1-6 詳しいんだな、黒木のこと。

  • 鷹野は、中学時代の俺が荒れていたことを詳しくは知らないはずだ。

  • なぜなら、この学校が県内で3本指に入る進学校だし、

  • そのうえ入試の成績もトップだった俺は新入生代表の挨拶をしたからだ。

  • 壇上で粛々と答辞を述べる俺の姿しか見ていない鷹野にしてみれば、きっと想像もつかないだろう。

  • 中学の頃の俺は、学校に行くのも気分次第で適当だったし、周囲にも反抗的で全部がどうでもよかった。

  • 小学校の頃からの親友である勝生とも中学に入ってから3年の夏休みに入るまでは、会話をする回数もぐっと減った。

  • 警察に捕まるようなことまではしなかったけど、

  • 俺と同じように尖った仲間とつるんでは他校生の連中と喧嘩して、いつも何かを発散するように荒れて騒いでいた。

  • そんな日常を送っていても昔から勉強はできたから、学校をサボった分の授業の遅れもすぐに取り戻せた。

  • ヤンチャだけど勉強やスポーツができる特異なヤツ…俺はそんな印象を周囲に与えていて、

  • 俺よりもはるかに真面目に学校に通ってるクラスメイトに、勉強を教えることも度々あった。

  • 瀬名 眞白

    ……

  • 『俺の出来がいい』というよりも『親の出来がいい』から、それが俺に遺伝しただけ。

  • 『鳶が鷹を産んだ』わけではなく、言ってみれば、『蛙の子は蛙』なだけ。

  • 父親からは特有の持論を聞かされることはあっても、褒めてもらった記憶がない。

  • だって、『できて当たり前』だから。

  • 瀬名 眞白

    (…高校に入って鷹野に出会えてなかったら、)

  • 瀬名 眞白

    (俺、どうなってたかな…)

  • 家を出て、今までにはなかった『自由』を手にしても、それでもまだしんどかったかもしれない。

  • 瀬名 眞白

    (ほんとマジで…、)

  • ぼやけた短い走馬灯のようなものが頭を掠めたけど、

  • 鷹野 光星

    あ、そうだ、瀬名、

  • 鷹野の耳心地のいい声音が、遠慮なく割って入ってきた。

  • 鷹野 光星

    さっき、黒木先生に模擬店のケーキの種類は何がいいのか聞いたんだけど、

  • 鷹野 光星

    先生は「チーズケーキがいい」って言ってたよ。

  • 瀬名 眞白

    ……

  • 鷹野 光星

    …瀬名?

  • 瀬名 眞白

    …あ、悪い。
    ちょっとぼーっとしてた。

  • 鷹野 光星

    どうかしたか?

  • 瀬名 眞白

    …いや、平気。

  • 瀬名 眞白

    それより、黒木のケーキだよな?

  • 瀬名 眞白

    えっと…チーズケーキだっけ?

  • 鷹野 光星

    ああ。
    悪いが、頼んだ。

  • 瀬名 眞白

    …はいよ。

  • 瀬名 眞白

    (仕方ねーから、黒木の分も先に取っといてやるか)

  • 鷹野 光星

    黒木先生はあまり甘いものが好きじゃないから、

  • 鷹野 光星

    どれにするか聞く前から、甘みの少ないチーズケーキを選ぶと思ってたんだよな。

  • 瀬名 眞白

    ……、

  • 瀬名 眞白

    詳しいんだな、黒木のこと。

  • 鷹野 光星

    毎日のように関わってるから、他の人よりは詳しいのかもしれないな。

  • 瀬名 眞白

    …、

  • どこか自慢げに微笑む鷹野を見ていたら、前からずっとモヤモヤしていたことが急速に膨れ上がった。

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