 瀬名 眞白

    うおっ…、

  • 輝くような笑顔を広げた勝生が椅子から腰を上げた刹那、俺の首にガバッと抱きついて、

  • なんならほっぺたにキスでもしそうな勢いで絡みつくから、思わず頭をのけぞらせる。

  • 瀬名 眞白

    い、いいからっ、

  • 瀬名 眞白

    分かったって…っ。

  • 武藤 勝生

    うおお、眞白らぶー!

  • 瀬名 眞白

    早く問題集とか片付けろっ。

  • ---

    ガラッ…――

  • 苦笑交じりに勝生の腕を解こうとしたと同時に、教室の扉が遠慮なく開かれた。

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