3-4 悪い意味で驚いたわけじゃないんだが。

  • 武藤 勝生

    …―――あ、目を覚ましそう…、

  • 武藤 勝生

    眞白?聞こえる?

  • 鷹野 光星

    瀬名?俺の声が分かるか?

  • 瀬名 眞白

    ……、

  • 優しく響く二つの音を辿るようにして、うっすらと目を開く。

  • 瀬名 眞白

    …っ、

  • 鷹野 光星

    大丈夫か、瀬名。

  • 瀬名 眞白

    …ん…。
    俺…、

  • 鷹野 光星

    どうやら、熱中症になってしまったみたいだな。

  • 瀬名 眞白

    熱中症…。

  • 武藤 勝生

    気分はどう?マシになった?

  • 瀬名 眞白

    …ああ、たぶん、へーき…。

  • その音が鷹野と勝生の声だということを悟って、二人に向けてゆっくりと交互に視線を巡らせた。

  • 武藤 勝生

    良かったぁ…。
    どうなることかと思ったよ…。

  • 安心したように微笑んだ勝生は、床上にペタリとへたり込む。

  • どうやら俺はベッドに寝かされていて、まっすぐ前を見るとこの部屋の白い天井が視界を埋めた。

  • まだほんの少しぼんやりする頭の中で、朧気な記憶を引っ張り出す。

  • 瀬名 眞白

    …えっと、鷹野の家に着いたんだっけ…?

  • 武藤 勝生

    うんそう、鷹野先生の家だよ。

  • 瀬名 眞白

    そっか…。

  • 瀬名 眞白

    ……

  • 瀬名 眞白

    (……え、…ってことは、今、俺…、)

  • 瀬名 眞白

    (鷹野のベッドで寝てる…?!)

  • 思わず飛び起きてしまいそうになる俺の両肩を、勝生が柔らかに押さえ付けた。

  • 武藤 勝生

    こらこら。
    急に起き上がったら、まだ眩暈とかするかもだぞ?

  • 瀬名 眞白

    い、いや、でも…、

  • 鷹野 光星

    もうしばらく、ゆっくり寝てなさい。

  • 瀬名 眞白

    でもここ、鷹野のベッド…、

  • 鷹野 光星

    嫌か?

  • 鷹野 光星

    ちゃんと毎日シーツや枕カバーを変えてるから、衛生面は悪くないと思うけど。

  • 瀬名 眞白

    ち、違う、嫌とかじゃねーよ、

  • 瀬名 眞白

    汗まみれの俺が寝っ転がってて悪いなって…。

  • この超絶だるい暑さの中、駅からの道のりを汗だくで歩いてたから、俺の体は決して綺麗じゃないのに。

  • 鷹野 光星

    そんなこと気にしなくていい。

  • 鷹野 光星

    大丈夫だから。

  • 瀬名 眞白

    ……ぅ、ありがと…。

  • マジで、申し訳ない。

  • 武藤 勝生

    そうそう、先生の応急処置が神業でさ。

  • 瀬名 眞白

    …「神業」?

  • 武藤 勝生

    眞白が完全に意識を失う前に、手際よく水分補給させてさ。

  • 瀬名 眞白

    ……そういえば、途中でなんか飲んだ気がする…。

  • 武藤 勝生

    だろ?

  • 武藤 勝生

    その後すぐに眞白を抱きかかえてベッドまで運んで、頭や体を冷やしてさ。

  • 瀬名 眞白

    えっ――…「抱きかかえて」?!

  • 瀬名 眞白

    (汗だくの俺を、鷹野が?!)

  • それはもう、神としか言いようがない。

  • 武藤 勝生

    まるでこう…王子様みたいにさ、軽々と。

  • 瀬名 眞白

    …マジか…。

  • 瀬名 眞白

    (意識なかったのがマジで残念すぎる)

  • 瀬名 眞白

    (王子様みたいな鷹野、見たかった…)

  • 鷹野 光星

    武藤、「王子様」は言い過ぎだろう。瀬名が驚いてる。

  • 瀬名 眞白

    いや、別に俺は…。

  • 悪い意味で驚いたわけじゃないんだが。

  • 武藤 勝生

    でも、めっちゃイケてたし。

  • 瀬名 眞白

    (そうそう、それだよ…。かっこよすぎる鷹野を間近で見たかったなって思っただけで)

  • 武藤 勝生

    先生ってスリムなのに、見た目と違って力あるよなー。

  • 鷹野 光星

    ははっ、ここぞってときにはパワーが出るんだよ。

  • 瀬名 眞白

    …鷹野は、生徒のことになると一生懸命だから。

  • 武藤 勝生

    っていうか、

  • 武藤 勝生

    『眞白想い』なんだよな、先生は。

  • 瀬名 眞白

    そ…そんなことねーよ。なっ、鷹野っ。

  • さらりと悪びれずに言い放った勝生に、ちょっぴりドギマギしてしまう。

  • 『眞白想い』は俺にとってはお気に入りのフレーズだけど、やっぱり、鷹野にしてみれば心外だと思うから。

  • この間の喧嘩トラブルの際にも勝生から聞いたこのフレーズを、あのときのようにストレートに嬉しいと思う前に、今回は遠慮に比重が傾いた。

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