6-10 いろいろと事情があるんだよ。

  • 瀬名 碧芭

    …あ、そうそう。

  • 瀬名 碧芭

    縁談話を父さんから聞いたときにね、

  • 瀬名 碧芭

    『眞白には、すでに結婚まで決めた彼女がいるんだ!』って勢いで言っちゃったんだけどさ。

  • 瀬名 眞白

    …は?!マジで!?

  • 瀬名 眞白

    『縁談話をうまく潰してあげる』なんて言うわりには、めっちゃ単純すぎじゃん?!

  • 瀬名 碧芭

    だって、今回はいきなりだったんだもん。
    咄嗟に思い浮かんだのがそれだったんだよ。

  • 瀬名 眞白

    (その少しむくれた顔、開き直ってるな…)

  • 瀬名 碧芭

    『どんな子なんだ』とか、『どこの学校なんだ』とかいろいろ聞かれたけど、

  • 瀬名 碧芭

    『詳しくは知らないけど、確実に彼女はいるから!』って押し切ったんだよね。

  • 瀬名 眞白

    む、無謀すぎる…。

  • 瀬名 眞白

    さすがにいろいろと追求する父さんの姿が目に浮かぶわ…。

  • 瀬名 碧芭

    でも、僕もなかなか踏ん張ったんだよ?

  • 瀬名 眞白

    それには感謝するけど、

  • 瀬名 眞白

    そんな理由でよく父さんが素直に引き下がったな。

  • 瀬名 碧芭

    それが意外にも!

  • 瀬名 碧芭

    ああ見えて母さんとも恋愛結婚らしいし、そういうところ、意外と物分かりがいいのかもね?

  • 瀬名 眞白

    どうだか…。

  • 瀬名 眞白

    …つーかさ、俺、彼女いねーから。一応。

  • 『彼女』ではない、『彼氏』未満の人ならいるが。

  • 瀬名 眞白

    (『彼女』か…、)

  • 瀬名 眞白

    (悪いけど永遠にできねーな…)

  • 瀬名 眞白

    (『彼氏』なら、卒業する頃には正式に決まってんだけどなー)

  • 『鷹野 光星』という最高の恋人が。

  • 瀬名 碧芭

    ちなみに、好きな人はいるの?

  • 瀬名 眞白

    いる。

  • 瀬名 碧芭

    即答!いいね!

  • 瀬名 眞白

    一応、両想い…かな。

  • 瀬名 碧芭

    わあ、いいじゃない!

  • 瀬名 眞白

    まだ正式に付き合ってるわけじゃねーけど。

  • 瀬名 碧芭

    …え、両想いなら、どうして付き合わないのさ?

  • 瀬名 眞白

    それは、まあ……、

  • 瀬名 眞白

    いろいろと事情があるんだよ。

  • 瀬名 碧芭

    ふーん…?

  • 瀬名 碧芭

    あ、そうだ、今度会わせてよ。

  • 瀬名 碧芭

    眞白が好きになるくらいだから、きっと可愛くて優しくていい子だろうなあ。

  • 瀬名 碧芭

    どんな感じの子?

  • 瀬名 眞白

    ……、

  • 困った、どう言えばいい?

  • そもそも、鷹野は『子ども』ではなく『大人』だし、

  • 性別だって『女』ではなく『男』だ。

  • 嘘をついて適当なことを言うのも嫌だし、

  • かといって、いくら身内の碧芭でも、鷹野に確認を取る前に素直に打ち明けていいものかどうか…。

  • 瀬名 眞白

    (……そうだ、)

  • 嘘にはならない控えめな伝え方をすればいい。

  • 瀬名 碧芭

    眞白?

  • 瀬名 眞白

    えっと、

  • 瀬名 眞白

    優しくて穏やかで、頭もよくて…、いつも優しく見守ってくれてて、

  • 瀬名 眞白

    なんかちょっと、天然なところもなきにしもあらずで、そこがちょっと可愛い部分っつーか…、

  • 瀬名 碧芭

    へえ!

  • 瀬名 眞白

    まあでも、とにかく、すごくかっこいい。

  • 瀬名 碧芭

    ……「かっこいい」?

  • 瀬名 碧芭

    ボーイッシュな女の子ってこと?

  • 瀬名 眞白

    …っ!

