ウシジマくん呟き

新人の歓迎会

2026/06/13 18:44
柄崎のぷち嫉妬ちゃん見たいなぁ

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「今日は歓迎会だからな」

夕方。仕事がひと段落した事務所で社長がそう言った。新人が勢いよく返事をする。高田は少し前に先に出ていた。店の予約だ何だで、一足先に向かったらしい。

柄崎は返事をしなかった。パソコンの画面を眺めたまま、キーボードを叩く手だけを動かしている。

「柄崎」

名前を呼ばれ、ようやく顔を上げた。

「行くぞ」

当然のような声だった。
けれど柄崎は首を横に振る。

「今日はやめときます」

社長の眉がわずかに動く。

「体調悪いのか」

柄崎は首を振った。

「いや」

「じゃあ何だ」

答えに詰まる。
本当の理由なんて言えるわけがない。
最近ずっと胸の奥に引っ掛かっているもの。
新人が入ってからずっと消えないもの。

「気分です」

我ながらひどい言い訳だった。

社長もそう思ったらしい。

露骨に顔をしかめたが、それ以上は追及しなかった。

「そうか」

短く返し、立ち上がる。
それから新人へ視線を向けた。

「高田はもう店か」

「あ、高田さん先出ました!」

新人が慌てて頷く。

「じゃあ先に行け」

 「え?」

新人が目を丸くした。

「歓迎会だろ」

「社長は?」

「後で行く」

新人がもう一度固まる。
柄崎も動きを止めた。
後で行く。
その言葉だけが妙に耳に残った。
そのまま出口へ向かう。
最近よく見る背中だった。

新人と話している姿。

新人を連れて飯へ行く姿。

新人を小突いて叱る姿。

もちろん仕事だ。

そんなことは分かっている。

分かっているのに、胸の奥がざらつく。

社長の手がドアノブへ伸びる。

その瞬間だった。

「待ってください」

自分でも驚くほど大きな声が出た。
社長の足が止まる。
新人も固まる。
柄崎自身も固まった。
何を言っているんだ。
何で呼び止めた。
今すぐ取り消したかった。
けれどもう遅い。

 「何だよ」

社長が振り返る。
柄崎は視線を落とした。
心臓がうるさい。
喉が詰まる。
言葉がまとまらない。

「今日は……」

何度も飲み込んだはずの本音が、勝手に口からこぼれる。

「行かないでほしいです」

静まり返った。
新人の顔が引きつる。
社長は無表情だった。
余計に怖い。
柄崎は拳を握る。

「社長と飯食いたいです」

言ってしまった。
子供みたいな言葉だった。
自分でも分かる。
けれど止まらなかった。

「⋯何言ってんだ」

低い声が返る。

「分かんないっす」

半分やけくそだった。

「でも嫌なんです」

声が少し震える。

「最近ずっとあいつといるじゃないですか」

新人が露骨に「俺?」という顔をした。
頼むから空気になっていてくれ。
柄崎は顔を上げられない。
胸の奥が痛かった。
羨ましいのか。
腹が立つのか。
そんな単純な話でもない。

ただ、以前みたいに自分を見ていてほしかった。

「俺よりそっち優先みたいで」

ぽつりと落ちた言葉に、自分で自分が嫌になった。
社長はしばらく黙っていた。
長い沈黙だった。
やがて大きな手が伸びてくる。

ごつん。

額を小突かれた。

「いてっ」

「アホか」

呆れた声だった。
社長は眉間を揉む。
本当に面倒な案件を抱えた時の顔だった。

「仕事だ」

「知ってます」

「新人だ」

「知ってます」

「じゃあ何だってんだよ」

それを聞かれても困る。
柄崎は黙り込んだ。
答えられない。
社長は大きく息を吐いた。
そしてふいに尋ねる。

「お前は何年いる」

柄崎は瞬きをした。

「……長いっすね」

「だろうな」

社長は頷く。

「今さら順番変わるか」

その一言だった。
胸の奥が熱くなる。
泣きそうになる。
顔を上げられない。
ずるい。
そんな言い方。
社長はさらに顔をしかめた。

「はぁ⋯面倒臭ぇな」

照れ隠しなのが丸分かりだった。

「お前は高田と行け」

社長が新人を指差す。

 「はい!?」

 「歓迎会はやれ」

 「え、でも」

 「後で顔出す」

新人は納得していない。
だが社長はもう聞いていなかった。
視線は柄崎に向いている。
 
「柄崎」

「はい」

「飯」

短い一言だった。
けれど十分だった。
柄崎は思わず笑う。

「⋯社長」

社長は嫌そうな顔をした。
そのくせ、事務所を出ていく足取りだけは少しだけ緩んでいた。

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