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障害物競走で最後のハードル3台を飛び越えてゴールテープを切ったとき、そのゴール付近には鷹野が居て。
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競技を無事に終えて肩で大きく息を吐き出した俺に、とびきりの笑顔とサムズアップを向けてくれていた。
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『…それ以上に応援するよ』
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この間、鷹野が言っていた言葉を今になって思い出す。
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その言葉通りに、鷹野はしっかりと応援してくれていた。
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瀬名 眞白
……

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一人でやり切る競技とは違って、円香の想いを背負ったレース。
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大袈裟じゃなく、漲る緊張が徐々に押し寄せてきた。
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瀬名 眞白
(鷹野…、応援頼む)

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きっと今も、このグラウンドのどこかで観てくれているはずだ。
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瀬名 眞白
…、

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一つ、深呼吸をして。
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瀬名 眞白
…円香、行くぞ?

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篠原 円香はい…!
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お互いの片足を強く縛り、しっかりと肩を組んでスタートラインに着いた。
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――パンッ!!
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スターターピストルの軽快な破裂音を耳にして、俺たちは勢いよく地を蹴る。
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駆け出しは順調で、6組中2位の位置についていた。
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瀬名 眞白
いい感じだ、円香!

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篠原 円香は、はいっ…!
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瀬名 眞白
いち、にっ、

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篠原 円香いち、にっ、
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練習でやってきた通り、リズミカルな掛け声とともに着実にゴールを目指す。
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降り続いた雨が嘘のように、湿度を感じさせない秋晴れ。
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瀬名 眞白
(このままいけば、順調にゴール…!)

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…だが。
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雨の洗礼を受けたグラウンドは、思っていたよりも曲者で。
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それは、俺たちがコーナーに差し掛かったとき…だった。
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篠原 円香いち、に…――っ、わ…ッ!?
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練り上げられた粘土のように土の一部に凹凸ができていて、そこの窪みに足を取られた円香が大きく前によろける。
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瀬名 眞白
――!!

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障害物競走のときには跳び箱や平均台が置かれていたからか、そういった土の異変に全く気付かなかった。
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そのことを悔やむ間もなく瞬間的に脳裏によぎったのは、『円香の手を死守する』こと。
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瀬名 眞白
(マズイ…っ!)

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このまま惰性で前にこけてしまったら、必然的に円香が地面に手を突くことになる。
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瀬名 眞白
まどかっ…!!

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篠原 円香ぅあっ、…っ!!
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瀬名 眞白
っ!!

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瀬名 眞白
(怪我…させるか…ッ!!)

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前のめりになる円香を強く胸に引き寄せる。
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そのせいでバランスを保てなくなった俺は円香を抱きかかえたままの姿勢で、地面に背中を打ち付けるようにして仰向けに倒れた。
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瀬名 眞白
っ、ツ――!

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きゃーーーっ!!
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わあっ!?
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外野に、悲鳴交じりの喧騒が沸き起こる。
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篠原 円香瀬名くんっ!!ごめんなさいっ!!
大丈夫ですか?! -
俺の体をクッションにした円香が、すぐに起き上がろうと上でうごめきながら甲高い声を張り上げた。
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篠原 円香ごめんなさい…!!本当にごめんなさいっ!!
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瀬名 眞白
っ、謝んな、

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篠原 円香結局、迷惑をかけてしまいましたっ…、ごめんなさいっ!!
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瀬名 眞白
…ばーか、迷惑とかじゃねーから。

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篠原 円香でもっ――…
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瀬名 眞白
いいから気にすんな。

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仰向けに寝転がったままで両腕を大の字に伸ばして、円香の体を解放する。
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瀬名 眞白
それより円香…、手は?

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篠原 円香…えっ?
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瀬名 眞白
おまえの手、俺が死守するっつっただろ?
…どっちの手も大丈夫か?
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篠原 円香――!
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起き上がった円香は俺の問いかけにハッとして両掌を広げると、握っては開くの動作を繰り返した。
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篠原 円香は、はいっ!手は大丈夫です!
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篠原 円香瀬名くんのおかげで、全然なんともないですっ!
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瀬名 眞白
そっか、良かった…。

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篠原 円香あのっ、瀬名くんは?!僕のせいで…大丈夫ですか?!
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足首を縛っていたタスキを素早く解いた円香がこちらに向き直ってすぐ、明らかに血の気が引いた顔つきになる。
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篠原 円香――…せ、瀬名くん…っ、
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瀬名 眞白
(…ん?)

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篠原 円香肘…っ、
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篠原 円香瀬名くんの左側の肘から、たくさん血が…!
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瀬名 眞白
あー…なんだ、ただのかすり傷だろ。

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瀬名 眞白
たいしたことねーよ。

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篠原 円香僕のことを庇ったせいで…、
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篠原 円香今すぐ救護テントに行きましょう!
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瀬名 眞白
やなこった。

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篠原 円香な…なに言ってるんですかっ!
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瀬名 眞白
落ち着け。

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瀬名 眞白
これくらいの怪我、ほっといても治る。

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篠原 円香そ、そんな…、
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瀬名 眞白
それよりも。

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小柄な円香を太腿の辺りに乗せたまま、むくりと上体を起こす。
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円香の頭にポンと手を置いて、狼狽えるその顔をまっすぐに見つめた。
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瀬名 眞白
一緒のゴール、諦めんなよ?

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篠原 円香…!
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瀬名 眞白
おまえも、そのために練習してきたんだろ?

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篠原 円香で、でも…、もう順位もビリですし…。
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瀬名 眞白
やっぱ順位のこと気にしてたのか。

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篠原 円香…、
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瀬名 眞白
順位なんかどうでもいい、最初の目標を忘れんな。

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瀬名 眞白
『最後まで一緒に走り切ってゴールする』…だっただろ?

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篠原 円香…それは、そうですが…、
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瀬名 眞白
円香にとっては、晴蘭で過ごす最後の体育祭なんだろ?

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篠原 円香…、はい…、
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瀬名 眞白
俺はおまえとゴールしたいんだよ。

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篠原 円香…――
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瀬名 眞白
後悔しねーように、一緒にゴールしようぜ?

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瀬名 眞白
な、円香。

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小首を傾げて笑顔を差し向けると、円香は眉根を寄せた険しい顔で逡巡してから、
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篠原 円香…分かりました。
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篠原 円香ゴール、目指します!
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意を決したように、コクリと頷いた。
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