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俺と鷹野がこっそり両想いになってから、しばらく経ったある日。
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『瀬名が作ったシフォンケーキをまた食べたい』と、鷹野が言い出した。
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渡り廊下で不意に呼び止められて、もちろん学校内だから、鷹野はまるで小芝居を装う感じで、
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鷹野 光星《そういや、学園祭のときに瀬名が作ったシフォンケーキ、とても美味かったよ。》
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鷹野 光星《瀬名は、お菓子作りが得意なのか。》
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…と、絡んできた。
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俺がお菓子作りが得意なことをとっくに知っているのに、自然な会話に繋げようとしている努力が窺える。
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瀬名 眞白
《おう、まあな。…なに?また食いたい?》

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『食べさせてやりたい』…そう思ったから、結論をこっちから即答した。
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いつも、俺から鷹野に声を掛けることはほとんどなくて鷹野がタイミングを見計らって俺に近づいて来てくれる。
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それは、暗黙の了解…的な。
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普段からそんなに愛想が良いわけでもない俺が鷹野に声を掛けるよりは、ずっと自然な流れを生み出すから。
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その甲斐あってか、周囲には、
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『いつも副担の手助けをする気が利く<生徒の瀬名 眞白>』と、
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『そんなクラスの生徒に感謝を忘れない<副担任の鷹野 光星>』として映っているようだ。
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今回、鷹野のためだけにシフォンケーキを作って学校に持って行くことを考えていたが、
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武藤 勝生《それだと怪しまれるかもしれない。》
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…という勝生からのアドバイスを受けて、担任である黒木の分も用意した。
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確かに俺が、担任と副担任の二人に手作りのケーキを渡すことはあり得る話だ。
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それに、黒木は学園祭のときに余ったシフォンケーキを狙っていたのに、完売したせいで残念ながら味わうことができなかったみたいだからちょうどいい。
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二人分のシフォンケーキをそれぞれ別のケーキボックスに詰め、さらにそれらの箱を手提げの紙袋に入れて、
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いろんな意味で厳重体制で職員室に向かった。
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二人に手渡すと、鷹野は静かに微笑みながらもとても嬉しそうに、
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鷹野 光星家でゆっくり味わって食べるよ。ありがとう。
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と言い、
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黒木は、
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黒木 紗衣嬉しい!おこぼれに預かっちゃった!
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と大いに喜んで、その場でペロッと平らげた。
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その場で食べるのは別に構わない。
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だが、『おこぼれに預かっちゃった!』は、余計な一言だ。
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周りの職員が聞いたら、『なんでおこぼれ?瀬名は二人に作ってきたんじゃないの?』…と思うかもしれない。
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瀬名 眞白
黒木…、一言多い。

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黒木 紗衣え?
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瀬名 眞白
「おこぼれ」とか、そういうの。

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小声で諭すと、黒木は焦ったように口元に両手をやった。
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黒木 紗衣あわわ…ごめんっ!
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瀬名 眞白
(…ったく、仕方ねーな)

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黒木はとてもいい先生だとは思うが、テンションが上がるとヘマをする傾向があるから、いつもハラハラする。
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鷹野はそんな黒木のことを咎めることなく、その様子を眺めながら穏やかに微笑んでいたが、
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瀬名 眞白
(あのさ、俺のことは周りにどう思われようが、何を言われようがいいんだよ、)

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『一番に、鷹野の立場を考えての厳重体制なんだぞ?分かってるか?』…と、
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内心では子守をする親みたいな心境で、ニコニコしたままの鷹野をこっそり一瞥した。
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それから数日経った放課後、教室を出ようとした俺を鷹野は呼び止めた。
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鷹野 光星瀬名、ちょっといいか?
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瀬名 眞白
おう。

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表面ではなんでもない素振りでサクッと頷きながらも、鷹野に声を掛けられると心が舞い上がる。
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ほんの少しでもいい、1日24時間ある中で、二人で向き合う時間を過ごせたら嬉しくてたまらない。
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瀬名 眞白
(ヤバ、顔に出る)

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緩みそうになる頬を無理やり引き締めて、前を歩く鷹野の後に続いた
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