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大盛況の【Café 2A-Style】だが、今日までにクラス内でちょっとした諍いがあった。
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『模擬店で出す珈琲と紅茶はホットだけでいい』と主張する女子たちに、
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『5月は暑い日もあるから、アイス珈琲やアイスティーを用意しておいた方がいい』と、俺が主張したためだ。
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『天候によってはまだ涼しい日もあるかもしれないし、予算の都合もあるから』と反論する女子たちに向けて、『少なめでもいいから用意しよう』と食い下がり、
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それでも不服そうにする女子たちに向けて、『売れ残った分は、俺が買い取ってやる』と押し切った。
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高校に入ってからの小遣いはすべてバイト代で賄ってるから、もちろんがっつり身銭を切る。
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というか、2リットルのペットボトルの4ケースくらい、売れずに全部残ったとしても買い取ってやる。
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…そして、今日。
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偏西風の影響か、少し肌寒い。
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女子たちは、冷たい飲み物の売れ行きの悪さを嘆いていたが、
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最初から俺は、気温や売上のことを第一に考えてコールドドリンクの必要性を主張したわけじゃない。
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俺の狙いは、実は全然別のところにあった。
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*先生、飲み物は珈琲か紅茶のどちらにします?
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*少し肌寒いから、ホットの方がいいですよね?
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黒木 紗衣えっと…うん、
でも私、冷たい飲み物が好きだから、アイスティーにしようかな。 -
*えっ、結構寒いのに?冷たい飲み物で大丈夫ですか?
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黒木 紗衣うん、平気。
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瀬名 眞白
……

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やっぱり、思ってたとおり。
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黒木は高確率で冷たい飲み物を選ぶと思っていた。
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過去に大きな火傷を負ったことがある人は、その火傷の辛さがトラウマになって、熱いものに対して臆病になってしまうのでは…?と。
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だから、このケーキセットに付随した飲み物にも、コールドドリンクが必要だと考えた。
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瀬名 眞白
(用意しておいて正解だったな)

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余った分を全て買い取ったとしても黒木がアイスティーを選んだことで、俺にとっての無駄ではなくなった。
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*え、ほんとにいいの?先生、
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瀬名 眞白
冷たいのがいいって言ってんだから。

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瀬名 眞白
アイスティーでいいんだよな、先生?

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黒木 紗衣うん。アイスティーでお願い。
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*分かりました…、じゃ、先生、少々お待ちを。
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黒木 紗衣よろしくー。
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淡いピンクのエプロンを翻して厨房エリアに戻るそいつの背を見送っていた黒木が、不意に俺に視線を移した。
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黒木 紗衣…ね、瀬名くん。
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瀬名 眞白
ん?なに?

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黒木 紗衣この間、鷹野先生から少しだけ話を聞いたよ。
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瀬名 眞白
えっ、

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黒木 紗衣鷹野先生に、瀬名くんは喝を入れてあげてくれたんだね。
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瀬名 眞白
いや、まあ…、
そんなたいしたことしたつもりねーんだけど…。
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黒木 紗衣鷹野先生、とても嬉しそうだった。
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瀬名 眞白
そ、そっか。

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瀬名 眞白
(つーか、そんなの聞いたら俺が嬉しいわ)

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鷹野が喜んでくれていたのはなんとなく分かっていたけど、誰かから又聞きするとさらに嬉しさが募る。
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黒木 紗衣私も、鷹野先生がずっと気遣ってくれてるのが心苦しくて…、
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黒木 紗衣でも、それを私が拒絶したら、それこそ鷹野先生がもっと傷つくんじゃないかって思うと、どうしたらいいのか分からなくなってて。
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瀬名 眞白
……だよな。

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黒木 紗衣でもやっと、私も鷹野先生も抜け出せた。
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黒木 紗衣瀬名くんのおかげだよ。
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瀬名 眞白
…良かったよ、二人とも大丈夫で。

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黒木 紗衣あなたのおかげで、『本来の鷹野くん』と改めて再会することができたよ。ありがとう。
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その場でペコリと丁寧にお辞儀をした黒木の視線の先には、膝上にきちんと揃えたアームカバーの両手。
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下げていた頭を戻した黒木はその片手を少しだけ上に掲げると、探るように俺を見上げた。
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