ウシジマくん呟き

2026/06/30 21:31
社長って柄崎にだけ絶対特別だよな。
絶対、柄崎だけ好きだよ。




夕方だった。
回収を終え、二人で事務所へ戻る途中。
空が急に暗くなる。

ぽつり。

頬に一粒。
続けて、大きな雨粒がアスファルトを叩き始めた。

「降ってきた」

柄崎が空を見上げる。
社長は眉をしかめた。
服が濡れるのが嫌なのだ。
近くにコンビニが見えた。
二人は駆け込む。
店内へ入ると、雨脚は一気に強くなった。
ガラス越しに見る外は白く煙っている。

「結構降ってきましたね」

柄崎が傘立てへ向かう。
しばらくして戻ってきた。
手には一本だけ。

「最後の一本でした」

そのままレジへ持っていく。
会計を済ませると、袋から取り出し社長へ差し出した。

「どうぞ」

社長は受け取らない。

「お前は」

「俺は平気っす」

柄崎は笑う。

「ここから近いですし」

社長は黙っている。

「走ればすぐなんで」

柄崎は店の入口へ向かう。

「じゃ、先戻ってます!」

自動ドアが開く。

雨音が一気に大きくなる。

その瞬間。

後ろから腕を掴まれた。

「待て」

社長だった。
傘を開く。
静かな音が鳴る。
それを柄崎の方へ傾ける。

「二人で入ればいいだろ」

柄崎は目を丸くした。

「でも」

「早くしろ」

短い一言。
並んで歩き始める。
柄崎は遠慮して少し外へ寄った。
社長の肩が濡れないように。
そのせいで、自分の腕へ雨が当たる。
ぽたぽたと袖が濡れていく。
何も言わず。
社長が一歩近付いた。
傘がさらに柄崎側へ寄る。
今度は社長の肩口が雨に打たれ始めた。

「社長」

返事はない。

「⋯濡れますよ」

前だけを見たまま歩いている。
柄崎は困ったように笑う。

「俺、本当に平気なんすけど」

「知るか」

ぶっきらぼうな声。
それきり何も言わない。
事務所へ着く頃には。
柄崎はほとんど濡れていなかった。
代わりに。
社長の右肩だけが少し色を変えていた。
柄崎はその濡れた肩を見つめる。
胸の奥がじんわりと温かくなる。
言葉にはしなかった。

きっと。

こんな優しさは。

自分だけが知っていれば、それで十分だと思った。

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