4-13 見た目よりもたいしたことねーって。

  • 篠原 円香

    怪我、本当に大丈夫ですね?

  • 瀬名 眞白

    この程度の怪我は何度も経験してるから平気だよ。

  • 瀬名 眞白

    今は、ゴールすることだけを考えようぜ?

  • 気持ちを切り替えて、数十メートル先のゴールを目指し、もう一度タスキでお互いの片足同士を縛る。

  • 瀬名 眞白

    よし!仕切り直しだ!

  • 篠原 円香

    はいっ!

  • 肩を組んで一歩踏み出したとき、学校中の大きな声援が俺たちを包み込んだ。

  • その激励に後押しされるように、一歩一歩、ゆっくりと足を進める。

  • 瀬名 眞白

    円香、あと少しだ!

  • 篠原 円香

    はいっ、あと少しですっ!

  • 瀬名 眞白

    よしっ…、

  • 前方に視線を飛ばすと、体育祭の実行委員を務める生徒二人がゴール付近に現れたのが見える。

  • 他の走者たちは既に完走を終えてとっくに切られたゴールテープを、新たに水平に引っ張り直してくれたのだ。

  • 瀬名 眞白

    せーの!

  • 篠原 円香

    っ、ゴール!!

  • 白いゴールテープを二人で一緒に切る。

  • 吹き付けた秋風に舞ったそれは、俺たちの到達点を祝うかのように緩くたなびいた。

  • 瀬名 眞白

    やったな!円香!

  • 篠原 円香

    はいっ!やり遂げました!

  • 篠原 円香

    瀬名くんのおかげです!

  • 拍手喝采を浴びながらグラウンドから出た円香と、笑顔でハイタッチをする。

  • 瀬名 眞白

    おまえが頑張った結果だよ。

  • 篠原 円香

    瀬名くんと組むことができて本当に良かった!くじ引きに感謝です!

  • 篠原 円香

    本当にありがとうございました!

  • 瀬名 眞白

    俺こそ、楽しかったぜ?

  • 子どものように喜ぶ円香の頭をワシャワシャと撫でた後、浮き立つような気持ちで『その姿』を求めて周囲を見渡した。

  • 瀬名 眞白

    (鷹野は…?)

  • 障害物競走のときと同じようにゴールの近くにいないか見回してみたが、その姿はない。

  • 瀬名 眞白

    (いねーな…)

  • 瀬名 眞白

    (鷹野、ちゃんと応援してくれてたかな…)

  • 鷹野 光星

    ちゃんと見ていたよ、瀬名。

  • 瀬名 眞白

    うわっ…と?!

  • いきなり背後から呼ばれたうえに、怪我をしていない右の二の腕を軽く引っ張られてドキリとする。

  • 驚いて振り向くと、眉尻を下げて小さく微笑む鷹野がいた。

  • 瀬名 眞白

    鷹野っ、やっぱいたのか!

  • 鷹野 光星

    いないわけないだろ。

  • 瀬名 眞白

    応援…してくれてた?

  • 鷹野 光星

    もちろん。

  • 鷹野 光星

    よく頑張ったな。

  • 瀬名 眞白

    おう!

  • 鷹野 光星

    …けど。

  • 鷹野 光星

    篠原のために頑張ったのは偉いが、

  • 鷹野 光星

    早速その怪我の手当をしないとな。

  • 瀬名 眞白

    あ、これ?こんなの平気。

  • 鷹野 光星

    ダメだ。ちゃんと手当てをしないと。

  • 鷹野 光星

    結構血が出てるじゃないか。

  • 瀬名 眞白

    見た目よりもたいしたことねーって。

  • 鷹野 光星

    前にも、嫌だって言ったはずだが。

  • 瀬名 眞白

    ん?なにを?

  • 鷹野 光星

    俺は…、
    おまえが怪我をするのは嫌なんだよ。

  • 瀬名 眞白

    …えっ?!

  • 俺にしか聞こえないような小さな低音で呟いた鷹野に、鼓動がぴょこんと跳ね上がる。

  • 鷹野 光星

    篠原を庇うためだったのは分かるけど…、

  • 鷹野 光星

    心臓に悪い。

  • 幼い子どもを窘めるように眉間に縦皺を作りつつも、その瞳の奥は切なさで揺れている気がした。

  • 瀬名 眞白

    (鷹野、なんで…)

  • 瀬名 眞白

    (なんでそんな風に思うんだよ…?)

  • きゅんと胸が締め付けられて、疑問符が浮いては消えることを繰り返していたが、

  • 鷹野 光星

    さ、救護テントに行こう。

  • 瀬名 眞白

    わ…分かったよ。

  • サラッと切り替わった鷹野に倣って、少しばかり戸惑いながらも素直に頷いた。

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