  • 瀬名 眞白

    えっと、まあ、……

  • マズイ、素直に言いすぎた。

  • 瀬名 碧芭

    ……

  • 瀬名 眞白

    (うー…さりげなく話題変えるかっ、)

  • 瀬名 眞白

    (なんか他のネタ…、)

  • 瀬名 眞白

    そ、そういえばさ、

  • 瀬名 眞白

    この間、俺バイトで――

  • ---

    ――RRRRRR!

  • 瀬名 碧芭

    …あ、ごめん、電話だ。ちょっと出るね。

  • 瀬名 眞白

    お、おう!

  • 椅子から腰を上げてスマホ片手に席を外した碧芭に、ホッと胸を撫で下ろす。

  • つい鷹野のことになると熱が入って語ってしまいそうになるから、自制の特訓が必要だ。

  • 瀬名 眞白

    (はぁ…焦った)

  • 緩く息を吐き出して、大きなシャンデリアが煌めく天井を眺めた。

  • 瀬名 碧芭

    ――ごめん、ちょっと事務所に書類を取りに戻らなきゃ。

  • 瀬名 眞白

    え、今から?

  • 瀬名 碧芭

    朝一でクライアントに持って行かなきゃならなくなっちゃって。

  • 瀬名 碧芭

    自宅から直接クライアントの会社に向かう方が近いから、先に取りに行っておこうと思って。

  • 瀬名 碧芭

    久しぶりに、事務所に一緒に行く?
    今の時間なら父さんもいないし。

  • 瀬名 眞白

    いい。明日学校だし、帰るわ。

  • 瀬名 碧芭

    じゃ、叔母さんの家まで送るね。

  • 瀬名 碧芭

    あ、叔母さんたちにNYのお土産渡しといて?車に積んであるから。

  • 瀬名 碧芭

    眞白がいつもお世話になってるし、ほんとはちゃんと会って挨拶したいんだけど、

  • 瀬名 碧芭

    もう夜も遅いから、また日を改めるって言っといて?

  • 言いながら、現れたウエイターに会釈しつつ席で会計を済ませた碧芭は、

  • クレジットカードを財布にしまいながらチラリとこちらを一瞥した。

  • 瀬名 碧芭

    …それと、眞白。

  • 瀬名 眞白

    ん?

  • 瀬名 碧芭

    今度は、眞白に『彼女がいる』じゃなくて、

  • 瀬名 碧芭

    『恋人がいる』って伝えるようにするね。

  • 瀬名 眞白

    …えっ?

  • 瀬名 碧芭

    今は事情があって『未満』でも、近い将来には正式に『恋人』になるんでしょ?
    …その好きな人と。

  • 瀬名 眞白

    ま、まあ…そうだな。

  • 瀬名 眞白

    でも、なんで…?

  • 瀬名 碧芭

    『彼女』って伝えると、嘘になっちゃうじゃない。

  • 瀬名 碧芭

    でも、『恋人』って伝えるのは、嘘にはならない。

  • 瀬名 眞白

    ――…

  • 瀬名 碧芭

    眞白が好きな人を見つけることができて、嬉しいな。

  • 瀬名 眞白

    ……碧芭、

  • 瀬名 碧芭

    なあに?

  • 瀬名 眞白

    その…、もしかして…、

  • 瀬名 碧芭

    お兄ちゃんの目は誤魔化せませんよ?

  • 瀬名 碧芭

    なんせ、弟愛がとっても強いですからね、
    眞白のことはすぐに見抜いちゃう。

  • 瀬名 眞白

    ―――

  • マジか…。さすがブラコンの兄貴。

  • 瀬名 碧芭

    性別関係なく、心から好きだと思える人と出会えるなんて、とても素敵だよ。

  • 瀬名 眞白

    …う、うん…。

  • 瀬名 碧芭

    ああもう…照れてる眞白、すっごく可愛いっ。

  • 瀬名 碧芭

    写真撮っちゃおうかなー。

  • 瀬名 眞白

    ばっ、バカ、やめろっ。

  • 瀬名 碧芭

    あはっ、冗談だよー。

  • 瀬名 碧芭

    …ね、今度こっそり会わせてね?

  • 瀬名 碧芭

    今はまだ、『恋人』未満の…『かっこいいその人』に。

  • ゆったりと小首を傾げて意味深に笑みを深めた碧芭は、たった今、俺の気持ちを知る3人目の理解者になった。

  • そして…、

  • 碧芭の『会わせてね』というその要望が予想外に早く叶うことになるなんて、

  • このときはまだ、思いもしなかった。

  • 【霜月の再会 編】END

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