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繰り出される拳を難なく交わしながら感覚を研ぎ澄ますように立ち回り、短く吐き出す怒声。
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相手を殴る鈍い感覚は皮膚や骨を冷たく打ち砕くようでいて、意外にも生温かい。
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ほんとは、問答無用で柔らかいものを圧し潰すようなこの[#ruby=温_ぬる#]い感触が好きじゃない。
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人を殴る…という行為の残虐性を、毎回思い知るからだ。
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好きじゃないから、中学を卒業してからは、できるだけ喧嘩はしないって決めてたのに。
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瀬名 眞白
…っ!オラッ!!

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それでもやっぱり、やらなきゃならないときってある。
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瀬名 眞白
……ッ、

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死闘的な殴り合いが終わる頃はいつも、砂嵐のように濁っていた空気が澄んで一帯が静まり返ったようになる。
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見慣れたといえる光景。
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赤い血で汚れた拳に舌打ちをしながら、乱れた呼吸を整えた。
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目の前に広がるのは、呻きながら寝転がる喧嘩相手の3人。
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『もう勝ち目がない』『あちこち痛くて動けない』
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それは、こいつらも十分に分かっているはずだ。
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瀬名 眞白
……、

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「ここで引いてやらねーと」
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そう思ってはいるのに、こいつらが山那に対してやろうとしてたことを考えると、俺の中でまだ怒りが収まらない。
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それに今後、山那以外にもこいつらの餌食になる人が増えたとしたら困る。
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瀬名 眞白
(…卑劣すぎて、反吐が出る)

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瀬名 眞白
なあ。
俺、マジでこういうの嫌いなんだけど。
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--…っ、う、
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瀬名 眞白
首謀者は、なんちゃって優等生なおまえだよな?

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瀬名 眞白
『二度とこんなことしません』って覚えさせとくか、おまえのその体に。

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言いながら、優等生風のそいつに静かに歩み寄った。
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-瀬名…っ、もう、許してやってくれ…!
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瀬名 眞白
…は?なに言ってんの?
知らね。
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少し離れた地面から声を振り絞ってくるのは、ヤンチャ風の野郎…か。
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もう一人の寡黙なヤツは…気絶中か?
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一言も喋らず、ただ俺に殴られに来たようなもんだな…笑える。
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-瀬名っ…!
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瀬名 眞白
知らねーなあ…、

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瀬名 眞白
おまえ、俺が誰だか分かってて言ってるんだよな?

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-分かってる!分かってるから…っ、
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-だからこそ頼むよっ…!瀬名っ…!
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瀬名 眞白
黙って寝てろ。

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這いつくばったまま動けないそいつに向けて、低く吐き捨てる。
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歩を進めた先の足元で、いまだに起き上がれず悶える『優等生風ゲス野郎』に視線を落とした。
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瀬名 眞白
…まだ意識あるかー?

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--ッ、…うぅ…、
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瀬名 眞白
おっ、ちゃんと起きてるな。

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瀬名 眞白
起きてねーと意味ねえからさ。

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--…、え、
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瀬名 眞白
なあ、おまえさ、

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瀬名 眞白
『サッカーボールキック』って知ってる?

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--っ、…さ、「サッカーボール」…、?
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瀬名 眞白
総合格闘技の蹴り技だよ。見たことある?

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--…ごっ、ごめんなさい、知らないですっ…、
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瀬名 眞白
あ、そ。

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瀬名 眞白
じゃ、体感させてやるよ。

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こいつに恐怖を植え付けるために、今から起ころうとしている現実をじわじわと伝える。
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もう二度と、卑劣な真似をしないように。
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瀬名 眞白
顔面、狙うから。

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--え…っ?!がが、顔面?!
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--「顔面」って…、
え…?! -
瀬名 眞白
「顔面」は「顔面」だろうが。
おまえの顔面。
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瀬名 眞白
しばらくの間、自分がやろうとしてたことを深く反省しながら、

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瀬名 眞白
治療に専念しろ…な?

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--ひっ…!も、もうしませんっ!絶対にっ!!
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--許してくださいっ…!!
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瀬名 眞白
黙れ。

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躊躇うことなくスッと右足を後ろにずらして、そいつの顔面目掛けて蹴り込もうとした……
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――そのとき。
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鷹野 光星やめろ!!瀬名っ!!
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瀬名 眞白
…――!?

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繰り出そうとした足をピタリと止める。
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それは一時停止したみたいな挙動。
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鷹野の切羽詰まったような喚声が俺に届いてなかったら、俺は足を止めることなくこいつの顔面に迷わず蹴りを入れていた。
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鷹野 光星もうそれ以上、何もするな!!
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瀬名 眞白
…、鷹野…?

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まるで何かの催眠から覚めたかのようにきょとんとなる。
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振り返ると、鷹野と数名の男性教員が慌てて駆けて来るのが見えた。
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