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瀬名 眞白
黒木、今回も三者面談、俺一人で。

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教室に入るなり、引き戸を閉めながら担任に向けて告げる。
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向かい合わせた奥の机の椅子に腰掛けて俺を待っていた…正確には、俺と俺の親を待っていた黒木は目を瞬いた。
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黒木 紗衣え、そうなの?
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黒木 紗衣親御さん、来てないの?
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瀬名 眞白
つーか、声掛けてねーから。

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黒木 紗衣えっ、ダメだよ、親御さんにもちゃんと伝えてくれなきゃー。
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瀬名 眞白
いろいろ事情があって無理なんだよ。

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黒木 紗衣おうちの人、みんな忙しいの?
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瀬名 眞白
そんな感じ。

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黒木 紗衣確か、瀬名くんはお兄さんいるよね?
お兄さんも忙しいの? -
瀬名 眞白
忙しい。多忙を極めてる。

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瀬名 眞白
(…と思うし、そういうことにしておく)

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もしも碧芭がここに来たとすれば、延々と弟自慢みたいなものを繰り広げそうで、最初から呼ばない選択をしていて。
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そうしないと、黒木なら碧芭の話を嬉々として受け入れそうだし、それこそ三者面談の定義から外れてしまうから。
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黒木 紗衣…夏も瀬名くん一人だったのに。
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黒木 紗衣声かけられないくらい、みんな忙しいなんて。
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少しばかり唇を尖らせるようにして、子どもじみたように黒木はぶつぶつと言った。
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晴蘭の三者面談は年に二回、夏と冬に行われる。
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『生徒』と『保護者』と『担任』の3人で行うから『三者面談』だが、俺は一度もその『三者面談』を成立させたことがない。
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母親や碧芭の存在は構わないが、結局『実家=父親』だから、できるだけ余分な関りを持ちたくないのが本音だ。
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瀬名 眞白
別にいいじゃん。

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瀬名 眞白
俺の進路だし、俺が決める。

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黒木 紗衣確かにそれはそうなんだけど。
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黒木 紗衣高2の三者面談は、進路の大筋を決める大切な話し合いでもあるんだけどな…。
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やっぱりまだ少し不服そうに、黒木は俺に関する書類を手にした。
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――師走。冷え込む日には雪がちらつく季節になった。
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成績表やら冬休みの計画表やらを俺の手前に揃える黒木から視線を外し、窓に視線を遣ると曇りがちな空。
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なんとなく物寂しいような雰囲気がある中でも、凍てついた空気はどこか澄み切っていて、冬はそんなに嫌いじゃない。
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黒木 紗衣えっと…、
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黒木 紗衣忘れないうちに、先にコレ…冬休みの計画表とか他諸々、渡しておくね。
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瀬名 眞白
…ん。

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A4サイズの茶封筒に入ったそれを先に受け取って机の端に置いてから、成績表を指し示す黒木に視線を戻した。
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黒木 紗衣瀬名くんは成績優秀だし、出席日数も問題ないから…
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黒木 紗衣あとはどういった分野の大学を目指すかだね。
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黒木 紗衣もちろん、進学でしょ?
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瀬名 眞白
…まあ。

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黒木 紗衣志望する大学とか、考えてる?
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瀬名 眞白
一応考えてて…、

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瀬名 眞白
あのさ、俺、

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瀬名 眞白
大学は医学部に行きたいんだけど。

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黒木 紗衣えっ?!「医学部」?!
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瀬名 眞白
…そんな驚く?

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黒木 紗衣え、あの、悪い意味じゃなくてっ、
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黒木 紗衣つまり…お医者さんになりたいの?
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瀬名 眞白
医学部って、医者になりたいヤツが行くんじゃねーの?

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想像以上に黒木が目を見開いて驚くから、苦笑交じりに口角を上げる。
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黒木 紗衣もちろんそうだよっ。
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黒木 紗衣そうなんだけど、瀬名くんが医学部、医学部ね…、
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言葉の最後はまるで呪文のように呟いて、まじまじと俺を見た。
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瀬名 眞白
なによ?

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瀬名 眞白
俺の顔になんかついてる?

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黒木 紗衣ううん!
なんていうか…すごいなって。 -
黒木 紗衣立派に成長してるんだなって思って。
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瀬名 眞白
なんだそれ。

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黒木 紗衣瀬名くんが、そこまで明確に将来のビジョンを描いてるとは思ってなかったっていうか。
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瀬名 眞白
なーんも考えてねーように見えた?

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つい、黒木の食いつき具合をいじりたくて、ククっとちょっぴりからかうように笑う。
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黒木 紗衣ううん、そういうわけじゃなくて。
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黒木 紗衣まさかお医者さんになるとか言い出すとは思わなかったから。
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瀬名 眞白
愛想良くねーから、俺。

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瀬名 眞白
そういった意味でも、イメージしにくいよな?

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自嘲気味な笑顔に切り替えると、黒木は強く首を振って見せた。
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