-
・
-
・
-
・
-
予報よりも早い段階で雨が止んで、朝方から整備を行ったグラウンドで予定通り体育祭は行われていた。
-
雲間から覗く太陽は、汗ばむ陽気を遠慮なく運んでくる。
-
武藤 勝生さっすが、僕の眞白!
-
障害物競走で1位を獲得してチームのテントに戻った俺に、勝生は勇んでスポーツドリンクを投げて寄越した。
-
瀬名 眞白
誰がおまえの眞白だ。

-
キャッチしたそれを額に当てて冷やしながら苦笑いする。
-
武藤 勝生早くそれ飲みな、暑いんだろ?
-
武藤 勝生また熱中症になるぞ?
-
瀬名 眞白
…はいよ。

-
「また熱中症に」という言葉に夏休みの出来事を思い出して、ほんの少ししかめっ面を晒しながら、スポーツドリンクで喉を潤した。
-
学年も名前も知らない女子たちが、さっきまでの黄色い声援を俺の名前に置き換えて口々に呼び掛けては、俺に向けて手を振ってくる。
-
瀬名 眞白
(…反応に困る)

-
それでも無視するのはさすがに気が引けて、軽く会釈だけを返した。
-
*きゃーっ!瀬名くーん!
-
-かっこよかったですー!瀬名先輩っ!
-
瀬名 眞白
……、

-
瀬名 眞白
(悪いけど、静かにしてくれ…)

-
体育祭なんだし、賑やかに騒ぐのは悪いことじゃない。
-
ただ、俺を対象にしないでほしい……特に、今回は。
-
武藤 勝生モテる男はつらいねー。
-
瀬名 眞白
集中できねー。

-
武藤 勝生え?
-
瀬名 眞白
……

-
俺にとって残す競技は、円香との二人三脚。
-
プログラムの次の種目が終わったら、いよいよ本番だ。
-
二人三脚は、今回の体育祭で俺が一番気合を入れて集中したい種目とだ言っても過言じゃない。
-
絶対に、無事なゴールを成功させたい。
-
もちろん円香もきっと同じ気持ちでいるはず。
-
瀬名 眞白
(ああーうるせー)

-
瀬名 眞白
(頼むから、黙っててくれ…)

-
せっかくの称賛を心の中でワガママに切り捨てる俺は、とんでもなくちっぽけな人間だ。
-
だけど。
-
篠原 円香……
-
瀬名 眞白
…、

-
少し離れた場所で、パレットスツールに小さく腰掛けた円香を見遣る。
-
喧騒の中、縮こまったみたいな横顔が視界を埋めた。
-
瀬名 眞白
(あー…やっぱ緊張してんなー)

-
あんな表情を見たら、俺への称賛交じりの喧騒なんて、ますます邪魔でしかない。
-
瀬名 眞白
円香!調子はどうだ?

-
篠原 円香…あ、瀬名くん!
-
篠原 円香調子は上々です!
-
瀬名 眞白
そっか、良かった!

-
篠原 円香さっきの障害物競走、すごかったです!ぶっちぎりの1位!
-
瀬名 眞白
…見てたのか。

-
篠原 円香もちろん!応援してました!
-
瀬名 眞白
…ありがと。

-
篠原 円香瀬名くん、やっぱりさすがです!
-
瀬名 眞白
たまたまだよ、あんなの。

-
満面の笑顔をこちらに向けながらも、ほんのわずかな翳りがちらつく円香に近づく。
-
スツールに座っている円香の視線に合わせて、ゆっくりしゃがみ込んだ。
-
瀬名 眞白
なあ。

-
篠原 円香…、はい。
-
瀬名 眞白
『1位を取った瀬名くんに、迷惑かけないようにしないと』。

-
篠原 円香えっ…
-
瀬名 眞白
まさか、そんな余計なこと思ってねーよな?

-
篠原 円香…、
-
瀬名 眞白
おいおい、図星かー?

-
篠原 円香す、すみません、僕、
-
瀬名 眞白
まーどーかっ。

-
篠原 円香はいっ、
-
瀬名 眞白
―――

-
円香の顔に自分の顔をグイッと近づけて、《ひょっとこのお面》みたいな変顔をして見せる。
-
篠原 円香…ッ?!
-
篠原 円香っふふ…っ、あははっ、はははっ!
-
瀬名 眞白
俺の変顔、なかなかウケるだろ?

-
篠原 円香普段がかっこいいからっ、そのギャップが…っ、ふふふっ!
-
瀬名 眞白
いいか?
迷惑だとか、余計な事考えんじゃねー。
-
瀬名 眞白
肩の力抜いていこうぜ?

-
篠原 円香ッ、…は、はいっ!
-
瀬名 眞白
よしっ。

-
『最後まで走り切ってゴールをする』
-
それは、他の人からすれば些細なことかもしれないが、円香にとっては大事な目標。
-
瀬名 眞白
一緒にゴールしようぜ?

-
篠原 円香はいっ!一緒にゴールします!
-
その完遂を願って、互いの拳を合わせてフィストバンプを交わした。
-
NEXT
タップで続きを読む