ウシジマくん呟き

タヒネタ

2026/06/20 14:15
生きることそのものものに相手が染み込んでしまっている喪失感柄崎が好き。










社長がいなくなって一年が過ぎた。
柄崎はちゃんと生きていた。
仕事へ行く。
飯を食う。
笑う。
新人と馬鹿な話もする。
周りから見れば何も変わらない。
だから皆、もう大丈夫だと思っていた。
柄崎自身もそう思おうとしていた。

朝。
コンビニでコーヒーを買う。
無意識に二本手に取る。
レジへ向かう途中で気付く。
一本戻す。
そんなことがある。

信号待ち。
横を見る。
誰もいない。
それなのに。

「遅ぇ」

そんな声が聞こえた気がする。
振り返る。
当然。
誰もいない。

夜。
テレビを見ている。
芸人がくだらないことを言う。
少し笑う。
その直後。
社長なら鼻で笑ったな。
そう思う。
笑えなくなる。

別に泣かない。
泣く時期は終わった。
ただ。
何をしていても思い出す。
あまりにも自然に。

ある日。

新人に聞かれる。

「柄崎さん、彼女とか作らないんすか」

笑う。

「作んねぇよ」

「なんでですか?」

「なんか、面倒だから」

嘘だった。
本当は。
誰かを好きになるのが怖かった。
新しい誰かを大切にしたら。
社長が遠くなる気がした。
新しい思い出が増えるほど。
昔の時間が薄れていく気がした。
だから進めない。
進みたくないわけじゃない。
前へ進めば。
社長を置いていく気がする。

その夜。
携帯を開く。

連絡先。
社長の名前。

まだ残っている。
消そうと思ったことは何度もあった。
でも、できなかった。
トーク画面を開く。

仕事の連絡ばかり並んでいる。

『現場変更』

『了解です』

『遅れる』

『分かりました』

『飲みに行くか』

『行きます』

思い返せば。
驚くほど味気ない。
それなのに。
何度も読み返してしまう。
指が動く。

社長。

文字を打つ。
そこで止まる。
返事なんて来ない。
既読も付かない。
分かっている。
それでも。

社長。

今日。

少しいいことがありました。

そこで手が止まる。

違う。
本当に言いたいことは。
そんなことじゃない。
嬉しいことがあったから伝えたいんじゃない。
嫌なことがあったから聞いてほしいんじゃない。

ただ。

まだそこにいてほしい。

それだけだった。

携帯を閉じる。
目を閉じる。

社長がいなくなって一年。

柄崎は生きている。
ちゃんと。
前を向こうともしている。
それでも。
歩いていても。
飯を食っていても。
笑っていても。
ふとした瞬間に思う。

社長。

今日も。

会いたかったです。

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