ウシジマくん呟き

社長の介抱

2026/01/19 00:23
夜10時すぎ。柄崎は両手にコンビニ袋を提げて、マンションのエントランス前に立っていた。

中身はポカリ、ゼリー飲料、冷えピタ、薬、レトルトのおかゆ、それに社長がいつも飲んでる無糖の缶コーヒー。

(いらないって言われるかもな……)

そう思いながらも足は止まらなかった。呼ばれてなんかいない。けど、行かなきゃと思った。

オートロック越しにインターホンを押す。

「……誰だよ……」

掠れた声が返ってくる。

「柄崎です」

少し間があって、ブザーが鳴り、ロックが解除される。

(……開けてくれた)

柄崎は袋を提げたままエレベーターで部屋に向かい社長の部屋の前に立った。ノックする間もなく、ドアが少し開いて、白いTシャツ姿の社長が現れる。

髪は濡れたまま、グレーのスウェット。顔は赤く、目がうつろ。

「……なんで、来た」

「来るなとは言われてなかったので」

「……言わなくても、わかれよ」

「わかりません。心配でした」

社長は壁にもたれて、かすれた声でぼそっとこぼす。

「……お前じゃねぇと、ダメだ……とか……言ってねェのに……」

その一言に、柄崎の胸が跳ねる。

「……社長。『言ってない』って、思ってないってこととは違いますよね」

「調子に乗んな、アホ」

「へへ……」

社長はそのままソファへ歩き、ふらつきながら座り込む。

柄崎が飲み物や冷えピタを準備していると、社長の身体が無言でほんの少し傾いてくる。

甘えるでも、もたれるでもない。けど――近い。

(……今だけ、許されてるんだ)

「社長、少しだけ……このままで、いてもいいですか」

「ダメ」

「でも、どかしてないじゃないですか」

社長は返事をせず、わずかに肩の力を抜いた。

柄崎は冷えピタを替え、汗を拭き、そっとポカリを差し出す。

社長は無言でそれを受け取り、ぐいっと口にする。

「……甘ぇな、これ」

「……それ、コーヒーじゃなくてポカリです」

「……」

熱で意識がはっきりしない社長が眉を寄せ本当にコーヒーではないのか確かめる様子に柄崎はふっと笑った。

沈黙が落ちる。

数秒後、柄崎がゆっくりと声を落として言う。

「……社長。俺がこうして来るの、めんどくさいですか」

社長は黙ったまま、視線だけを柄崎に向けた。

その目には、怒りも呆れもなくて。ただ、眠たげで、少し熱に浮かされたまま――まっすぐだった。

「……めんどくさかったら、鍵開けねぇよ」

それだけを言って、社長はまたポカリを一口飲んだ。

柄崎は、何も言わずに小さくうなずいた。

そのうなずきには、「また来ます」という意味が込められていた。

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