1-7 俺にとっては死活問題。

  • 鷹野に聞きたいけど、怖くて聞けなかったこと。

  • みんなが噂してるように、本当に鷹野と黒木は付き合っているのか。

  • 瀬名 眞白

    …あのさ、鷹野。

  • 鷹野 光星

    ん?なんだ?

  • 瀬名 眞白

    その…さ、

  • 今なら、勇気を出して聞けそうな気がする…、

  • 教師同士の恋愛なんてそうあるわけじゃないだろうし、きっと大丈夫。

  • とにかく。

  • 思い切って、聞け、俺!

  • 瀬名 眞白

    ちょっと、聞きたいことがあるんだけど。

  • 鷹野 光星

    うん?

  • 瀬名 眞白

    鷹野と黒木って仲いいけど…、

  • 瀬名 眞白

    やっぱり、付き合ってたりするのか?

  • 鷹野 光星

    …どうした、藪から棒にそんな質問。

  • 瀬名 眞白

    いや、その…

  • 瀬名 眞白

    鷹野、模擬店のチケットを黒木の分まで買ってたし、

  • 瀬名 眞白

    今までも結構いろいろと、鷹野が黒木の分も…っていうのが多かったからさ。

  • 鷹野 光星

    …みんなが陰で噂してるから、おまえも気になるか?

  • 瀬名 眞白

    ま、まあ、そんなところかな。

  • というのは、もちろん嘘で。

  • 周りのヤツらはただ噂して面白がってるだけだろうけど、俺にとっては死活問題。

  • 噂の真相を知るにも思い入れが違う。

  • 鷹野 光星

    実は…、
    黒木先生は、大学のときのサークルの先輩で、

  • 鷹野 光星

    偶然同じ職場で働くことになっただけだよ。

  • 瀬名 眞白

    ……え、マジで?

  • 鷹野 光星

    ああ。

  • 瀬名 眞白

    じゃあ、二人が担任と副担になったのも、偶然?

  • 鷹野 光星

    もちろん。

  • 鷹野 光星

    俺たち教師にそれを決める権利はないよ。

  • 瀬名 眞白

    つまりは、ただの職場の同僚ってことか?

  • 鷹野 光星

    もちろん、そうだけど?

  • 瀬名 眞白

    …その言葉に嘘はないよな?

  • 鷹野 光星

    ないよ。偽ってどうする。

  • 瀬名 眞白

    …そっか。

  • フッと小さな笑みを浮かべた鷹野の前で、しれっと何でもないようなフリをしつつ、

  • 内心では勝利した気分で勢いよくガッツポーズ。

  • 鷹野 光星

    真相を解明した気分は?

  • 瀬名 眞白

    別に…、

  • 瀬名 眞白

    普段から、鷹野が黒木のことをよく気にかけてるから恋人かと思ってたけど、

  • 瀬名 眞白

    違ったのか…っていう程度。

  • これまた内側の歓喜とは正反対な態度で。

  • そして、『恋人ではない』という確認を、さりげなく言葉に念押しで添える俺。

  • 鷹野 光星

    ……

  • 瀬名 眞白

    …ん?

  • 瀬名 眞白

    鷹野?

  • 鷹野 光星

    …「よく気にかけてる」か。

  • 鷹野 光星

    だから、みんなにもおまえに、俺と黒木先生が付き合ってるって誤解されるんだな。

  • 瀬名 眞白

    まあ…そうではあるよな。

  • 鷹野 光星

    ……

  • 瀬名 眞白

    (……あれ?)

  • 瀬名 眞白

    (なんか、鷹野の様子がちょっと変…?)

  • 表情に翳りが見えるというか。

  • なんとなく、良くない感じで胸がざわざわするから、「どうかしたのか?」と問い掛けようとしたとき、

  • 鷹野が短い深呼吸をして俺に視軸を合わせた。

  • 鷹野 光星

    瀬名、

  • 瀬名 眞白

    お、おう…、なんだよ?

  • 鷹野 光星

    ……

  • 俺をまっすぐに見つめながらわずかに唇を噛んだ鷹野は、言葉の続きを発するかどうか迷っているように見えた。

  • 瀬名 眞白

    …鷹野?

  • 鷹野 光星

    ……俺が黒木先生のことを気に掛けているのは…、それには理由がある。

  • 瀬名 眞白

    「理由」?

  • 瀬名 眞白

    なんだよ、「理由」って。

  • 鷹野 光星

    …黒木先生、いつも両手にアームカバーを着けてるだろう?

  • 瀬名 眞白

    …ああ、そういえばそうだな?

  • 普段の黒木の姿を頭の中で広げて両手の画にフォーカスする。

  • 確かにいつも両手を…というか、両腕の肘関節あたりまでをアースカラーのアームカバーで覆っていた。

  • 瀬名 眞白

    それがどうかしたのかよ?

  • 瀬名 眞白

    アームカバーくらい、今どき誰でも着けてるだろ?

  • 黒木は明るくて笑顔の絶えない、生徒からの人気も高い英語教師だ。

  • なかなかの美人で美意識も高そうだから、日焼け対策でアームカバーを着けているのだと思っていたけど。

  • 瀬名 眞白

    (よく考えたら…、紫外線の強い時期だけじゃなくて、年中着けてるよな?)

  • 鷹野 光星

    表向き、黒木先生は日焼け防止でアームカバーを着用してるってことになってるけど…、

  • 鷹野 光星

    あれは……

  • 鷹野 光星

    火傷の痕を隠してるからなんだ。

  • 瀬名 眞白

    え、火傷の痕…?!

  • 鷹野 光星

    …そう、火傷の痕。

  • 鷹野 光星

    俺がその火傷を負わせたんだ。

  • 瀬名 眞白

    えっ…!?

  • 鷹野 光星

    …俺のせい、なんだ。

  • 【その火傷の痕は、自分にとっての十字架なのだ】

  • まるで、足枷のような悲痛な思いが、伏し目がちに告げた鷹野の辛そうな表情から伝わった気がした。

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