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瀬名 眞白
…よし、傷口も洗ったし、そろそろ行くか。

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瀬名 眞白
救護テントで円香も待ってるだろうし。

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沈黙から抜け出そうと、おもむろに話題を変える。
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傷口のガーゼを自分で押さえながら手洗い場を離れて、再び鷹野に視線を向けた。
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瀬名 眞白
行こうぜ?

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鷹野 光星……
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瀬名 眞白
鷹野?

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鷹野 光星瀬名は、いつも誰かのために身を尽くすから。
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瀬名 眞白
…え?

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鷹野 光星自分のことを顧みないで、いつも誰かのために動くから。
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鷹野 光星そういうの、ちょっとどうかと思う。
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瀬名 眞白
…どうしたんだよ、おっかない顔して。

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鷹野 光星今もこの怪我だ。篠原を庇って…、
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鷹野 光星おまえは、「見た目よりもたいしたことない」なんて言うけど、
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鷹野 光星傷の具合からして、縫合する一歩手前の怪我だぞ?
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鷹野 光星篠原のためだからって、こんな怪我…、
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瀬名 眞白
…、

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鷹野 光星もちろん、瀬名が篠原を庇ってくれたおかげであの子は怪我をせずに済んだし、
それ自体が悪いことじゃないのは分かってる…、 -
鷹野 光星分かってる、けど…、
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瀬名 眞白
鷹野…?

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今までに見たことがないくらい困惑した様子の鷹野が目の前にいた。
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表面ではなんとか平静を取り繕うとしているけど、その矢継ぎ早な口調から取り乱す感じが伝わってくる。
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鷹野 光星おまえが山那を助けたときもそうだった。
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鷹野 光星……俺はやっぱり…、瀬名、
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鷹野 光星おまえのことが、心配でたまらないよ。
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瀬名 眞白
えっ、

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鷹野 光星「晴蘭のどの生徒も大切だ」なんて……嘘だ。
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瀬名 眞白
…!

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それは以前、俺に誘導された形で鷹野が言っていた言葉。
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静かに、それでいて強くその言葉を否定する鷹野の姿に息を飲んだ。
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瀬名 眞白
(…え、もしかして…、)

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勝生が夏に話していた『眞白想い』というキーワードが脳裏を掠めて、鼓動が次第に激しく脈打つ。
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瀬名 眞白
(やっぱ、それって…)

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―――もしかして、
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俺のこと…『好き』とか…?
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瀬名 眞白
…、

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普通はそう閃いた瞬間、飛び上がるほど嬉しいはずだ。
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けれど、手放しで舞い上がるはずの気持ちは停滞して、いつになく冷静に向き合おうとする自分がいた。
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なぜなら、目の前の鷹野が、なんだかとても辛そうに見えたから。
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鷹野 光星……どうか、できるだけ無茶はしないでくれ。
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瀬名 眞白
……

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鷹野 光星分かってくれたか?
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瀬名 眞白
……無茶、しねーようにはするけど…、

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瀬名 眞白
鷹野、

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瀬名 眞白
ごめん、ちょっと聞いてもいいか?

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鷹野 光星…ああ。
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瀬名 眞白
それは…どういう意味で言ってる?

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鷹野 光星…、
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瀬名 眞白
『副担』としての発言?

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瀬名 眞白
それとも…。

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鷹野 光星……、
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鷹野 光星……『副担任』としての発言だと、捉えてもらっていい。
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瀬名 眞白
――…

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言い含めたような答え方に、胸がギュッと締め付けられる。
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『副担任』だから、『晴蘭のどの生徒』よりも『担当クラスの生徒である俺』のことを気に掛けているのだ…そう取れる言葉だから。
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あからさまに突っぱねられたように感じて凹みそうになった……けど。
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鷹野 光星だけど…、
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鷹野 光星大切なんだよ、とても…。
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低く消え入りそうな声で、まるで独り言のように滑り出た呟きはやっぱり切なさを帯びていて、
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はねつけられたと思うには悲観的過ぎる…そう思い直した。
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瀬名 眞白
(きっと、鷹野は俺のことを…)

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もっと深く問うことができれば前向きな答えを聞けるのかもしれないが、
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吐き出す言葉を慎重に選びながら、どこか耐え忍ぶように立ち尽くした鷹野の姿に、片想いをしている俺自身が重なったから。
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今、言いたくても言えないことが、心の中で行き場を失くしてぐるぐる廻る――鷹野を想う俺は、それを何度も経験してるから。
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瀬名 眞白
(…同じだ、俺と)

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互いに相手を深く想うからこその躊躇。
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聞き出したくても、それができないもどかしさに唇を噛む。
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男であり、さらには教師である鷹野が抱えている想いは、きっともう俺の手が届く位置にあるのに。
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瀬名 眞白
…、

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瀬名 眞白
(こうなったら…、)

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いわゆる、発想の転換。
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問うことはできなくても、こっちから発信することはできる。
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瀬名 眞白
(……よし)

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俺は意を決したように、鷹野に向き直った。
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