ウシジマくん呟き

彼女候補3

2026/02/05 18:24
柄崎到着ネ!な、小話。

事務所のドアを開けると、中はいつもと同じ匂いだった。
紙と、古いエアコンと、少しだけ籠もった空気。

「……社長」

声を出す前に、社長の姿が視界に入る。
デスクに座って、書類を見ている。
顔も上げずに、低く言う。
「…柄崎、…来たか」
それだけ。
理由を聞かなくても、来たこと自体が答えみたいなやり取り。
「……そこ」
顎で示された先に、段ボールが積んである。
新品じゃない。
角が少し潰れて、何度も開け閉めされたやつ。
「……名簿だ」
短く。
「……棚、空いてる」
説明は、それで終わり。
「…あ、…はい」
柄崎は、自然に段ボールに手をかける。
重さを感じて、一瞬だけ腕に力を入れる。
嫌だとは、思わない。

(……社長に言われた仕事だし)

それ以上でも、それ以下でもない。
段ボールを開けると、中は紙の束。
名前。
番号。
規則正しく並んだ文字。
あまり気持ちのいいものじゃない。
でも、顔には出さない。
棚の前で、社長が指示を出す。
「……それ、上」
「……古いの、奥」
声は低くて、無駄がない。
柄崎は、黙って従う。
二人で並んで、同じ棚を見て、
同じ作業をする。
会話はない。
でも、気まずくもない。
最後の箱を入れて、位置を揃える。

「終わりました」

社長は、立ち上がって一度だけ確認する。
指で、箱を軽く押す。
「……助かった」
それだけ。
でも、その一言で十分だった。
少し間。
社長が、ジャケット代わりのパーカーを
軽く整える。

「……これから」

一拍。

「……飲みに行くか」

まるで、作業の続きみたいな言い方。

柄崎は、
反射で答える。

「……はい!」

声が、少しだけ明るくなる。
社長は、それを咎めもしない。
鍵を取って、電気を消す。

「……行くぞ」
「はい!」

事務所を出る。
——この時点では、
ただのいつもの流れ。
呼ばれて。
手伝って。
飲みに行く。
それだけの夜。
この先、あんなふうに
一緒に眠ることになるなんて、まだ、考えてもいなかった。

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