ウシジマくん呟き

パフェ

2026/07/01 19:47
喫茶店だった。
昼下がり。
窓際の席。
向かいには債務者。
青い顔で俯いている。
社長は目の前の債務者をじっと見る。

「で」

「今日は払えんのか」

店内の穏やかな空気とはまるで合わない。
債務者は肩を震わせる。

「……す、すみません」

「聞いてねぇ」

柄崎はその隣でメニューを眺めていた。

「社長、俺これ頼んでいいっすか」

「勝手にしろ」

「やった」

数分後。
店員が大きなパフェを運んできた。

「おっ……」

柄崎の目が丸くなる。

「写真よりでけぇ……」

嬉しそうに身を乗り出す。

「美味そうっすね」

その横で。
社長は自分のパフェへスプーンを入れた。
一番上に乗った苺を取る。
迷いなく口へ運ぶ。
柄崎が黙って見ていた。

「社長って」

「好きなもん先に食うタイプっすか?」

社長は横目だけ向ける。

「……それ知ってどうすんだよ」

「いや」

柄崎は笑う。
悪戯を思いついた子供みたいに、自分のパフェへスプーンを伸ばし、一番上の苺を一つ。

社長の皿へ乗せる。
もう一つ。
もう一つ。
全部。
赤い苺だけが社長のパフェへ山になる。

「まだ口つけてないんで」

得意げだった。
社長はしばらく苺を見る。
それから柄崎を見る。

「……それじゃお前のパフェ」

「苺パフェじゃねぇだろ」

柄崎はもうアイスをすくっていた。

「いいんすよ」

一口。

「うまっ」

満足そうに頬が緩む。

「社長の方」

「苺山盛りで更に美味そうじゃないですか」

本気でそう思っている顔だった。
社長は何も言わない。
債務者は二人を見て固まっている。
店の空気だけが妙に平和だった。

「……アホかお前」

小さく呟く。
柄崎は首を傾げる。

「何がっすか」

「別に」

社長は苺を一つ口へ入れた。
甘い。
少し酸っぱい。
視線の先では。
柄崎が苺のなくなったパフェを。
何の不満もなく美味そうに食べている。
自分は損をしたなんて。
一欠片も考えていない。
ただ。
社長が喜ぶかもしれない。
それだけで。
迷いなく全部渡してしまう。
そういう人間だ。
頼んでもいないのに。
見返りも求めず。
当たり前みたいに。
自分より先に。
こちらのことを考える。

――無意識にそんなことをするな。

胸の内だけで呟く。
そんな顔をされたら。
そんなふうに笑われたら。
気付かないまま受け流せるほど。
自分は鈍くない。

「……食え」

苺を一つ。
社長は柄崎のパフェへ戻した。
柄崎はきょとんとしたあと。

「いいんすか」

と笑う。
その笑顔を見て社長はまた小さく息をついた。

本当に。
厄介な男だと。

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