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︙
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瀬名 眞白
(俺の休憩中と鷹野の来店が被らないようにしねーと…)

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もしも休憩中に鷹野が来てすれ違いで会えなかったら、それこそ洒落にならない。
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そんなことを切実に思いながら、空いた机の上をアルコール消毒液で拭いていると、背後から誰かが俺の肩を急くようにポンポンと叩いた。
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瀬名 眞白
…ん?山那?

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山那 みさき眞白、ちょっとお願いがあるんだけど…。
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振り返って見下ろした先には、クラスメイトの山那が遠慮がちにちょこんと立っている。
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瀬名 眞白
どうした?

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山那 みさきもうすぐ休憩?
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瀬名 眞白
そうだけど…、

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瀬名 眞白
あ。一緒に飯食うとか嫌だからな?
女子の飯って長げーから。
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前にも女子たちから誘われた経験を、苦笑交じりに伝える。
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いつもの山那なら、笑いながら言い返してくるはず…なんだが。
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山那 みさきううん、そういうんじゃなくて。
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なんだかいつもと違う切羽詰まったような雰囲気を感じる。
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瀬名 眞白
…長時間の拘束は困る。

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瀬名 眞白
そうじゃねーなら、聞ける範囲で聞くけど?

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山那 みさきうん、えっと…、たぶん大丈夫だと思う。
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山那の言う「大丈夫」は拘束時間のことを言ってるのだと思うが、
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なんとなく短時間で済むような話ではなさそうな気がして、ほんの少し胸騒ぎがした。
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だけど。
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瀬名 眞白
あと5分くらいで休憩に入るから、ちょっと待ってろ。

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山那 みさきうん、分かった…、
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山那 みさきありがと…ごめんね。
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この様子じゃ、ほっとけねーか。
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︙
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二人で廊下を歩きながら、山那の話に耳を傾ける。
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内容は、恋愛がらみというか。
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同じ高2の男子から付き合ってほしいと言われて、
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大学生の彼氏がいる山那はそれを伝えて断ったそうだが、信じてくれないどころかアプローチも増える一方で。
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バイト先の客でもあるため無下にもできず、
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色々と考えた結果、今日の学園祭に彼氏に来てもらって嘘ではないということを分からせるつもりらしいのだが。
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瀬名 眞白
(…で、なんで俺にお願い?)

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いったい何をお願いされるのだろうかと、ひとまず黙って引き続き山那の声を拾う。
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山那 みさきほんとに来るのかなって思って約束の場所に見に行ったら、ちゃんと来てて…。
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瀬名 眞白
そりゃ来るだろうよ。

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瀬名 眞白
そいつ、おまえに気があるんだろうし。

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山那 みさきうん…。
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山那 みさきあの、それでね、
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山那 みさき彼氏が学園祭に来るために昨日からうちに泊まってるんだけど、熱が出ちゃって…。
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瀬名 眞白
…は?熱?

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山那 みさき…うん。
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瀬名 眞白
それは……大変だな。

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瀬名 眞白
(いざってときに、使えねー…)

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山那 みさき今、「使えない」とかって思ったでしょ?
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瀬名 眞白
いや…、

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山那 みさき……
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瀬名 眞白
……バレたか。

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山那 みさきもうっ。
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瀬名 眞白
別に悪い意味じゃねーよ?

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瀬名 眞白
『いざってときに残念だなあ』って思っただけで。

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山那 みさきそれってなんか、嫌味でしょー!
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瀬名 眞白
嫌味じゃねーよ、素で思った。

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山那 みさきもうー!
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瀬名 眞白
冗談だよ。

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瀬名 眞白
それより、熱はどれくらいあるんだよ?

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山那 みさき…39度超え。さすがに無理させたくなくて。
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瀬名 眞白
高熱だな。そりゃ無理させられねーわ。

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瀬名 眞白
彼氏さんは山那のために、『熱があっても行く』って思ったかもしれねーけどな。

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鷹野のためだったら、死にかけてても行くわ、俺。
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山那 みさきりっくんは、もともと体が弱いから。
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瀬名 眞白
「りっくん」?!

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山那 みさき『りんと』だから『りっくん』なの。
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瀬名 眞白
ほおー…。

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そういった呼び方を聞くと、自分じゃなくても照れる。
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俺も小学校低学年くらいの時に、友達から『まーくん』って呼ばれてたことがあるけど。
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瀬名 眞白
(今そんな呼び方されたら、恥ずかしくて耐えられねーかも)

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瀬名 眞白
(……いや、でも…)

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鷹野から、優しく『まーくん』って呼ばれたとしたら…。
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瀬名 眞白
(―――…ヤバイ、まんざらでもねえ)

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山那 みさき……、ちょっと、聞いてる?眞白?
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瀬名 眞白
――あ、ああ。聞いてる聞いてる。

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瀬名 眞白
(…っと、ニヤけそうになったわ)

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山那 みさきりっくん、季節の変わり目とか体調崩しやすいのに遠いところから時間を割いて来てくれたから、体調崩しちゃったんだと思う。
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瀬名 眞白
せっかく来たのに、気の毒だな。

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『けど、いざってときに役に立たないのは、やっぱ残念でしかねー』
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悪気はなくてもその言葉は、また山那がむくれそうだから言わずに飲み込んだ。
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