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一呼吸ついた鷹野はどこか遠くを見るように視線を馳せて、静かなトーンで声を紡ぎ始めた。
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鷹野 光星…大学のとき、サークル活動の一環でみんなでキャンプに行ったことがあって。
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鷹野 光星俺は、キャンプファイヤー用の薪を他の奴らと用意してて、幾つかの残った薪を飯盒を炊いてた焚火にくべようとしたんだけど、
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鷹野 光星そそっかしいから、河原の石ころに足元を取られてバランスを崩してしまって、飯盒を炊いてる焚火に倒れ込んだんだ。
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鷹野 光星そのときに、すぐそばで火の加減を見てくれてた黒木先生が咄嗟に俺のことを庇ってくれて…、
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鷹野 光星そのせいで、先生の両手に煮え滾った飯盒の中身のほとんどがかかってしまったんだよ。
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瀬名 眞白
マジか…。

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鷹野 光星黒木先生のおかげで、俺は無傷。
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鷹野 光星でも、先生はかなりの火傷を負って、両手に大きな痕が残ってしまった。
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鷹野 光星男の俺が火傷すればよかったのにって、何度も思った。
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鷹野 光星でも、黒木先生は「気にしなくていい」って言い続けてくれていたし、在学中もずっと変わらず良い先輩でいてくれて…、
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鷹野 光星それでも、季節を問わずアームカバーで火傷の痕を隠しているのを見ていたら、やっぱり辛くてさ。
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瀬名 眞白
……

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鷹野 光星大学を卒業した後は疎遠になってたんだけど、
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鷹野 光星偶然にも、この学校でお互い教師として再会して…、
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鷹野 光星黒木先生は再会をすごく喜んでくれて、火傷のことをおくびにも出さずに接してくれてるけど、
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鷹野 光星俺は…、正直、この再会が辛かった。
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瀬名 眞白
…鷹野…。

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鷹野 光星『俺のせいだ』っていつも思い知らされるから。
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鷹野 光星…情けないだろ、副担がこんなで…。
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鷹野が黒木をいつも気に掛けていたのは、せめてもの償いのため。
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瀬名 眞白
……情けなくなんかねーよ。

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瀬名 眞白
そんなことがあったから、鷹野なりに黒木のことを支えてたんだな…。

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鷹野 光星この学校で、俺の存在が少しでも黒木先生の役に立ってるといいんだが、
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鷹野 光星実際に、先生がどう思っているかは聞いたこともないし…分からないけどな。
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瀬名 眞白
……

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自嘲気味に短く笑う鷹野の姿に胸が締め付けられるようで、思うように次の言葉が出てこなかった。
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何もしていない他の誰かを自分のせいで傷つけてしまうとか、きっと想像を遥かに超えた自責があって、
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喧嘩して人を殴ったり殴られたり、相手に怪我をさせて自分も怪我をさせられた…俺が経験したそんな浅はかで粗暴なこととは全く違う。
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鷹野の抱えてる辛さは、俺みたいなヤツが「分かるよ」なんて軽々しく言えるものじゃない。
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瀬名 眞白
(でも、じゃあこの話を聞いた俺は、どう答えればいい…?)

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話の流れとはいえ、せっかく鷹野が吐露した苦しい胸の内。
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俺は、今の鷹野になにを言えばいいのか……今の鷹野を、どうしてやればいい?
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瀬名 眞白
……、

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俺にとって鷹野は特別な存在で、大好きな人だ。
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でも、大好きだからって、特別だからって…、
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まるで腫れ物に触るようにただ黙って寄り添えば、鷹野にとってそれは活きてくるのか?
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瀬名 眞白
………ならねーな。

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鷹野 光星…えっ?
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黙って寄り添うことも大事なときがあるのは分かる。
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けど、今後の鷹野のためにも、今はそれじゃダメだ。
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瀬名 眞白
それ…違うわ、鷹野。

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鷹野 光星え…?
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瀬名 眞白
そ。「違う」んだよ。

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やっぱそれ、ぶっ壊してやらねーと。
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