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木枯らしが吹き始める11月。
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そろそろ期末テストに入る、ある日の放課後。
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教室の片隅の机で、勝生は数学のテスト範囲の問題集と格闘していた。
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武藤 勝生あー…ムズイ。
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瀬名 眞白
……

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前の席から勝生に向き合うようにして、静かにその様子を見守る。
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解答欄でシャーペンの先を走らせるスピードが、教え始めたときよりもずいぶんとスムーズになってきた。
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それなのに、
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武藤 勝生ほんとムズイ。
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武藤 勝生マジでムズイ。
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武藤 勝生僕はもともと文系なんだよー。
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勝生はぶつぶつ文句を言い続けながら、一問一問を丁寧に解いていく。
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瀬名 眞白
さっきよりも、ちゃんとできてきたじゃん。

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武藤 勝生それは眞白の教え方がうまいからだよー。
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瀬名 眞白
勝生の飲み込みが早いからだろ。教え甲斐がある。

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武藤 勝生でも、数学は嫌い、生まれたときから嫌ーい。
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瀬名 眞白
それだけ文句言いながらも解けるって、そっちにも頭使うからなかなかできねーよ?

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武藤 勝生そんなことない、おバカだもーん。
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瀬名 眞白
なに言ってんだよ。

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瀬名 眞白
もともと、勉強ができる勝生が俺を見込んで、晴蘭に行こうぜって誘ってくれたんじゃん。

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武藤 勝生眞白はなにもしなくても地頭いいしー。
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武藤 勝生勉強サボってても、ちょっと本気出せば晴蘭に受かると思ってたしー。
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武藤 勝生今だって、ずっと学年でトップクラスだしー。
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武藤 勝生眞白がいなかったら、僕、晴蘭でやっていけてなかったよー。
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瀬名 眞白
俺なんかいなくてもやっていけるよ、おまえなら。

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瀬名 眞白
俺には、勝生という親友が必要だけどな。

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武藤 勝生……
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カツカツと筆記音を立てながら問題を解いていた勝生が、パタリと手を止めて顔を上げる。
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瀬名 眞白
…ん?どうした?

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武藤 勝生今、きゅんとした。
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瀬名 眞白
は?

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武藤 勝生相変わらず、眞白は人たらしだな。
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瀬名 眞白
なんだそれ。

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武藤 勝生ううー…微積ってほんと嫌い。
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武藤 勝生誰だよ、こんなの考えたヤツ、マジで嫌ー。
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瀬名 眞白
(ああ…ヤバイな、これは)

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話もあっちこっち飛び回るし、おまけにさっきからずっと、勝生が吐き出す言葉のほとんどの語尾が伸びている。
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昔からこういったときの勝生の中では深刻なバグが生じているから、よく食べるこいつには食べ物補充という調整が必要だ。
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瀬名 眞白
なあ。帰り、なんか食ってく?

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武藤 勝生…確かに、嫌いな数学に頭使いすぎて腹減ったかも…。
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武藤 勝生今日はもうここまでにしようかなあ。
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慣れた手つきでペン回しをしながら、子犬みたいに甘えた目をして俺を見る。
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瀬名 眞白
いいじゃん、それで。問題集も結構進んだし。

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武藤 勝生んんー…だよなっ?
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武藤 勝生じゃ、今日はこれにて終了ってことでっ。
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武藤 勝生飯行こー!
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瀬名 眞白
あ。今日、俺奢るわ。

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瀬名 眞白
勝生、めっちゃ頑張ったし…ご褒美な。

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武藤 勝生えっ?!そんな……、
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武藤 勝生マジで??
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瀬名 眞白
マジで。
いつものとこでいいか?あそこゆっくりできるし。
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武藤 勝生うん!いつものとこでいいっ!
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武藤 勝生…チョコパフェも食べていい?
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瀬名 眞白
いいよ。

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瀬名 眞白
この間バイト代入ったし、好きなモノ食べな。

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武藤 勝生ううっ…、嬉しい…
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武藤 勝生眞白ーーっ!愛してるっ!
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瀬名 眞白
うおっ…、

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輝くような笑顔を広げた勝生が椅子から腰を上げた刹那、俺の首にガバッと抱きついて、
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なんならほっぺたにキスでもしそうな勢いで絡みつくから、思わず頭をのけぞらせる。
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瀬名 眞白
い、いいからっ、

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瀬名 眞白
分かったって…っ。

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武藤 勝生うおお、眞白らぶー!
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瀬名 眞白
早く問題集とか片付けろっ。

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ガラッ…――
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苦笑交じりに勝生の腕を解こうとしたと同時に、教室の扉が遠慮なく開かれた。
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